上 下
27 / 56

第27話【冒険者視点】①

しおりを挟む

「ふう~なんとか日が暮れるギリギリで川まで辿り着いたな」

「さすがに疲れたぜ」

「お腹が空いたわ~」

 空が赤く染まり、辺りが暗くなり始めたころ、ようやく予定していた川まで辿り着くことができた。柄でもなくこのパーティのリーダーを引き受けている俺としては心底ほっとしている。

 今回冒険者ギルドで受けた依頼は、俺達が拠点にしていた街から歩いて片道4日かかる村からの依頼だ。依頼をしてきたのはそれほど大きくない村で馬車なんて出ていないから歩いて行くしかない。

 駆け出し冒険者では少し荷が重く、下手をすれば村の人達にも危害が及んでしまうほどの魔物が出てきてしまったから俺達Cランク冒険者パーティに話が回ってきたわけだな。今は無事に依頼を終えて街に戻っている最中だ。

 正直に言って金額的にはあまり割のいい依頼ではなかったが、街と村の間のこの辺りに現れる魔物はそこそこの価値があり、今回も多少の素材を手に入れることができたからまあ十分だ。

 なんだかんだ言って、村の人達からの感謝の言葉を受けるのは悪い気がしない。俺達3人も村から出てきて冒険者になった口だから、いかに村の付近に出てくる危険な魔物を狩ってくれる冒険者がありがたいかはわかっているつもりだ。今回も村の人達に被害が出なくて何よりだったな。

「さあ、休んでいる暇はないぞ。さっさと野営の準備と飯の準備を手分けしないとな!」

「ちっとは休もうぜ、リーダー」

「私は早く水浴びがしたいわ。もう身体中がベトベトよ……」

 そりゃ俺だって少しは休みたいし、早く川で水浴びもしたい。だけど日が完全に暮れてしまえば、野営と飯の準備がさらに面倒になってしまう。

「……んっ、なんだありゃ?」

「んっ、どうしたランダ?」

「……いや、ウラネの後ろ。さっきまであんなもんあったか?」

「きゃっ!? なにこれ! さっきまでこんなものなかったわよ!」

「なんだこれは……?」

 確かにランダの言う通り、先ほどまでは何もなかったウラネの後ろにいつの間にか謎の扉のようなものが現れた。

 青い布地の上に白い絵のようなものが描かれている。そしてその奥には木とガラスでできたような見たことない扉が突然現れていた。

「なんだこれ……あれっ、裏は真っ黒な面になっているぞ!」

「本当だ。なんだこれ……」

 扉のように思えるこの謎の物体は裏から見ると真っ黒な面になっていた。何かの金属というわけではなく、ランダの言う通り真っ黒な面と表現するしかない。

「これって魔道具じゃない? ちょっとリーダー、罠かもしれないし、触ったら危ないわよ!」

「おっ、おう!」

 不用意に黒い面に触れようとしたところで、ウラネに止められた。確かに不用意だったな。

「どうする、こっちのほうは扉に見えるが入ってみるか?」

「……ものすごく気になるけれど、罠の可能性もあるわね」

「………………」

 さて、どうしたものか。数年間冒険者をやってきたが、こんな話は聞いたことがない。確かに罠の可能性はあるが、あまり悪い感じもしないし、もしかしたらお宝が眠っている可能性もある。

「……十分に注意しながら、扉を開けてみるか?」

「よっしゃ、そうこなくっちゃな!」

「そうね、危険はあるかもしれないけれど、中に何があるのか気になるわ!」

 どうやらランダもウラネも俺と同じ気持ちだったらしい。まあ、ここでこの不思議な扉を開けないようなら、冒険者なんて危険のある仕事はやっていないもんな。

「よし、とりあえず武器を持って、いつでも戦闘ができるように準備しておけよ」

 いつもの戦闘態勢で俺が前に出て、ランダがその後ろ、ウラネがさらに後ろへまわって弓を構える。

「……触っても問題はないようだな。なるほど、押して開く扉ではなく、引いて開ける扉なのか」

 十分に注意して扉に触れるが、どうやら罠ではないらしい。

「それじゃあ、俺が扉を開ける。2人は援護を頼むぞ。なにかあったらすぐに逃げるからな」

「「了解!」」

 さて、この扉の先にはなにがあるのか。願わくばお宝であってくれよ!

 俺は意を決して扉を開けた。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「いやあ~まさかあんな場所に魔道具の扉があるなんて驚いたな!」

「こんな話をしても、きっと誰も信じてくれないぜ!」

「それにしても本当に綺麗な宿ね。見て、ベッドもフカフカよ!」

「おお、こりゃすげえ! 街の宿の硬いベッドとは別物だな!」

 あの引き戸という扉を開けたあと、俺達はこの温泉宿という場所へ泊まることになり、部屋に案内してもらった。

 扉を開けるとそこは別の空間につながっており、見たこともない服を着た男と給仕服を着た銀色の美しい髪をした女性が出迎えてくれた。部屋の造りも街の宿とは異なっていたし、どうやら本当に俺達の国とは別の場所に来たようだ。

 ……それにしてもさっきの銀色の髪をした女性は本当に綺麗だったな。後ろにいた女性も見たことがない美しい服を着た金髪の女性も綺麗だったし、魔族と思われる赤い髪をした少女も可愛かった。

「ねえリーダー、早速温泉に入りましょうよ!」

「お、おう! そうだな」

 この宿の女性従業員のことを思い出していると、突然ウラネに声を掛けられてしまい驚いてしまった。

 そうだな、まずはこの宿にある温泉というものに入ってみることにしよう。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...