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胸、ザワつく夜

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ギムレットは、メイファを抱き上げたまま部屋を移動した。

ベッドへ押し倒されると思った…。

(ここへ来ると決めた時から覚悟は出来てる…大丈夫…)

メイファは、目をギュッと閉じて身体を硬くした。

しかし、ギムレットはそうはせず、メイファを抱き上げたままベランダへ出た。


『見てごらんなさい、この景色を…』

夕焼けで赤く染った砂漠が遠く地平線まで続いている。

宮殿の周りは緑が生い茂って水源もあるが、それ以外のほとんどがカラカラに乾いた砂の世界である。

『私は、このデューク王国を少しでも緑豊かな国にしたい。馬鹿げてるとお思いになるかな?』

遠く地平線を見つめる真剣な眼差しのギムレットに見とれてしまっていたメイファ。

「…いえ、王国を率いるものとして、国を豊かにしようとすることは最も大切なことですわ」

『そうか…ケイトがそう言ってくれると心強い。伴侶として共にこの国の発展に務めてほしい。』

ギムレットは、ゆっくりとメイファを下ろして、肩を抱いた。

メイファも身を委ねるようにしてギムレットに寄り沿った。

静かな時間がすぎた。

『そろそろ冷えてきたね。砂漠の夜は意外と寒い、今日はゆっくり寝てくれ』


頭をポンポンと撫で、フフッと笑い、

『そう身構えなくともよい』

『望むところだわって…一体何を想像してるんだい…フフ』

そう言い残して笑いながらギムレットは部屋を出ていった。


かかって来い!と言わんばかりに身構えていただけに、肩透かしを食らったような気持ちだった。

同時に安心して力が抜けた…。

ベッドに突っ伏して今日一日のことを振り返っていた。



あれが悪評高いデューク王国のギムレット王子…私の夫となる男。

想像していたような野蛮な男ではなかった…

むしろ……。
あの瞳、あの指先、あの香り……。

思い出すと胸がザワつくようだった。


あぁ…いけないわ。

惑わされてはいけない!
あの男は祖国の敵!

私は、滅亡の危機にある祖国パナギア王国を陥れたデューク王国を許さない。

必ず復讐してやるんだ…。

きっと裏の顔があるはず、必ずやその本性を暴き、陰謀の数々を白日のもとに晒してやる。

まずはケイトとして受け入れてもらえたようだわ。

でも油断禁物ね。


……

ケイト姉様…

お元気かしら、また体調悪くされてないかしら…。
どうかアレクと幸せになって…。


明日から婚礼の儀式、三日三晩続くと言っていたわ…この慌ただしい中でさすがの私も耐えられるかしら。

ケイト姉様…会いたい…。

あの澄み渡った空の下で笑いたい…。

ホームシックで涙がこぼれ落ちたのが先か、眠りについたのが先か…分からないほどにスゥーーーッと眠ってしまったのであった。
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