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一話 俺の人生詰み状態

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「どうしよ…」

目の前では子供たちが鬼ごっこをしている。
自分もあの子達のような年齢の頃は今日みたいな暑い夏でも友達と一緒に鬼ごっこやかくれんぼなどで汗をたくさんかきながらしていたなぁと思い出す。
あの頃はいつも遊び疲れて、家に帰りご飯をたくさん食べて、ぐっすりと寝ていた。
今日はうなされながら寝ることになるだろう…
昔のことを思い出すことで少しはこの不安を取り除けるとおもっていたが、心配という二文字が頭のなかをいつまでも駆け巡っていた。
深い溜め息をつくと、走り回っていた女の子がこちらへ来た。


「大丈夫?たくさん汗かいてるよ"おじさん"!!」

「だ、大丈夫だよ…ほら…君は早く友達と
遊んできな?子供の頃しかたくさん遊べないからさ…」

そう言うと女の子はうなずき手を振り去っていった。
普段の俺なら最近の子は他人の気遣いもできるのかと感心しているところだが、あの一言が心に刺さりすぎて感心するどころじゃなかった。

「そうか…俺も、もうおじさんか…」

確かにお兄さんよりかはおじさんの方があってるのかもしれないな…

「仕事…探さないとな…」

いつまでも終わらないセミの鳴き声、
そして、いつまでも照る太陽。
もう逃げ出したいくらいの条件が揃っているが、逃げてはいけない。
人生は逃げたらもう取り返しがつかないのだ。
ましてや社会人など絶対にしてはいけないことだ。
そんなことを考えながらInstagramを眺めた。

「お、直也が投稿してる…」

俺の大学の親友、直也は一流企業に就職、
その後、結婚し今では二児のパパだ。

「バーベキュー!!こんな暑い日にはこれに限る!!!」
おいおいやめてくれよ、その家族全員笑顔そして、ダブルピース…
今の俺に、希望ではなく絶望をもたらした一枚だった…
スマホの画面を叩き割りたくもなったが、子供らがいる前でそんなことはしてはいけない…

「やめだやめだ!」

今から幸せになろうとしても遅い、
ちょっぴりの幸運が必要なのだ、いまの俺には…

そんなことを考えていると、座っていたベンチの部分がちょうど木の日陰になった。
しかも、涼しい風も吹いてきた。
そうそう、こういうことだよこのくらいが俺にはちょうどいい…そして久しぶりの日向ぼっこをした。

「ん…??あれ…夕方…?」
結構な時間寝ていたのかもしれない。
いつもならお昼ごはんを食べて眠たくなりながら、あり得ないほどのノルマを越えるため死に物狂いで仕事をしていた時間だ。
今思うと結構ブラックな会社だったような気がする。

また大きな溜め息をついた。

(ひょっとするとあの会社を辞めることが出来て嬉しかったりして…
流石にそれはないか…
もう三十だし、これからのことを考えるとあの会社で定年まで働くのがベストなんだろうなぁ…)

こんなことを考えても意味がないことにほんの少し気づいていたのだが、少しでも不安から解消するためにこれからのこととか、あまり考えないようにしていた。

「そろそろ家に帰るか…」
夕日もだんだんと落ちていく、そして街の街灯がだんだんとついていく。
帰宅の途中で
提灯をぶら下げた屋台があった。

酒に頼るのはすこし嫌だったが、今日は仕方がない…そう思い、屋台へと足を運んだ。

「ん?何にしますか?」

どこか見覚えのある爺さんが注文を聞いてきた。

「とりあえず生ひとつお願いします」
すると爺さんは笑顔で答えた。
「はいよ」

なにか懐かしい記憶。
あれは大学生のとき…
直也と遊び歩いていた時に見つけた屋台。
そこの店主は気前がよく年も離れているのに親しげ話してくれた。
そこには大学を卒業してからも就職したあとも1、2年通っていた。
その時にはもう、直也はいなかった。
一人で店主の爺さんに愚痴る日々。
店主は仕事の愚痴をしっかりと受け止めてくれた。
そして、アドバイスもくれた。


