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~プロローグ~ 動き出す闇の一族

二十四の瞳。ウインク込みでカウント。

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「いいこと? 私の指揮を信じれば、勝利は間違い無しよ」

 浜辺に並ぶ一同を見渡し、鶴は開口一番そう言った。

 場所は小豆島の北部、かつて海水浴場だった浜辺である。

 整列した小豆島の守備隊は、人員わずか十数名ほど。誰もが不安げだったが、それもそのはず、彼らは実戦経験が無いのである。

 先の戦いで海を渡れる餓霊が現れたため、今後はどの島が狙われるか分からない。

 そのため、戦闘とは縁遠かったこの小豆島避難区にも、急ごしらえの守備隊が作られたわけだが……いわば寄せ集めの混成部隊。しかも実戦経験が無いとくれば、不安になるのも当然だろう。

 その緊張をとく訓示と言えば聞こえはいいが、鶴はいい事を言ってやろう、としたり顔で後ろ手を組み、一同の前をゆっくりと往復する。

「道すがら、この島の歴史を見たわ。確かこの島では、二十四にじゅうしの瞳とかいう、心温まるお話が作られたそうね。今のあなた達がまさしくそれよ」

「……あ、あの、よろしいでしょうか」

 守備隊のうち、髪の長い利発そうな少女が、遠慮がちに手を挙げた。

「よし、あなた」

 鶴は上機嫌で発言を許したのだが。

「あのお話って、確か悲劇じゃないでしょうか。何人も亡くなってますし……」

「えっ!?」

 鶴は動揺しつつ、肩に乗るコマに囁いた。

「こ、コマ、そうなの?」

「ちゃんと説明を読まないからだよ。戦いの悲劇を描いたお話だよ」

「やるわね、この鶴ちゃんにひっかけ問題とは」

 鶴は冷や汗をかきながら、その女の子に向き直った。

「……そ、そうね。でもその悲劇を塗り替えて幸せになりましょう、という意味で私は言ったの。そうすれば、『新説・ネオ二十四の瞳』という新たなる神話が、この島で始まるわ。大事なのは、希望を見い出す目力めぢからよ」

 鶴は強引に誤魔化すのだったが、少女の発言は止まらない。

「あの、それと目が24個以上ありますけど……」

 鶴はムムム、と唸って、端から何人かを指し示す。

「あなたとあなた、ここからここまでウインクして。そう、ずっとそうしてなさい」

 コマが見かねてツッコミを入れた。

「やめなよ鶴、どこの世界にウインクして戦う部隊がいるんだ」

「ええい、黙らっしゃい! これ以上は私語厳禁、疑問も異論も受け付けないわ!」

 鶴は強引に話を打ち切ってしまう。目を霊力で光らせ、一同を見渡して威圧したので、守備隊の子達は震え上がった。

「よし、それじゃ黒鷹。此度こたびの戦いについて、すんごく分かりやすく説明してあげて。鶴ちゃんと共に戦う上で、必要な心構えを伝えるのよ」

「えっ、そこで俺!?」

 誠は無茶振りに面食らったが、とりあえず目を閉じて腕組みする。

 鶴と戦ってきた幾多の場面を思い浮かべ、しばし思案してみたのだが……やはり結論は1つだった。

(………………うん、説明・無理っ!)

 誠は目を見開き、一同を見渡して言った。

「ヒメ子の戦いだけど……………………見れば分かるっ!!!」

 ええっ、とざわめく小豆島の面々だったが、鶴は満足げに頷いた。

「よしっ!!!!!」

「いやいや、よしじゃなくて! ちょ、ちょっと待って下さい!」

 あの利発そうな少女が、情けない顔で待ったをかける。

「もっと何かないんですか!? 私達初陣ういじんなんですけど、こう色々注意とか何とか……」

「いや無理だから。ヒメ子の戦いを口で説明とか、逆の立場なら泣くから多分」

 さもありなん、と満足げな鶴を尻目に、誠は一同を説得した。

「そもそも渡航戦は守る方が有利だし、ぶっちゃけ心配いらないから。ヒメ子がいる、それだけでお腹いっぱいだから」

「そう! さすが黒鷹はつるちゃんを分かっているわ!」

 鶴はますます満足げにはやし立てた。

「で、でも……」

 尚も不安げな守備隊の面々だったが、誠はそこで話をぶった切る。

「大丈夫、一度見れば分かる。悪いけど俺に言えるのはここまでだ」

「…………わ、分かりました」

 守備隊の子達はドン引きだったが、しぶしぶ納得してくれた。

「なあ鳴っち、話終わったんか?」

 近くに立つ人型重機の操縦席が開き、難波なんばが声をかけてくる。

 栗色の髪がライトを反射し、いかにも目立っているようだが、属性添加機で発生させた夜間用照明光ナイトアイは近距離で減光するので、遠くからは見えないのだ。

 彼女の傍には、他にも数体の人型重機が並んで、周りの警戒にあたっていた。

「説明が長いんで、ウチら待ちくたびれたで」

「そうだぜ隊長、さっさと片付けて、ここの避難区に挨拶に行こうぜ」

 小柄で活発そうな少年・宮島が、操縦席の隔壁コクピットハッチを開けて身を乗り出す。

「宮島の言う通りだな。あの時醤油をもらったおかげで、うまいうどんが作れたわけだし。施しに感謝するのは僧の基本だ」

 最後に顔を覗かせたスキンヘッドの香川の頭が、一際まぶしく輝いた。

 それは絶望の時代を照らす朝日のように神々しく、守備隊の少年少女は、思わず彼に手を合わせた。

 誠の隊のパイロットは、あと1人副官のカノンがいるのだったが、今はハッチを開いていない。真面目な性格なので、急な戦闘に備えて警戒しているのだろう。

 鶴はそこで高々と拳を振り上げた。

「よーしそれじゃ、待ち伏せの場所を作るわ。みんな、ちょっと離れてね」

 鶴が手を合わせて念じると、たちまち砂浜から無数の木々が伸びていき、巨大な林に成長した。

 林の前面には暖竹だんちくが生い茂り、外からは完全に奥が見えない仕様だ。

「よっしゃ、ほんなら隠れるで~」

 難波達は慣れた様子で林の後ろに移動するが、守備隊の面々は口をあんぐり開けて固まっている。

 誠は可哀想な彼らを見渡し、最大限の親切心で告げた。

「……経験者として言うけど、ヒメ子の場合、考えたら負けだから」
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