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二日目(そのニ)
しおりを挟む「環くん、お待たせ。遅くなってごめんね」
リビングに入ると、食欲をそそるいい匂いで鼻が刺激される。
環くんは、昨日残った人参と玉ねぎのスープを温め直してくれたらしい。
「いいよー。ところでユリちゃん、ご飯がいい? それともパン?」
そうきいてくれる。なんとも至れり尽くせりだ。
「ありがとう。でも私、朝はあまり食べないの。スープは飲みたいから貰ってもいい?」
「そうなんだね。覚えておく」
いいタイミングで温まったスープを器に盛ると、キッチン横のダイニングテーブルにそれを置き、私を席へと誘導してくれる。
「おいしい。あったまるー」
奥の席に座りながら、スプーンで少しずつ口に入れていく。
お腹がじんわりと温まってきて、体がゆっくりと起きてくる感じがした。
「そう? よかった」
目の前の席で軽く頬杖をつきながら、にっこりと微笑んで環くんが言う。
いちいち可愛いぞ、オイッ。
「錬は、もう出かけてるのよね?」
「うん、教授に呼ばれたって。帰りは少し遅くなるみたい」
「そっかー」
すると、環くんがふいにきいてくる。
「ユリちゃんはさ、すごい刑事さんなの?」
「んっ、げほっ、いや、そんなことないよ。なんで?」
スープが変なところに入るかと思い、焦る。
「だって錬が言ってたよ。チンピラたちが舎弟みたいだったって」
「うっ、違うわよ。私はただ珍しがられているだけ。体が小さいし、おばさんで刑事なんてそんなにいないでしょ? 見ためがこうだから、逆にバカにされているのよ」
「ふーん、そうなの?」
しばらく雑談をしてスープを飲み終わると、環くんは口の中がサッパリするからとルイボスティーを淹れてくれた。
そして少ししてから奥のソファのほうへ行くと、私に来い来いと手招きをした。
* * * * * *
お茶を持ったまま奥へ行くと、ダンボールがふたつ、テーブル脇に置かれている。
「これって昨日注文してくれた荷物よね。ふたつもあるの?」
「とりあえず開けてみようよ」
私が頼んだのはシンプルな白のTシャツ二枚、グレーのスウェットパンツ、薄いピンクのチェックのロングシャツ、グレーのロゴ入りトレーナー、それとちょっと楽に履けそうな黒のストレッチデニム、後はブラ付きキャミとショーツのセットがふたつだ。
環くんはカッターを手にすると、少し大きめのダンボールを開けた。
(そうだった!)
お茶をテーブルに置くと、慌てて環くんを引き止める。
「環くん、ちょっと待ってね!」
大急ぎで中を確認すると、あった! 納品書のすぐ下に、下着のセットが。
環くんに見られないように、とりあえず下着をよけておく。ふー、これで一安心。
注文をするときに見られてはいるだろうけど、実物を見られるのはやっぱり恥ずかしい。
それから忘れないうちに、立て替えてくれた代引のお金を渡してお礼を言った。
「えっと、じゃあみていくね」
さて、と。あった、あった。Tシャツにスウェットパンツ、チェックのロングシャツ、それにトレーナー、あれ、デニムも全部揃ってる。
「ねえ、環くん。私が頼んだもの、全部こっちに入ってるよ。そっちはもしかして間違いかもしれない」
そう言ってもうひとつの箱のほうを見ると、すでに開封していた環くんが、なにやらニヤリとして私を見ながら言った。
* * * * * *
「ジャジャーン! どうっ、これ?」
手に持っていたのは、なんとも可愛らしいラベンダー色のプルオーバーと、白の天然素材のロングスカートだ。
「えっ、待って! ダメだよ、袋から出しちゃ。それ、間違いで届いてるよ」
「違うよ。これは僕からユリちゃんへのプレゼントだよ」
環くんは私にその服を当てると「うん、似合ってる」と、微笑んだ。
「え、なんで……」
「えー。だってユリちゃん、シンプルなものしか頼まなかったでしょ? 色も割と地味だし」
うっ、それはそうなんだけど。
「このトップスの色、よくない? ユリちゃんに似合いそうだと思って。デザインはシンプルだけど、この辺り可愛いしさ」
見せてくれた袖口は、少しだけクシュっとなっていて確かに可愛い。でも他の部分はシンプルで、しかもゆったりと丸いシルエットで着やすそうだしーーそれに、ラベンダーは好きな色だ。
「普段はジーパンばかりみたいだけど、スカートもたまにはどうかなって」
こちらのスカートもゆったりふんわりなデザインが可愛いし、天然素材のシワシワ感が見ていて気持ちがいい。私でも……いけるかな?
それにしても、そんな風にいろいろ考えてくれたんだね、環くん。
「えっと、でもいいのかな? 環くん、学生さんだし」
「いいんだよ。僕だって少しくらいは持ってるんだ。貰ってよ、ユリちゃん」
「本当? ……じゃあ、いただくね。ありがとう」
ここはお言葉に甘えて、有り難く頂戴しよう。
こんなに女の子らしい服は久しぶりで、いつ着ようかとウキウキしている自分に驚く。
この連休が終わればまた忙しい日々に追われ、いつちゃんとした休みが取れるかもわからないのに……
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