でもそんな日はずっと続くことはなかった。

まだ話したいことはたくさんあったのに。
当時の俺には余裕がなかったのかもしれない。

いつものように六時に起きて、いつものように出社していつものようにたくさん仕事して、いつものように屋台に行く…
いつもの場所に屋台はなかった。
どこを探しても、ネットで調べても出てこなかった…

あれから五年の月日がたった。もう俺の記憶から忘れてしまっていたのかもしれない…


「どうしたんですか?浮かない顔をして」
店主の爺さんが話しかけてきた。
「んー、なんか久しぶりに懐かしい記憶を思い出してしまって…」
店主は「そうかいそうかい」
と言いながら俺の席と対面になるように座った。
「君が最後のお客さんかもしれないから、少し俺の話しもきいてもらってもいいかな?」
そう言うと店主の爺さんは頭に巻いていたバンダナを外した。

「いいですよ」
今自分には活力がないため相談にはのれないが
聞くくらいならの気持ちでいた…

「俺はもう歳です…体も弱ってきました。
なのでこの屋台もいつかは閉めるのか…
って考えると悲しくなりましてね…
兄さんからの常連さんやらに申し訳なくて…
そんなこと考えてたら夜も寝れなくなっちまいまして…だから、あと数日で閉めようと思いましてね…」
爺さんは浮かない顔で言っていた。
まるで俺のように…

「この屋台は…兄さんから受け継いだものなんです、だから本当に閉めるときは兄さんに了承を得ようと思いましてね…」

兄から受け継いだ屋台を走り続かせた爺さんは
兄の時代からのお客さんと話せることが毎日を元気に過ごす活力だったんだろうな…
いつまでたっても終わらないこの日常が楽しかったんだろう。

「そうですか…それは…悲しいことですね…
早めにお兄さんに了承を得た方がいいですよ
ご主人の体が一番大切ですからね…」

そう言い、乾いた喉を生ビールで潤した。
そして、
「この味は…」
そう言いかけると、爺さんは笑顔で答えた。

「その生ビールは兄から受け継いだものです
兄はお客さん一人一人にたいして、一品一品を自分の精神を費やしてお出ししていました…」

爺さん…

「そんな兄も…もうこの世にはいません…
兄が亡くなったのは…」

そうだ…俺は今日あの店と出会い、それからか5年後の今日あの店はなくなっていたんだ…

「五年前の今日ですか…?」
当てずっぽうというか、確定的だというか…
よくはわからなかったが脳が答えろといったのは確かだった。

「…やっぱり…真さんでしたか…」

「兄かんから生前に真さんの話を聞いていました…
まさか今日お会いできるとは…」

まさかこんなにも気持ちが落ち込んでいるときに出会えるとは…思ってもいなかった。


「兄さんはあなたのことを人生を謳歌する馬鹿正直な若造だと言っていました…」
そう、店主は俺に微笑んだ。

「あいつは…まだ大学生だし…ボケーっとしてるし、頭もよくはない。
だけどな…不思議とあいつの話を聞いてるとな?コッチまで楽しくさせられるんだよ
なんでだろうな…って考えてたらひとつの答えが出たんだよ、
それがな…?
あいつは人一倍人生を"謳歌"してるんだよ、
人生を謳歌するってことは、自分の人生に真摯に取り組むことでもないし、幸せだから謳歌しているとは限らない…
どんなにノロマで頭もよくなくて、女性経験も全然無くてもあいつは自分に誇りを持っていた。
それはあいつ自身の人生にもだ…
そんなやつの話を聞いてるとやっぱり楽しいわ!……」


