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黒幕 その4
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夜明け前、聖百合十字騎士団は隊を二つに分けてオークの巣へと進撃した。
リーンのおかげで敵の数は68体ということがあらかじめわかっている。
目指す巣は山肌に掘られた洞窟だ。
騎士たちは音をたてないようにという配慮から、金属製の甲冑を脱いでいる。
ミリアは奇襲攻撃を仕掛ける気なのだ。
ミリアたちはオークたちが目を覚ます前に陣形を整えた。
そして、朝日が山の輪郭をあらわにするとほぼ同じころ、突入命令がくだる。
本当は火炎魔法をぶち込んで蒸し焼きにするのが手っ取り早いのだが、巣の奥には人質となる人間の女が複数捕らえられていて、それはできない。
だが、きっちりと手は打ってある。
「ちゃちな牢屋でしたけど、魔封じの結界を張っておきました。オーク程度じゃ簡単には解除は無理ッスね」
リーンによって昨晩の内に人質の安全は確保されているのだ。
女たちが逃げ出さないようにと作られた牢屋が、今や女たちを守る防壁に早変わりしていた。
これなら騎士たちも安心して突入できるというものだ。
「じゃあ、俺はちょっと出かけてくる」
「どこへ行くんですか?」
ミリアもそろそろ洞窟へ突入するようだ。
「団長に何かあったら困るだろう? だから、彼女のそばで護衛だよ」
「過保護なことで……」
「あくまでも念のためさ……」
それほど不安じゃない。
ミリアは毎日俺の特性スイーツを食べ続けているのだ。
オーク程度に後れを取るはずはない。
むしろ成長した彼女の姿を確認する意味合いが強いのだ。
「じゃあ行ってくるよ」
俺は透明魔法で姿を消し、血と怒号が飛び交う戦場へと足を踏み入れた。
戦闘は圧倒的に騎士団優勢で推移していた。
というか、自分たちの強さに騎士たち自身が戸惑ってさえいる。
「なんか、体が軽い?」
「見える……? 敵の攻撃が見えるぞ! そこだぁ!」
突入した騎士たちは並み居るオークたちを次々と撃破していく。
ひ弱な坊ちゃん嬢ちゃんたちがずいぶんとたくましくなったものだ。
こうやってあと何度か実践を経験していけば、さらなる成長が見込めそうだ。
ミリアも剣を片手に洞窟内部へ入り、騎士たちに指示を与えていた。
「情報では最深部に人質が捕らえられている。まずは彼女たちの安全を確保するのだ!」
なかなか立派な采配ぶりで、兄ちゃんは嬉しくて涙が出てくるぞ。
戦闘に手を出したい気持ちをぐっとこらえてミリアたちの戦いぶりを見守った。
ときには信じて放任することも大切なのだ。
うむ、兄は辛いのだ。
突入作戦は1時間もかからずに終了した。
オークはすべて殲滅され、人質12人は安全に救出されている。
ただ、彼女たちの受けた心の傷は深い。
俺は密かにミリアに進言した。
「とりあえずは、私が神聖魔法の祈りで心の傷を癒します」
「ありがたい、私からもお願いします」
「それから、彼女たちが希望するなら別の土地へ連れて行くのがいいでしょう」
故郷の村に帰っても差別的な目で見られてしまうことはよくあるのだ。
それに妊娠の問題もある。
オークの子を孕んでいる女も何人かいた。
こういった可哀そうな人は、しかるべき神殿に預けて処置を受けなくてはならない。
「わかりました、私たちでアスタルテへ連れて行きましょう。あそこなら大きな神殿がありますから」
結局13人の女の内、7人が新しい土地へ行くことになった。
リーンのおかげで敵の数は68体ということがあらかじめわかっている。
目指す巣は山肌に掘られた洞窟だ。
騎士たちは音をたてないようにという配慮から、金属製の甲冑を脱いでいる。
ミリアは奇襲攻撃を仕掛ける気なのだ。
ミリアたちはオークたちが目を覚ます前に陣形を整えた。
そして、朝日が山の輪郭をあらわにするとほぼ同じころ、突入命令がくだる。
本当は火炎魔法をぶち込んで蒸し焼きにするのが手っ取り早いのだが、巣の奥には人質となる人間の女が複数捕らえられていて、それはできない。
だが、きっちりと手は打ってある。
「ちゃちな牢屋でしたけど、魔封じの結界を張っておきました。オーク程度じゃ簡単には解除は無理ッスね」
リーンによって昨晩の内に人質の安全は確保されているのだ。
女たちが逃げ出さないようにと作られた牢屋が、今や女たちを守る防壁に早変わりしていた。
これなら騎士たちも安心して突入できるというものだ。
「じゃあ、俺はちょっと出かけてくる」
「どこへ行くんですか?」
ミリアもそろそろ洞窟へ突入するようだ。
「団長に何かあったら困るだろう? だから、彼女のそばで護衛だよ」
「過保護なことで……」
「あくまでも念のためさ……」
それほど不安じゃない。
ミリアは毎日俺の特性スイーツを食べ続けているのだ。
オーク程度に後れを取るはずはない。
むしろ成長した彼女の姿を確認する意味合いが強いのだ。
「じゃあ行ってくるよ」
俺は透明魔法で姿を消し、血と怒号が飛び交う戦場へと足を踏み入れた。
戦闘は圧倒的に騎士団優勢で推移していた。
というか、自分たちの強さに騎士たち自身が戸惑ってさえいる。
「なんか、体が軽い?」
「見える……? 敵の攻撃が見えるぞ! そこだぁ!」
突入した騎士たちは並み居るオークたちを次々と撃破していく。
ひ弱な坊ちゃん嬢ちゃんたちがずいぶんとたくましくなったものだ。
こうやってあと何度か実践を経験していけば、さらなる成長が見込めそうだ。
ミリアも剣を片手に洞窟内部へ入り、騎士たちに指示を与えていた。
「情報では最深部に人質が捕らえられている。まずは彼女たちの安全を確保するのだ!」
なかなか立派な采配ぶりで、兄ちゃんは嬉しくて涙が出てくるぞ。
戦闘に手を出したい気持ちをぐっとこらえてミリアたちの戦いぶりを見守った。
ときには信じて放任することも大切なのだ。
うむ、兄は辛いのだ。
突入作戦は1時間もかからずに終了した。
オークはすべて殲滅され、人質12人は安全に救出されている。
ただ、彼女たちの受けた心の傷は深い。
俺は密かにミリアに進言した。
「とりあえずは、私が神聖魔法の祈りで心の傷を癒します」
「ありがたい、私からもお願いします」
「それから、彼女たちが希望するなら別の土地へ連れて行くのがいいでしょう」
故郷の村に帰っても差別的な目で見られてしまうことはよくあるのだ。
それに妊娠の問題もある。
オークの子を孕んでいる女も何人かいた。
こういった可哀そうな人は、しかるべき神殿に預けて処置を受けなくてはならない。
「わかりました、私たちでアスタルテへ連れて行きましょう。あそこなら大きな神殿がありますから」
結局13人の女の内、7人が新しい土地へ行くことになった。
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