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第7章 命の代償
3. 魔法の杖
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ニケが休息をとるため船室に戻ってからも、俺はまだ海を眺めていた。
「ノア!」
「ウィル……」
「これ使って。風邪引かないように、気を付けないと」
そう言って、羽織っていた外套を脱いで、俺の肩にかけてくれた。
相変わらず、ウィルは優しい……
「ありがとう」
「どういたしまして。それから……ノアに渡すものがあってさ」
そう言ってウィルが背負袋から取り出したのは、塔に幽閉される前にニケに取り上げられてしまった魔法の杖だった。
「これ……っ!」
「ニケの研究室で見つけたんだ」
「どうして……どうやって見つけたの!?」
「いや…あの場所がニケの研究室だっていうのも、入ったときは知らなかったんだ。宮殿の兵士から身を隠すために入った部屋が偶然、そこだった。何か武器になるものはないかと棚を開けたら、この杖があって……」
そんな偶然、あるのか?まさか……
「……おまえがウィルを導いてくれたのか?」
杖に問いかけてみたけれど、返答はなかった。
「でも、伝説の杖だし。あるかもな……」
「うん。何はともあれ、この杖が戻ってこんなに心強いことはないよ。ありがとう、ウィル」
「杖だけじゃないよ。これも」
「あ……っ!」
兄上から贈られた青い石の装身具たちが、そこにあった。
兄上……
杖や魔法の装身具を兄上から贈られたときはまさか、こんなことになるなんて、思いもしなかった。
ザッフィロ地下遺跡へ兄上や仲間たちとともに探索へ行ったんだよな……まるで遠い昔の出来事みたい……
あのときは俺も兄上もふたりとも、みんなと一緒に笑い合えていた。
でも今は――
俺と兄上の間には、簡単には埋めらない距離ができてしまった……そう思わずにはいられない。
「ノア……陛下のことを考えてる?」
「ああ……うん……よくわかったね?」
「大変だろうけど、元気出してくれよ……」
「ありがとう……ウィルはどう思う?兄上のこと、戦争のこと……」
「戦争……俺は初陣もまだだし、人を殺したこともない」
ウィルは空を見上げながら、ゆっくりと話し始めた。
「それが今日……戦争を目の当たりにして……正直、怖いと思った……」
「ウィル……」
「はは……こんなんじゃ冒険者の道を選ばずとも、父上や兄上たちのような騎士にはなれなかったかもな……」
「そんなことないよ!」
「俺は、帝国の小さい頃から騎士とになるのを目指してただろ……騎士を志す貴族の子弟を集めた学校にも通っていた。そこでは、皇帝陛下のなさりように異を唱えることなど決してあり得ぬことなのだと、教えられてきた」
そういえば、俺が城で家庭教師たちから魔法やさまざまな知識を教わっている間、ウィルは騎士の学校に通っていたんだったな……
「でも……今日、ラウルス殿のなさったこと――陛下に逆らってでもニケを守ったのは、正しいことだと思った。だから俺は……ああ、俺は何を言ってるんだろうな……」
「ウィル……ごめんね。おかしなことを聞いちゃったよね」
「そんなことないよ……俺も同じことをノアに聞いてもいい?陛下のこと、戦争のこと……」
「俺はもっと単純……戦争なんてもうこれ以上起こってほしくないし、他の国に戦争をしかけてる兄上のことなんて――きらいだ」
「……はっきり言ったな」
「でも、兄上に面と向かっては言えないだろうけど……」
「ああ……それを言ったら世界が滅んじゃいそうだ。言わない方がいいよ」
真顔でそう言うウィルがおかしくて、俺は少し笑ってしまった。
ルクスはあの日――遺跡探索に行った日からずっと、俺の中で眠っている。
あいつは兄上のことが大好きだから俺のこんな気持ちなんて、まったく理解できないんだろうな……
「ノア!」
「ウィル……」
「これ使って。風邪引かないように、気を付けないと」
そう言って、羽織っていた外套を脱いで、俺の肩にかけてくれた。
相変わらず、ウィルは優しい……
「ありがとう」
「どういたしまして。それから……ノアに渡すものがあってさ」
そう言ってウィルが背負袋から取り出したのは、塔に幽閉される前にニケに取り上げられてしまった魔法の杖だった。
「これ……っ!」
「ニケの研究室で見つけたんだ」
「どうして……どうやって見つけたの!?」
「いや…あの場所がニケの研究室だっていうのも、入ったときは知らなかったんだ。宮殿の兵士から身を隠すために入った部屋が偶然、そこだった。何か武器になるものはないかと棚を開けたら、この杖があって……」
そんな偶然、あるのか?まさか……
「……おまえがウィルを導いてくれたのか?」
杖に問いかけてみたけれど、返答はなかった。
「でも、伝説の杖だし。あるかもな……」
「うん。何はともあれ、この杖が戻ってこんなに心強いことはないよ。ありがとう、ウィル」
「杖だけじゃないよ。これも」
「あ……っ!」
兄上から贈られた青い石の装身具たちが、そこにあった。
兄上……
杖や魔法の装身具を兄上から贈られたときはまさか、こんなことになるなんて、思いもしなかった。
ザッフィロ地下遺跡へ兄上や仲間たちとともに探索へ行ったんだよな……まるで遠い昔の出来事みたい……
あのときは俺も兄上もふたりとも、みんなと一緒に笑い合えていた。
でも今は――
俺と兄上の間には、簡単には埋めらない距離ができてしまった……そう思わずにはいられない。
「ノア……陛下のことを考えてる?」
「ああ……うん……よくわかったね?」
「大変だろうけど、元気出してくれよ……」
「ありがとう……ウィルはどう思う?兄上のこと、戦争のこと……」
「戦争……俺は初陣もまだだし、人を殺したこともない」
ウィルは空を見上げながら、ゆっくりと話し始めた。
「それが今日……戦争を目の当たりにして……正直、怖いと思った……」
「ウィル……」
「はは……こんなんじゃ冒険者の道を選ばずとも、父上や兄上たちのような騎士にはなれなかったかもな……」
「そんなことないよ!」
「俺は、帝国の小さい頃から騎士とになるのを目指してただろ……騎士を志す貴族の子弟を集めた学校にも通っていた。そこでは、皇帝陛下のなさりように異を唱えることなど決してあり得ぬことなのだと、教えられてきた」
そういえば、俺が城で家庭教師たちから魔法やさまざまな知識を教わっている間、ウィルは騎士の学校に通っていたんだったな……
「でも……今日、ラウルス殿のなさったこと――陛下に逆らってでもニケを守ったのは、正しいことだと思った。だから俺は……ああ、俺は何を言ってるんだろうな……」
「ウィル……ごめんね。おかしなことを聞いちゃったよね」
「そんなことないよ……俺も同じことをノアに聞いてもいい?陛下のこと、戦争のこと……」
「俺はもっと単純……戦争なんてもうこれ以上起こってほしくないし、他の国に戦争をしかけてる兄上のことなんて――きらいだ」
「……はっきり言ったな」
「でも、兄上に面と向かっては言えないだろうけど……」
「ああ……それを言ったら世界が滅んじゃいそうだ。言わない方がいいよ」
真顔でそう言うウィルがおかしくて、俺は少し笑ってしまった。
ルクスはあの日――遺跡探索に行った日からずっと、俺の中で眠っている。
あいつは兄上のことが大好きだから俺のこんな気持ちなんて、まったく理解できないんだろうな……
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