「そんなことを言っていましたよ…」
今までたまっていた涙が溢れだした。
この涙は、あの店にまた出会えたことなのか
それとも、あの爺さんが死んでしまった悲しみなのか
もしくは、あの爺さんが最後まで俺のことを覚えてくれていたことなのか…
どれかははっきりとはしなかった…


その後、爺さんの自宅を聞いて
明日お参りにいくと話し…
その日は家に帰った。



「ここか…?」

爺さんの自宅前までに来た。
表札にかいてある名字もあってるし、住所もここだし…
確か…爺さんの奥さんはまだ生きているって聞いたな…
(ピンポーン)
チャイムを鳴らした。
すると「はーい!!」という声が聞こえてきてドアが開いた。
「どちら様でしょうか…?」
女の人が出てきた。

「爺さ…生前のご主人にお世話になったものです、昨日ご主人が五年前にお亡くなりになったいたということを聞いて…いてもたってもいられなくて…線香をあげたいと思いましたので…」
すると
「どうぞ」と言って家に上がらせてもらった。
そして、爺さんの写真が飾られた仏壇に線香をあげた。
そのあと、奥さんはお茶をもってきて、

「あの…ごゆっくりなさってください…」

まぁ、会社もリストラされて、急ぎの用事などもなかったため、奥さんの対面に座った。

「あの…主人とはどういうご関係だったのですか…?」

奥さんが少し疑惑の目を向けていたことは俺でもわかった、そりゃそうだ。
命日でもないのにいきなり来てご主人に世話になったので…と言って線香まであげさせてくださいって普通はあり得ないことだからな…

「ご主人が屋台で商売をされていた時に
常連として大学生の頃から通っていました。
真…という名前をご主人が話していませんでしたか…?」

すると、奥さんはなにかを思い出したかのように返事をした。
「真さんでしたか…主人も真さんのことは私にはなしてくれていましたよ…そうだ…」

そう言うと奥さんは棚からひとつの封筒を出した。

「これは主人が生前に真さんに向けて書いていたものです、そしていつかは真さんがここにきたら渡してくれって頼まれていました…中身は…私も知りません…」

そして、俺はその封筒を受け取った。

そこには「真へ」と達筆で書かれていた。
「そういえば…どうして今になって主人が亡くなったことを知ったのですか?」

「それは…昨日ご主人の屋台を受け継いだ弟さんと屋台で会ってそこで話してくたんです…」

「そうですか…」と奥さんは言い、お茶をすすっていた。

少しでもその事が気になり、奥さんには失礼を承知で、封筒を開けた。そこには一枚の紙が入っていた。そして、字は爺さんのものだった

「真へ
この紙をみているということは、俺はこの世にいないかもしれない。
そして、俺がこの世にいないということは、
お前はずっと話を聞いてくれる俺のような存在がいなくて、ストレスがたまって、やっと入れた会社もクビになってるかもしれないな…
でも、お前ならすぐ就職できるさ!
だって、お前は俺が認めた唯一の男だ!!!
またやり直せる!
だから逃げるな!!
諦めるな!!!
お前が強いことを世に知らしめてやれ!
まぁ、そんなこと書いたところで、お前みたいな人生経験もろくにないやつが躍起になって出来無いかもしれないが…
まぁ、とにかくお前にいいたいことは、
俺以上に人生を謳歌しろよ
お前にはそれしか取り柄が無いんだからな…
頑張れよ…若造!!!
                                              店主の爺ちゃんより」


「なんて書いてありましか…?
すみません…そんなに泣いていたから、気になってしまって…」

「人生を謳歌しろよって書いてありました…」

奥さんは「ふふ」と微笑み、
「あの人らしいですね…」と言った。

そして、俺は爺さんから受け取った手紙を置いて爺さん宅から出て、家に戻り、スーツに着替えてハローワークへと向かった。





「明日は見えない…
それはみな同じこと。
だからこそ、今日やれることをやりきる
ただそれだけだ。
頑張れよ真」
    
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