上 下
4 / 56

第4話 大浴場

しおりを挟む

「おお、これはすごい!」

 ウインドウを操作することによって、目の前の温泉のお湯の色が次々と移り変わっていく。

 実家の温泉宿を元にして宿の簡単な設計図を書いてから、クリエイトを使って温泉宿のフロアを次々と作っていった。

 予算の関係上、温泉宿に必要なものから順番に揃えていく。このクリエイトという能力はあとから新しいフロアを簡単に増設できるから便利な能力だ。

「くっくっく、しかも主役となる温泉の湯は様々なお湯に切り替えられるのか、最高じゃないか!」

 クリエイトで作ったこの大浴場フロアには温泉がある。フロントや他の客室をクリエイトした時に付属する装飾品はついてこなかったのだが、この大浴場に関しては大きな大理石でできた湯舟と蛇口とシャワーが付いていた。

 しかもちゃんと蛇口をひねれば水もお湯も出る仕組みになっている。そして何より素晴らしいのがこの温泉だ。なんとこの温泉は湯舟の湯をウインドウによって切り替えることができるようだ。

 一口に温泉と言っても、その泉質は様々なものがある。二酸化炭素泉、炭酸水素塩泉、硫黄泉、ラジウム泉などなど、それぞれの泉質で湯の色や匂いや効能などがそれぞれ異なる。

 この大浴場ひとつでいろいろな温泉を楽しめるとか最高すぎるだろ!

「女湯で高笑いしている男……完全に事案ですね」

「やかましい!」

 たまたま女湯のほうだっただけだし! てか天界にも事案とかあんのな!

 どうやら天界も平和で安全な世界というわけではないらしい。

「しかもこの温泉には治癒効果や魔力回復効果があるとか、いろいろとすごいな」

「魔力の回復には多少の時間が必要ですからね。魔力を使い切った者達に喜ばれることは間違いないでしょう」

「ふむふむ。ただ温泉が素晴らしいというだけじゃなくて、そっちのほうもこの温泉宿の売りにできそうだな」

 それがどのくらいすごいことなのか俺にはわからないが、この温泉にも付加価値がつけられそうならなによりだな。

 そしてありがたいことに自動でお湯は供給されるうえに、浴槽の清掃もいらないそうだ。

 実際のところ大浴場の清掃ってかなり大変なんだよ。少しでも放っておくとすぐにカビが発生するし、排水溝とかのぬめりを取ったり、髪の毛を捨てたりと地味に面倒な作業をしなくてすむのは本当に助かる。

「あの駄女神にしてはいい仕事をしてくれるな。特にこのお湯を切り替えたり、自動で清掃してくれる機能とか素晴らしいよ!」

「そのあたりを調整したのは私達天使ですね。お湯を切り替えるのは結構複雑な仕組みなので、この短い期間にしてはよくできたと思います。私達もサービス残業をして頑張ったかいがあります」

「本当にありがとうございます!」

 あの駄女神マジで仕事しろよな!

 あと天界にもサービス残業ってあるのね……天界なのに思ったよりもブラックでびっくりだわ……

「とりあえず温泉宿としての最低限の施設は確保できたかな」

 理想を言えば大浴場に追加で露天風呂や他の浴室なんかもほしいところだが、それを作るにはポイントが足りない。少しずつ追加で施設を増やしていくとしよう。

「おっと、もうこんな時間か。今日はここまでにしておこう」

 ポイントで購入した時計を見ると、すでに17時を回っている。温泉宿を作るのに夢中すぎて、休憩も取らずにひたすら作業をしていた。

 自分の理想の温泉宿を自分で考えて作るなんて楽しくてしょうがなかったから、ついつい時間が経つのを忘れてしまったようだ。

「それでは今日の仕事はここまででよろしいですね」

「うん。ポエルも休みなく働かせてごめんね。明日からはちゃんと休憩時間も決められた時間に取るようにするから」

「いえ、これくらいでしたら大丈夫ですよ。それに本日からはしっかりと残業代も出るのでお気になさらず」

「あっ、そうなんだ……」

 今日からはちゃんと残業代も出るらしい。とはいえ、明日からは就業時間にも気を付けないといけないな。

「それでは今日はこれで失礼しますね」

「あっ、ちょっと待って。残業代が出るなら、今日だけはもう少し付き合ってくれない?」

「はい?」



「さてと、気合を入れて作るとしますかね!」

 ここは温泉宿の厨房だ。うちの温泉宿の厨房を元にクリエイトで作ったが、今後のことを考えて少し広めに作ってある。

 最低限の調理道具もすでにストアで購入済みだ。

「せっかくならポエルにも温泉宿の良さを分かってもらいたいからな」

 ポエルにはもう少しだけ残ってもらって、今日できたばかりの温泉宿を実際にその身で体験してもらうことになった。

 実際に試してみて、その感想を聞かせてほしいという名目だが、単純に温泉宿の魅力を味わってほしいと思っているだけだ。せっかくここで働いてもらうのなら、温泉に入る気持ちよさと、食事の楽しさの両方を知っていてもらわないとな。

 ポエルは今温泉に入っているので、その間に俺は晩ご飯を作る。板前さんに何かあった時のために、俺は調理師免許を取っている。一応温泉宿の息子として接客から料理まで一通りのことはできるように学んできた経験が役に立ちそうだ。

 さて、何を作ろうかな。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

処理中です...