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第1章 冒険者への道のり
13. 涙
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「……俺、男なんですけど」
「愛に性別など関係ありません」
「へ、へえ~…そうなんだ……でもよりにもよって、なんで俺なんか…」
「あなたはとても美しい……私の種族――エルフには、あなたのような美しい赤褐色の髪を持つ者はおりません。あなたを一目見た瞬間から、私は恋に落ちてしまったのです」
俺はカァーッと顔が熱くなった。生まれて初めて――前世も含めて――告白されてしまった。それもこんな美形に。
「俺はその……」
「すみません…こんなときに……ほんとうは出会ってすぐに伝えたかったのですが…ガードが固くて」
「……ウィル?」
「ノアとウィルは、やはり付き合っているのですか?」
「俺とウィルが!?そんなわけないよ!ウィルはただの幼なじみだから」
ウィルと付き合う!?それだけはない!あり得ない。
「では、私にもチャンスがありますね」
美しい顔で、エルフが微笑む。
「えっと……それはどうだろう?」
「どなたか、心に決めた方がいるのですか?」
心に……?誰の顔も浮かばなかった。城に仕えるメイドや城下の女性と話す機会はあったが、冒険者になるために画策するのに忙しくて、恋をするのだとか、そんな暇はなかった。
「…いないけど……ごめん、エトワール。君の気持ちは嬉しいけど、応えることはできない」
エトワールの顔が悲しそうに歪む。世の女性たちに謝りたい気分になるが、俺にもゆずれないものがある。
「俺の夢は、一流の冒険者になることなんだ。でも、今はまだ実力不足だから、もっと、人一倍努力しないといけない。だから、今は恋愛に時間を使っている暇はないんだ」
それに、俺にエトワールはもったいない。こんな俺より君にふさわしい人が必ずいる――
「わかりました。では私はノアが冒険者になれるように、そばで支えますね」
「エトワール…」
『冒険者になりたい』前世からの俺の夢。誰にも――…ずっとそばにいたウィルでさえ、「支える」なんてことは言ってくれはしなかった。
俺はベルムデウス帝国の皇子で、それ以外の何者かになる夢なんて、捨てなければならなかった。
立場、責任、義務――城にいると、息が詰まった。
暗黙の従順を求められ――期待、羨望、妬み、蔑み……目に見えない何かに、圧し潰されそうになっていた――
「ありがとう…」
「ノア……?泣いているの?」
うわ…みっともない。
「ごめん…今まで、俺が冒険者になることを応援してくれる人なんていなくて、ずっとひとりでやってきたから…なんか嬉しくて」
「……ノア」
でも、エトワールは俺の隠している身分を知らない。それを知ってしまったら、どうなってしまうのだろうか……
けれど今は、それよりもまず――
「……早いとこみんなと合流しないと」
俺は服の袖で涙をぬぐった。
「……待ってください」
「エトワール?」
「何かが…近づいています」
エトワールが耳に手を添えて集中している。
「これは…獣の唸り声?」
「愛に性別など関係ありません」
「へ、へえ~…そうなんだ……でもよりにもよって、なんで俺なんか…」
「あなたはとても美しい……私の種族――エルフには、あなたのような美しい赤褐色の髪を持つ者はおりません。あなたを一目見た瞬間から、私は恋に落ちてしまったのです」
俺はカァーッと顔が熱くなった。生まれて初めて――前世も含めて――告白されてしまった。それもこんな美形に。
「俺はその……」
「すみません…こんなときに……ほんとうは出会ってすぐに伝えたかったのですが…ガードが固くて」
「……ウィル?」
「ノアとウィルは、やはり付き合っているのですか?」
「俺とウィルが!?そんなわけないよ!ウィルはただの幼なじみだから」
ウィルと付き合う!?それだけはない!あり得ない。
「では、私にもチャンスがありますね」
美しい顔で、エルフが微笑む。
「えっと……それはどうだろう?」
「どなたか、心に決めた方がいるのですか?」
心に……?誰の顔も浮かばなかった。城に仕えるメイドや城下の女性と話す機会はあったが、冒険者になるために画策するのに忙しくて、恋をするのだとか、そんな暇はなかった。
「…いないけど……ごめん、エトワール。君の気持ちは嬉しいけど、応えることはできない」
エトワールの顔が悲しそうに歪む。世の女性たちに謝りたい気分になるが、俺にもゆずれないものがある。
「俺の夢は、一流の冒険者になることなんだ。でも、今はまだ実力不足だから、もっと、人一倍努力しないといけない。だから、今は恋愛に時間を使っている暇はないんだ」
それに、俺にエトワールはもったいない。こんな俺より君にふさわしい人が必ずいる――
「わかりました。では私はノアが冒険者になれるように、そばで支えますね」
「エトワール…」
『冒険者になりたい』前世からの俺の夢。誰にも――…ずっとそばにいたウィルでさえ、「支える」なんてことは言ってくれはしなかった。
俺はベルムデウス帝国の皇子で、それ以外の何者かになる夢なんて、捨てなければならなかった。
立場、責任、義務――城にいると、息が詰まった。
暗黙の従順を求められ――期待、羨望、妬み、蔑み……目に見えない何かに、圧し潰されそうになっていた――
「ありがとう…」
「ノア……?泣いているの?」
うわ…みっともない。
「ごめん…今まで、俺が冒険者になることを応援してくれる人なんていなくて、ずっとひとりでやってきたから…なんか嬉しくて」
「……ノア」
でも、エトワールは俺の隠している身分を知らない。それを知ってしまったら、どうなってしまうのだろうか……
けれど今は、それよりもまず――
「……早いとこみんなと合流しないと」
俺は服の袖で涙をぬぐった。
「……待ってください」
「エトワール?」
「何かが…近づいています」
エトワールが耳に手を添えて集中している。
「これは…獣の唸り声?」
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