上 下
20 / 56

第20話 街でのトラブル

しおりを挟む

「さて、それじゃあ温泉宿に帰ろうか」

 異世界の街で調べたいことはだいたい確認できた。異世界特有の食材についてはまた今度街に来た時でいいだろう。

「もう少し街を回りたかったかな」

「この街にはいつでも来られるから、また休みの日にでも来ればいいよ」

「あ、そうなんだ」

 あの引き戸は一度開いた場所にまた開くことができる。ただし、その場所のしっかりとしたイメージが必要なので、もう一度来たいと思った場所はちゃんと記憶しておかないといけないな。

「人がこれだけいる場所に来たのは久しぶりじゃから疲れたのう……」

 まあ20年も独りで引きこもっていたらそうなるわな。むしろよく頑張ったほうだと思うよ。

 ドンッ

「ぬわっ!?」

「邪魔くせえな。ボーっと歩いてんじゃねえよ!」

 フラフラと歩いていたロザリーに大柄な髭面の男がぶつかった。相手の男もふらついて酒臭い。どうやら酔っぱらいのようだ。

「……すまぬ。今後は気を付けるのじゃ」

 おお!

 ちゃんと俺が事前にみんなへ教えた通り、トラブルを起こさないようにちゃんと謝っている。偉いぞ、ロザリー!

「けっ、チビでガキなんだからもっと気を付けろよ!」

「チビ……ガキ……たかが数十年しか生きておらぬ小僧が調子に乗りおって……」

 あっ、これはガチでヤバいやつだ。主に相手の男の命のほうが……

「おっ、そっちの姉ちゃんは綺麗な面してんじゃねえか。良かったら俺とお茶でもしないか」

 そう言いながら酔っ払った男はポエルのほうをナンパし始めた。

「申し訳ございません。このあと予定がございますので遠慮させていただきます」

 面倒そうな酔っぱらい相手だが、うまくあしらっている。さすがにこの状況で得意の毒舌は披露しないようだ。

「ちっ、お高くとまりやがって! よく見りゃ胸もちいせえし、ブスじゃねえか!」

「髭ダルマ風情が天使の私によくもそんなことを言えましたね……」

 ちょっ!? 天使とかこっちの世界でしゃべるなよ!

 まあ、この状況でそんなことを言っても痛い人にしか見えないけれど……

「おっと、そこまでにしてもらおう。仲間へのこれ以上の侮辱は許さない!」

 酔っぱらいの男がポエルに詰め寄ろうとしたところをフィアナが間に割って入る。さすが元勇者、喧嘩なんてしたことがなくビビっている俺とは違って、大柄で酔っ払った男など意にも介していないようだ。

「護衛だか何だか知らねえが邪魔な野郎だな! ……ってか、てめえは女か? 胸がまったくねえから分からなかったぜ。いいから男女はすっこんでろ!」

「胸がない……男女だと……殺す!」

 ちょっと待て! さすがに流血沙汰はまずい! というかお前は勇者なのに人殺しは駄目だろ!

 この酔っぱらいの男は3人が気にしていることを的確にえぐってきやがる。煽りの天才か!

 しかし、俺から見たらただの自殺志願者にしか見えん!

「フィアナ様、天使である私が許可をします。ひと思いに殺ってください」

「ストップ!」

 許可するな! というかお前は天使だろ! 天使なのに慈悲というものはないのか!

「殺れ、フィアナ! 貴様が殺らねば妾が殺る!」

 いかん、いかん! ここで元魔王であるロザリーが問題を起こしたら、最悪人族と魔族の戦争が再発なんてことになる可能性もありえる!

「ちょっと待ったあ!」

 俺は両手を広げて前に出た。もちろん酔っぱらいの男を背に、3人の前に立ちふさがる方向だ。

 さすがにこの3人といえど、雇い主である俺には手を出さないはずだ。……はずだよね?

「ああん? なんだてめえは?」

「ヒトヨシ様、どいてください! そいつを滅することができせません」

「滅するな!」

 おまえ、本当に天使かよ!? 凶悪すぎるだろ!

「お、おい、兄ちゃん。なんなんだよ、この凶暴な女たちは!?」

 明らかにヤバい殺気を発する3人に気付いた酔っぱらいの男がようやく少し冷静になったらしい。

「うちの連れが本当にすみません。こいつらに変わって私が謝罪しますので、どうかこの辺でご勘弁を!」

 ロザリーはちゃんと謝ったし、どう考えても悪いのはこの男だが、今はそんなことを言っている場合ではない。俺の頭なんていくらでも下げるから、何としてもこのあとに起こる惨劇を回避しなければならない。

 プライド? なにそれ、おいしいの? 時に譲ってはいけないこともあるが、今は俺のプライドなんかよりも、うちの温泉宿の従業員に問題を起こさせないほうが大事である。

「……お、おう。次から気を付けろよな!」

 危険な雰囲気を察知した酔っぱらいの男は大した捨て台詞も吐かずに、足早にこの通りから立ち去って行った。

 危ないところであった。もしあの男がさらに突っかかってきたら、俺ではこれ以上は抑えることができないところであった。本当に命拾いをしたようだ……あの男は。

「おい、あそこまで馬鹿にされたのに逃がしてよいのか!」
 
「ああいうやつはいなくなったほうが世のためだよ!」

「顔はしっかりと覚えました。追跡して息の根を止めましょう!」

「おまえら血の気が多すぎるだろ!」

 魔王であるロザリーはまだしも、勇者と天使が悪口を言われたくらいでそれはどうなんだよ!?

 もうすぐ温泉宿がオープンだってのに、不安しかないのだが……
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...