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第27話【冒険者視点】①
しおりを挟む「ふう~なんとか日が暮れるギリギリで川まで辿り着いたな」
「さすがに疲れたぜ」
「お腹が空いたわ~」
空が赤く染まり、辺りが暗くなり始めたころ、ようやく予定していた川まで辿り着くことができた。柄でもなくこのパーティのリーダーを引き受けている俺としては心底ほっとしている。
今回冒険者ギルドで受けた依頼は、俺達が拠点にしていた街から歩いて片道4日かかる村からの依頼だ。依頼をしてきたのはそれほど大きくない村で馬車なんて出ていないから歩いて行くしかない。
駆け出し冒険者では少し荷が重く、下手をすれば村の人達にも危害が及んでしまうほどの魔物が出てきてしまったから俺達Cランク冒険者パーティに話が回ってきたわけだな。今は無事に依頼を終えて街に戻っている最中だ。
正直に言って金額的にはあまり割のいい依頼ではなかったが、街と村の間のこの辺りに現れる魔物はそこそこの価値があり、今回も多少の素材を手に入れることができたからまあ十分だ。
なんだかんだ言って、村の人達からの感謝の言葉を受けるのは悪い気がしない。俺達3人も村から出てきて冒険者になった口だから、いかに村の付近に出てくる危険な魔物を狩ってくれる冒険者がありがたいかはわかっているつもりだ。今回も村の人達に被害が出なくて何よりだったな。
「さあ、休んでいる暇はないぞ。さっさと野営の準備と飯の準備を手分けしないとな!」
「ちっとは休もうぜ、リーダー」
「私は早く水浴びがしたいわ。もう身体中がベトベトよ……」
そりゃ俺だって少しは休みたいし、早く川で水浴びもしたい。だけど日が完全に暮れてしまえば、野営と飯の準備がさらに面倒になってしまう。
「……んっ、なんだありゃ?」
「んっ、どうしたランダ?」
「……いや、ウラネの後ろ。さっきまであんなもんあったか?」
「きゃっ!? なにこれ! さっきまでこんなものなかったわよ!」
「なんだこれは……?」
確かにランダの言う通り、先ほどまでは何もなかったウラネの後ろにいつの間にか謎の扉のようなものが現れた。
青い布地の上に白い絵のようなものが描かれている。そしてその奥には木とガラスでできたような見たことない扉が突然現れていた。
「なんだこれ……あれっ、裏は真っ黒な面になっているぞ!」
「本当だ。なんだこれ……」
扉のように思えるこの謎の物体は裏から見ると真っ黒な面になっていた。何かの金属というわけではなく、ランダの言う通り真っ黒な面と表現するしかない。
「これって魔道具じゃない? ちょっとリーダー、罠かもしれないし、触ったら危ないわよ!」
「おっ、おう!」
不用意に黒い面に触れようとしたところで、ウラネに止められた。確かに不用意だったな。
「どうする、こっちのほうは扉に見えるが入ってみるか?」
「……ものすごく気になるけれど、罠の可能性もあるわね」
「………………」
さて、どうしたものか。数年間冒険者をやってきたが、こんな話は聞いたことがない。確かに罠の可能性はあるが、あまり悪い感じもしないし、もしかしたらお宝が眠っている可能性もある。
「……十分に注意しながら、扉を開けてみるか?」
「よっしゃ、そうこなくっちゃな!」
「そうね、危険はあるかもしれないけれど、中に何があるのか気になるわ!」
どうやらランダもウラネも俺と同じ気持ちだったらしい。まあ、ここでこの不思議な扉を開けないようなら、冒険者なんて危険のある仕事はやっていないもんな。
「よし、とりあえず武器を持って、いつでも戦闘ができるように準備しておけよ」
いつもの戦闘態勢で俺が前に出て、ランダがその後ろ、ウラネがさらに後ろへまわって弓を構える。
「……触っても問題はないようだな。なるほど、押して開く扉ではなく、引いて開ける扉なのか」
十分に注意して扉に触れるが、どうやら罠ではないらしい。
「それじゃあ、俺が扉を開ける。2人は援護を頼むぞ。なにかあったらすぐに逃げるからな」
「「了解!」」
さて、この扉の先にはなにがあるのか。願わくばお宝であってくれよ!
俺は意を決して扉を開けた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いやあ~まさかあんな場所に魔道具の扉があるなんて驚いたな!」
「こんな話をしても、きっと誰も信じてくれないぜ!」
「それにしても本当に綺麗な宿ね。見て、ベッドもフカフカよ!」
「おお、こりゃすげえ! 街の宿の硬いベッドとは別物だな!」
あの引き戸という扉を開けたあと、俺達はこの温泉宿という場所へ泊まることになり、部屋に案内してもらった。
扉を開けるとそこは別の空間につながっており、見たこともない服を着た男と給仕服を着た銀色の美しい髪をした女性が出迎えてくれた。部屋の造りも街の宿とは異なっていたし、どうやら本当に俺達の国とは別の場所に来たようだ。
……それにしてもさっきの銀色の髪をした女性は本当に綺麗だったな。後ろにいた女性も見たことがない美しい服を着た金髪の女性も綺麗だったし、魔族と思われる赤い髪をした少女も可愛かった。
「ねえリーダー、早速温泉に入りましょうよ!」
「お、おう! そうだな」
この宿の女性従業員のことを思い出していると、突然ウラネに声を掛けられてしまい驚いてしまった。
そうだな、まずはこの宿にある温泉というものに入ってみることにしよう。
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