上 下
42 / 56

第42話 盗賊たちの末路

しおりを挟む

「さて、問題はこいつらをどうするかだな……」

 温泉宿のフロントには拘束された5人の男がいる。フィアナが気絶させている間に武装を解いてロープで縛り拘束している。

 盗賊たちが現れることは想定しており、どのように対応するのかは考えていたが、拘束したあとのことはまだ考えていなかった。まさか営業2日目にそんなやつらが現れるとは思ってもいなかったからな……

「普通に元の場所に戻して処刑すればいいのではないですか?」

「………………」

 相変わらずポエルは天使のくせに慈悲はまったくないようだ……

 とはいえ、これに関しては俺もそれが一番手っ取り早いとも思っている。こいつらは俺たちを襲おうとしていたわけだし、正当防衛も十分に主張できるだろう。

「基本的に盗賊や強盗は斬っても罪にはならないし、僕もいつもそのまま斬るか衛兵に突き出しているよ。でも街までこいつらを引き渡すのも難しいし、手間がかかるんだよね」

 フィアナの言う通り、一番いいのは近くの街の衛兵に突き出すことだが、この温泉宿の引き戸は街の指定ができないし、近くの街までこいつらを連行していくのはとても手間がかかる。

 それに衛兵にこの温泉宿のことを説明するのも難しいもんな……

「うむ、妾も賛成じゃな。こうした輩は魔族にもよくいたが、変に情けをかけて解放すればまた同じことを繰り返して、他の善良な民たちが被害を被るだけなのじゃ」

 そう、ロザリーの言う通り、ここで変な情を出してこいつらをこのまま解放をしてしまえば、きっとこいつらはまた同じことを繰り返すだろう。そしてその不利益を被るのは別の冒険者か商人か村人たちである。

 こいつらを出禁にすればもうこの宿に来ることはできないが、そのまま解放して他の人が困るのは嫌だな。

「そうなんだよな……とりあえず、そのまま解放するのはなしだな。だからといって、こんなやつらを殺して俺たちの手を汚すのも嫌だしなあ……」

 さすがにそんな汚れ仕事をみんなに任せるのも嫌だし、俺自身が人を殺すなんて絶対にやりたくない。

 そもそも俺にそんなことができるわけないんだよ……

「ふむ……じゃったらこういうのはどうじゃ?」

「うん?」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「お頭、お頭!」

「……ああん?」

 なんだ、頭がボーっとしやがるぜ……

「いてえ!」

 頭がはっきりすると、今度はいきなり右腕が痛み始めた。

 ちくしょう、あのクソ女に右腕を折られたんだったな。くそっ、覚えていやがれ! アジトに戻って仲間を全員連れてもう一度あの宿を襲ってやる!

 あの女が魔法を使ったのかは知らねえが、気が付けば仲間が全員気を失っていた。だが、アジトに戻れば俺の部下が30人はいる。今度は相手が何か魔法を使う前に全員で突っ込んでやればいい!

 そしてあの女が自分から殺せというくらいまで追い込んでやるぜ!

「お頭……」

「野郎ども、一度アジトに戻るぞ! 他の仲間を連れて全員であの宿を襲うぞ!」

「いえ……その……アジトはどこなんでしょう?」

「なに?」

 部下に言われて気付いた。

 ここはどこだ? 俺たちは街からアジトに戻る途中の岩場で野営をしようとしていたところで、あのおかしな扉を見つけたはずだ。だが今は一面広がる森の中にいる。

 夢……ってことはないな。俺の愛剣もねえし、持ち物も何ひとつねえ。そしてなにより、この右腕の痛みは本物だ。

「森の中か。あのあたりの森だとカウエナの森あたりになんのか……いや、あの森からならどっかに山が見えるはずだが、それも見えねえ……いったいどうなっていやがるんだ……」

 あのあたりの森ならカウエナの森で間違いないはずなんだが、このあたりならどこからでも見えるはずの一番大きい山が見えねえ。いったいここはどこなんだ?

