某国の皇子、冒険者となる

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第1章 冒険者への道のり

1. 異世界転生

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俺は10歳の頃に高熱を出し、この世界『サナトス』に異世界転生したことを思い出した。
前世で19歳の夏――浪人生だった俺は予備校帰りにトラックに跳ねられ、死んでしまった。そのとき俺の魂は前世の記憶を刻みつけたままに、異世界に転生を果たしたのだった。
俺が転生したのは、ベルムデウス帝国という、周辺諸国を征服し今なお領土を広げつつある強国の重要人物――皇子だった。ベルムデウス帝国皇帝の次男、第二皇子ルクス・ベルムデウスである。
それから5年後、父である皇帝が病によって崩御し、新たな皇帝として即位したのは、俺と10才ほど年の離れた兄、グラヴィス・ベルムデウスだ。兄にはまだ子供がいないので、俺の王位継承権は一位に繰り上がった。

転生してからの俺の人生は、数百年に渡り帝国を支配してきた始祖の直系である皇子として大切に護られ、その代償に自由を制限されてきた。
こんな生活はもう、うんざりだった。
俺の本当の望みは、冒険者になることなのだから。

前世で一般人として日本で学生をしていた頃、俺はマンガやゲームが大好きな、いわゆるオタクだった。異世界転生にも憧れていて、その頃から転生したら冒険者になる妄想をしたり、ファンタジー世界を舞台としたRPGもそこそこに嗜んでいた。ちなみに前世の本名は伸明なので、ノアと言う名前を使っていた。
仲間と協力して未知のダンジョンを踏破し、富や名声を手に入れ、果ては世界を恐怖に陥れる凶悪な敵を倒し、英雄となる――
前世で退屈な生活に疲れたとき、つかの間のうるおいをもたらす幻想であったそれらは、異世界転生を果たした今、努力すれば望み得ることのできる夢となったのだ。

転生者であると気づいてから9年が経ち、前世で異世界転生をした年齢、19歳に俺はなった。
今、憧れを現実のものとする時は来た――皇子という身分を捨て冒険者となるため、秘密裏に動いて準備を整えてきたのだった。その努力が実を結ぶまで、あと一歩のところまで迫っている。
だが、俺の夢を阻もうとする、大きな『壁』の存在があった。



「絶対に……絶対にダメだ!」
食卓に強く拳を打ちつけた鋭い音が、広い部屋に響き渡った。その振動は、吹き抜けの天井から吊り下げられている豪奢なシャンデリアを揺らした。
しん、とした静寂が訪れる。皇帝の穏やかならぬ挙動に、夕食を彩るたおやかな音楽を奏でていた楽士たちが、よどみなく動かしていた手を止めたからだった。

俺が冒険者になることを阻む壁。それは兄、グラヴィス・ベルムデウスである。


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