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一年後(その六)
しおりを挟むそうだった。忘れていた。
グシャグシャであろう顔を、今更ながら慌てて両手で覆って隠す。
環くんについていくと、リビングの真ん中をとおり抜け、左手にある洗面所に案内された。
「わー、キレイな洗面所」
脱衣所と一緒になっていて、隣りは浴室のようだ。
「そうだ、ユリちゃん。どうせならシャワー浴びちゃえば?」
「えっ⁉︎」
「今日は仕事だったし疲れてるでしょ。よかったら使ってよ」
洗面台下から可愛い丸椅子を取り出すと、私のバッグをその上に置き、浴室の扉を開けてくれる。
「ううん、それはさすがに……」
顔を隠しながらもチラッと中を覗くと、これまたキレイな浴室だ。
わー、浴槽が大きい。お水を張ってあるんだ。てことは、追い焚き機能付き? 広ーい。
「ほら、遠慮しないで、どうぞ。その間に僕は晩ご飯の準備をしてるからさ」
環くんは壁のスイッチをなにやらピッピッと操作をしている。
「今ね、浴槽を温め始めたから。シャワーを浴びてる間に温まるから、そうしたらゆっくり湯船に浸かるといいよ」
「えっ、そんな……あっ、環くん」
環くんは洗面所を出ていくと、手になにかを持って戻ってきた。
「これ、スウェットの上下。よかったら着てね」
そうして「ごゆっくりー」と言って出ていった。
* * * * * *
うーん、どうしよう。確かに仕事をしてきたし、シャワーを浴びたらスッキリするけど。しかも、湯船に浸かれるなんて嬉しい。
それに……晩ご飯を食べたら、その、えっと、その後……えっちも、するのかな?
待て待て私。そこまで、考えるぅ? でも、でも。だって……そのー、久しぶりに会ったんだしぃ? 一年ぶりだしぃ?
シャワー、浴びとこうかな。うん。湯船にも、浸かっちゃおうかな。
急いで顔のチェックを済ませ、髪の毛をブラッシングして結き直す。
そしてパパッと服を脱ぐと、メガネを外して浴室の中へと入る。
シャワーを浴びると、うん、気持ちいい!
丁寧に体を洗っていく。
お手入れというお手入れは、最近していない。
でも、永久脱毛済みだし。ここは……していないけれど。今更だしなあ、うん。
「ふふふーん」
私は……少し、浮かれていた。
思わぬ再会、素敵なお店にキレイなおウチ、それにこのお風呂。そして、気持ちのいいシャワー……
「ガチャッ」
ん? 今、何か音が。気のせいかな?
「ユーリちゃん」
えっ? 誰? ってふたりしかいない。今のは、環くん?
「な、なに?」
ぼやけてしか見えないけど、脱衣所で服を脱いでる? えっ? なんで? どうして?
「ユリ、入るぞ」
えっ? 錬も? 待って。なんで? なんでそうなるの?
「ガチャッ」
今度は浴室の扉が開けられた。
そこには、ぼやけててもはっきりわかるほどにニヤけた顔の環くんと、少し照れてるけど、やっぱり少しニヤついた錬が立っていた。
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