「ちっ……まあいい。とりあえず他のやつらを起こして移動するぞ。武器がねえのはちと不安だが、どうせこの辺りにはつええ魔物なんていねえからどうとでもなる」

「はい、さすがお頭っす!」

「さっさとアジトに戻ってもう一度あの岩場に行くぞ。あのクソ女どもに痛い目を見させてやらねえとな!」

「うっす!」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「これでよしっと。これ以降は俺たちのかかわることではないな。……まあ十中八九死ぬだろうけれど、俺たちを殺そうとしていたわけだし、自業自得ということで」

「川や果物もあったし、運が良ければ数年くらいは生きられるかもしれないのじゃ」

 例の拘束した盗賊たちだが、持ち物をすべて没収したのち、拘束を解いて引き戸の外に解放した。ただし、解放した場所はこいつらがこの温泉宿にやって来た場所ではなく、ロザリーが引きこもっていた森の中だ。

 さきほどのロザリーの提案は、ロザリーが20年近く引きこもっていた森にあいつらを捨ててくるという提案だった。なんでもその森は人族の領域からも魔族の領域からも相当な距離が離れているらしく、他の人に迷惑をかける可能性もないらしい。

 川もいくつかあるし、食べられる草や果物なんかもあって、その森で生き延びることは十分に可能なようだ。……ただ、その森には凶暴な魔物が多いらしいから、その森で寿命をまっとうできる可能性は限りなく低いだろう。

「悪党相手ならそこまで気にする必要ないのにね。ヒトヨシさんが嫌だったら僕がやるのに」

 悪党相手には容赦がない。ただ、どちらかというとこれは完全に俺のエゴになる。

 やっていることは処刑と似たようなものだが、さすがに直接手を下すのはちょっとな……

 一応生き延びられる可能性はあることだし、これからも強盗が来たらこの対応にするとしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール
恋愛
「リリア、お前は要らない子だ」 「リリア、可愛いミリスの為に死んでくれ」 「リリア、お前が死んでも誰も悲しまないさ」  リリア  リリア  リリア  何度も名前を呼ばれた。  何度呼ばれても、けして目が合うことは無かった。  何度話しかけられても、彼らが見つめる視線の先はただ一人。  血の繋がらない、義理の妹ミリス。  父も母も兄も弟も。  誰も彼もが彼女を愛した。  実の娘である、妹である私ではなく。  真っ赤な他人のミリスを。  そして私は彼女の身代わりに死ぬのだ。  何度も何度も何度だって。苦しめられて殺されて。  そして、何度死んでも過去に戻る。繰り返される苦しみ、死の恐怖。私はけしてそこから逃れられない。  だけど、もういい、と思うの。  どうせ繰り返すならば、同じように生きなくて良いと思うの。  どうして貴方達だけ好き勝手生きてるの? どうして幸せになることが許されるの?  そんなこと、許さない。私が許さない。  もう何度目か数える事もしなかった時間の戻りを経て──私はようやく家族に告げる事が出来た。  最初で最後の贈り物。私から贈る、大切な言葉。 「お父様、お母様、兄弟にミリス」  みんなみんな 「死んでください」  どうぞ受け取ってくださいませ。 ※ダークシリアス基本に途中明るかったりもします ※他サイトにも掲載してます

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

最強料理人~三ツ星フレンチシェフの異世界料理道~

神城弥生
ファンタジー
再開遅くなり申し訳ございません。 現在、ノベルアップ+という小説サイトにて、連載を開始。 そちらの方がこちらの最新話を追い抜いたところで、こちらもゆっくりと連載を再開いたします。 ノベルアップ+の方が更新が早くなるので、出来ればそちらの方も読み、応援していただけると幸いです。 書籍化目指し、色々な事を考えた結果、このように期間が空いてしまい、更に別サイトを優先するような事態になってしまい、重ねてお詫び申し上げます。 なろうサイトで、同時投稿しています。 飯テロファンタジー『洋食版』! 料理一筋で生きてきた三ツ星シェフが死んだ。 だが異世界で第二の人生を得た彼は料理の神髄を追い求め旅をする! 誰でもできる料理のコツ、ちょっとマニアックな調理理論など書いてあります。 料理好きな方は是非。 注、戦闘少なめ、料理と人間模様がメインとなります。 HOTランキング二位 ファンタジー六位 全体で10位までいけました! ありがとうございます!

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

剣聖の娘はのんびりと後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ
恋愛
恋愛小説大賞に参加中、投票いただけると嬉しいです。 遂に、杉崎への気持ちを完全に自覚した葉月。 理性に抗えずに杉崎と再び身体を重ねた葉月は、出張先から帰るまさにその日に、遠距離恋愛中である恋人の拓海が自身の自宅まで来ている事を知り、動揺する…。 拓海は空港まで迎えにくるというが… 男女間の性描写があるため、苦手な方は読むのをお控えください。 こちらは、既に公開・完結済みの「ほかに相手がいるのに」の続編となります。 よろしければそちらを先にご覧ください。

処理中です...