48 / 89
三日目(その二十五)♡
しおりを挟む錬を見ると、なんとも優しげな表情で私を見つめている。
頬に触れる手が優しく、温かい。
錬の顔が近づいてくる。
もう、逃げられない。
目を閉じる。
唇が、そっと触れる。
すると、すぐに唇が離れる。
目を開けると、すぐそこに錬の潤んだ目と長い睫毛がある。
しばらく見つめ合うと、どちらからともなくまた唇を近づける。
そして、触れたかと思うと離れて、また触れる。
私、このキス、知ってる。
「チュッ、チチュ」
時折音を立て、軽く吸いつき、優しく触れる。
春輝とのキス、好きだった。
それが今、錬とのキスに上書きされる。
しばらく甘いキスを交わすと、錬が言った。
「ユリ、好きだよ」
その言葉に心臓がキュッとなって、そしてまたキスをーー
「ユリちゃーん……れーん……」
環くんが、錬との間に割って入ってくる。
「た、環くん!」
「ふたりとも僕のこと……忘れてない……?」
うっ、ご、ごめんね。ちょっとだけ忘れてた。
錬からメガネを受け取ると、慌ててかける。
「環、なんだよ。邪魔すんなよ」
錬が冷たくあしらう。
「ひどいよ、錬! 自分ばっかり。僕がこんなに悩んでるのにぃ! なんかいい雰囲気になっちゃって……」
そういえば環くん、さっき様子が変だった。
「環くん、どうしたの? さっきから少し変だよ。なにがあったの?」
「ユリちゃん……うわーん! ごめんなさい!」
突然泣き出し、そして訥々と話し始めたーー涙のわけを。
* * * * * *
「あのお茶に、睡眠薬……」
「ごめんなさいっ!」
環くんが、ベッドの上で土下座をしている。
(そうか、それで眠っちゃったのね、私)
「でもね、でも……キスしかしてないからっ!」
環くんは、まだ土下座をしたままだ。
「はあ? それはあのとき、俺が帰ってきたからだろ?」
錬があきれた顔でそう言うと、環くんが余計なことを言うなといわんばかりにキッと睨みつける。
それを私が見ているとわかると、環くんは叱られた子犬のようにショボンとなった。
その姿があまりにも可愛くて、つい笑ってしまう。
「ふふ。もういいよ、環くん」
環くんは、パアッと一気に顔を明るくした。
「ほんと? ユリちゃん。許してくれるの?」
「うん」
この双子には、本当にまいった。
どこまで犯罪ギリギリなんだか。
でも、全部が愛おしくてたまらない。
「ユリちゃん、好きだよ」
環くんはいきなり唇を重ねてくると、あっという間に私を押し倒した。
「んんっ!」
そしてすぐに侵入してきた舌が私の舌をとらえると、ヌチャヌチャと音を立て、激しく絡めてくる。
舌を強く吸われ、口の中をなぞられ頭がボーッとしてくると、ハアハアと激しい息遣いだけが頭の中に響いて聞こえる。
(環くん……こんな、激しいキス、するんだ)
突然の激しい攻めに、私はしばらくの間、環くんのされるがままになっていた。
そして、舌先に糸を引いたまま環くんが唇を離すと「はあー、ユリちゃん。おいしいよ」そう言って、ペロリと自分の唇を舐めた。
「環、お前なー。俺が先にユリとしてたのに」
すっかり待ちくたびれたように、錬が環くんに不満を言う。
「うん、ごめん。でもさ、ほら……」
環に言われ、錬がユリのほうを見ると、そこには頬を紅潮させ、ボーッとしたまま空を見つめるユリの姿があった。
「ユリちゃん、スイッチ入ったのかも」
「ーー今度は俺の番だ」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる