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第13話 引きこもり

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「珍しい魔法の扉じゃな……ここで従業員を募集しておるというのは本当かのう?」

「はい、表に貼ってあった求人を見てくれた従業員希望の方ですね。履物を脱いで、そちらのテーブルまでどうぞ」

「わかったのじゃ」

 いわゆるのじゃロリというやつなのだろうか。そもそもこの世界の魔族の普通の喋り方がどうなのか分からないから何とも言えないか。

 元勇者であるフィアナを雇うことに成功したが、もうあとひとりくらい従業員がほしいので、引き戸の求人はそのままにしておいた。

 一定以上の強さを持っているのに、あの求人内容で働いてくれる人って意外といるんだな。いや、フィアナみたいに訳アリの可能性も十分にある。注意して面接しなければ……



 フィアナの時と同様にテーブルを挟んでポエルと一緒にソファへ座る。

 目の前にはちょこんとソファに座った女の子がいる。ちなみにこの異世界では労働基準法みたいな法律はないから子供でも働けるぞ。まあ、見た目通りの年齢だったらさすがに雇う気はないけれどな。

「まずは名前と年齢を聞かせてもらっても大丈夫ですか?」

 フィアナの時の反省をいかしてまずは名前と年齢の確認だ。さすがにあの胸で男性というわけではないと思うがな。

「妾の名前はロザリー、年齢は239歳じゃ」

「………………」

 おっと、いきなりの想定外! えっ、その外見でそんな年齢なの!? ロリババアキターとか思う以前に、本当のことなのかすら疑わしい。

「なるほど、ロザリーさんですね。ヒトヨシと申します。こちらの宿の仕事ですが、基本的にはお客様への接客、料理の手伝い、掃除などといった様々な仕事をしてもらう予定です。そちらは大丈夫でしょうか?」

「問題ないのじゃ」

「そうですか。ちなみに今は何をしているのか聞いても大丈夫ですか?」

「ここ20年近くは何もしておらず、魔物を狩ってひとりで暮らしておったのじゃ」

「………………」

 20年はやべえな……

 魔物を狩って一人で暮らしていたということはある程度の強さはありそうだ。

「なんかもういろいろと面倒になってのう……魔族関係めんどくさくてマジ無理なのじゃ……」

「………………」

 なんか人間関係……じゃなくて魔族関係的に何かあったらしい。やはりこの子は魔族なんだな。

 一応今は人族と魔族は停戦協定を結んでいるから、魔族を雇うことは別に問題ないけれど、勇者であるフィアナが何というかだよな。まあその辺りはフィアナが戻ってきたら聞いてみるとしよう。

「20年近く働いていなかったのに、どうして今回働こうと思ったのですか?」

「ひとりはひとりで寂しいのじゃ……それに焼いただけの肉や生の野菜にも飽きてな。そんな時に突然妾の目の前に不思議な扉が現れ、人を探していると書いてあったから、これは運命だと思ったのじゃ!」

 そりゃ20年もひとりだったら寂しいわな。というか20年の間ヒキニートとかメンタルが化物すぎる……

「なるほど。でも仕事は結構大変ですけれど大丈夫ですか?」

 意外と温泉宿の仕事って肉体労働で大変なんだよ。20年ぶりに働くこの子が長時間働けるとはとてもではないが思えない。最悪すぐに仕事を辞めてしまうのではとも思っている。

「た、多分大丈夫じゃ!」

「……本当に?」

「うっ……きっと、おそらく大丈夫じゃ!」

 ちょっと怪しいな、これ。なにせ20年ヒキニートだもんな。う~ん一度採用を見送って、他の人が来ないか数日くらい待ってみてもいいかもしれない。

「そ、そうじゃ! 妾が働けなくなってもこやつらがいるから大丈夫なのじゃ! 召喚サモン!」

「んなっ!?」

 ロザリーさんの手が地面に触れると、そこから謎の紋様をした魔法陣が浮かび上がってきた。それもひとつではなく、5つもの魔法陣だ。

「「「お呼びですか、ご主人様」」」

 そこに現れたのは5人の硬い石でできた人型のゴーレムであった。俺の背よりも少し大きく、人というよりは石を組み立てて人型にしたような形でちゃんと頭や目の部分がある。

「妾の召喚魔法じゃ! 妾ひとり雇えばこれだけの人手が使えるようになるし、ゴーレムだけではなく、契約した他の者も召喚することができるのじゃ! ほれ、妾は有能じゃろ! 他に行くところもないし、どうかここに置いてほしいのじゃ!」

(この数のゴーレムを召喚できるとなると、かなりの腕前になりますね。普通の召喚士であれば、多くて2体も呼べれば優秀な召喚士と呼ばれますから)

(おおっ、そりゃすごい! ロザリーさんをひとり雇うだけでこれだけ労働力が増えるのは願ってもないことだな!)

(フィアナ様もそうですが、どうしてこれほど優秀な人材がこんな場所に集まってくるのでしょうね……)

(こんな場所って言うな! いいんだよ、この温泉宿はこれから大きくなるんだから! ……たぶん)

 確かに運が良すぎてちょっと怖いくらいだ。実は隠しチートスキルなのがあって、幸運値カンストしているんじゃないのか……何もなかったら、逆にこの幸運の反動が怖くなるのだが……

「よし、ロザリーさんを採用するよ。俺はヒトヨシでこっちはポエルだ。これからよろしく頼む」

「おお、感謝するのじゃ! ヒトヨシにポエルじゃな。妾のことも呼び捨てでいいのじゃ! これからよろしく頼む!」

 ロザリーがパチンと指を鳴らすと、ゴーレムたちが消えていった。

 召喚魔法とはずいぶんと便利な魔法だな。俺も魔法が使えたりしないのだろうか。

 ガラガラガラ

「ヒトヨシさん、無事に王城に手紙を送ることができたぞ! ああ、なんというすがすがしい気分なのだ! これぞ人間、これこそが自由なんだな!」

 どうやらフィアナも無事に辞表を国に送れたらしい。

 うん、解放感に溢れているところ悪いんだけど、うちで働くことが決まっているから自由ではないんだよね。

「無事に辞められたようでなによりだよ。そうだ、紹介するよ。新しく従業員として雇うことになったロザリーだ」

「……ヒトヨシさん、本当にこの者を雇うのか?」

 先ほどまでの解放感に溢れた笑顔から一転して真剣な面持ちになるフィアナ。

「えっ、そのつもりだけど……もしかしてフィアナは魔族が苦手だったりする?」

「いや、以前戦ってきた相手ではあるが、今は停戦協定が結ばれているからそこはいい……でも本当にを雇うのか?」
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