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第47話 1週目の終わり
しおりを挟む「「「またのご利用をお待ちしております!」」」
バタンッ
最後のお客さんたちが温泉宿を出て行って引き戸を閉じる姿を従業員全員で見送った。
今日で今週の温泉宿の営業が無事に終了した。2日目に盗賊のようなやつらがこの温泉宿を訪れた以外に大きな問題はなかったが、一度自動販売機で購入した空き瓶を持ち帰ろうしたお客がいた。
俺のストアの能力で購入した物や自動販売機などの設備によって販売された物については、この温泉宿からの持ち出しを禁じる機能がある。今回の場合、空き瓶を持ち帰ろうとした男だけが引き戸を通ることができなくなった。
持ち物を確認させてもらったところ、荷物の中に自動販売機で購入した牛乳の空き瓶が紛れていた。その男が言うにはその美しい瓶を部屋に持っていき、詳しく見ている間にいつの間にか荷物へ紛れてしまったと証言した。
……限りなくグレーだが、暴れる気配もなく、持ち物も素直に確認させてくれたし、空き瓶を回収してそのまま解放することにした。とはいえ名前と顔はしっかりとブラックリストに記録しておいた。
やはりこの温泉宿にあるものはこちらの世界で価値があるものなので、今後もこういう輩は現れるかもしれないな。
「ふう~3人ともお疲れさま。みんなのおかげで無事に今週の営業を乗り切ることができたよ」
2日目からは毎日お客さんを4組ずつ集めたが、この4人で十分に対応できた。やはりフィアナのクリーンの魔法とロザリーの召喚魔法がとても優秀なおかげだ。みんなも作業に慣れてきたことだし、来週からは5組のお客さんを招こうと思っている。
「それは良かったですね。私達も頑張ったかいがありました。それでは報酬の甘いお菓子をお願いします」
「………………」
……人がせっかく感慨にふけっていたのに現金なやつである。というかその約束をしたのは少し前なのにしっかりとおぼえているんだな。
「おお、そうじゃった! ヒトヨシ、約束の菓子を出すのじゃ!」
どうやらロザリーは忘れていたっぽい。多分ポエルの言葉を聞いて今思い出したな。
「ああ、約束はちゃんと守るよ。せっかくなら一から作ってみようと思ってるんだ。今日の夕方か晩ご飯のあとに出す感じでもいいか?」
「うん、もちろん大丈夫だよ! 楽しみだなあ!」
「そうですね。おいしいものができるのなら構いませんよ」
「むう……まあそれくらいは我慢するのじゃ」
ロザリーのほうはちょっと不満気だな。まあそれくらいは待ってもらうとしよう。
「みんなはどうする? 初めての休みだし、街とかに行きたいなら引き戸をつなげるけれど」
時刻はお客さんがチェックアウトしてすぐの10時ごろ。今日と明日は待ち待った休日で、明後日の夕方からこの温泉宿の2週目が始まる。
それまでの間は各自で自由だ。街へ行ったりしてもいいし、この温泉宿でのんびりと過ごしていてもいい。
「私は一度上司のいる場所に報告へ行ってきます。そのあとは向こうでのんびりとして、今日の夕方までには戻ってきますよ」
どうやらポエルは一度天界に戻るらしい。あの駄女神に今週のことを報告したりするのかもしれない。
「僕は部屋でゆっくりと休んでいるよ! 休みなんて本当に何年ぶりだろう!」
フィアナは何年ぶりかの休日をのんびりと過ごすようだ。休みが何年ぶりとか社畜にもほどがあるな……
「妾はものんびりと過ごすかのう。あのベッドはとても気持ちが良くていくらでも寝ていられるのじゃ!」
ベッドや布団などはしっかりとしたものを選んで購入したから、こちらの世界の寝具よりも寝心地が良いことは間違いないだろう。まあロザリーに至っては落ち葉とかで作ったベッドで寝ていたらしいから、それよりは遥かにマシな寝心地に違いない。
「それじゃあ今日は夜までは自由行動だな。昼ご飯は早めに作って準備しておくよ。もし外に出たくなったら、俺は厨房にいるから呼んでくれ」
「……よし、あとはしばらく蒸せば完成だ。手伝いありがとうな、三郎」
「はい」
昼ご飯を食べたあとに俺はロザリーのゴーレムの三郎と一緒に、みんなと約束していたお菓子を作っていた。なんだかんだで料理やお菓子を作るのはいい気分転換になるんだよね。
何も考えずにレシピの通りに料理やお菓子を作っていくのは頭を使わずに集中できる。なおかつあとで自分で作った料理やお菓子を楽しめるから一石二鳥なのだ。
とはいえ、俺も今週から温泉宿の営業を始めたわけで疲れているから、明日はゆっくりと休むとしよう。
「そしたらこのまま晩ご飯も作るか。悪いけれどこのまま手伝いを頼むよ」
「はい」
ロザリーの召喚したゴーレムたちは召喚者であるロザリーの言うことを聞くのだが、ロザリーから何かあったら俺やポエルを守ったり、言うことを聞くように伝えられている。
作業のほうは結構細かいところまでできるのだが、返事はシンプルなはいといいえで答えることが多い。それでも普段の料理や仕事を手伝ってくれるのはとても頼もしい。
そしてそのまま三郎と一緒に今日の晩ご飯を作っていく。もちろん今日はお客さんもいないからそんなに凝った料理ではなく、ほどほどのまかないだ。さすがに俺も休日くらいは手抜きをしたいからな。
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