上 下
90 / 95

第90話 遠征2日目

しおりを挟む

「ユウキ殿、ユウキ殿」

「う、う~ん」

 まだ眠い。なんだまだ外は真っ暗じゃないか。ってあれ、いつもの俺の部屋じゃない。そうか、ローラン様の遠征に同行しているんだった。まだ外は暗いけどもう明け方近くか。

「おはようございます、リーブさん」

「おはようございます。もう1時間もすれば夜明けの時間かと」

「わざわざありがとうございます」

「いえいえ、見張りで起きていますからたいしたことありませんよ。それよりも昨日のご飯とても美味しかったです!まさか、野営をしてる最中にあんなにうまいご飯にありつけるとは思ってもいなかったです」

「そう言ってもらえて何よりですよ。でも昨日はほとんどできたものを持ってきただけですからね。今日からが本番です」

「なるほど、期待しております。何か手伝うことはありますか?」

「いえ、エレノアさんが手伝ってくれる予定なので大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「ああ、そういえば今回はエレノアがいるんでしたね。ユウキ殿も大変だと思いますが、どうかあいつに料理というものを教えてやってください」

「ユウキでいいですよ。昨日手伝ってもらった時は全然大丈夫でしたね。普通に包丁とか使えてましたよ」

「いや、そりゃ包丁くらいは使えて当たり前じゃないですか」

「………………」

 そうだよね、俺の感覚がおかしくなっているけど、普通の人は包丁くらい使えるよね。どこかの屋敷のメイドのようにすっぽ抜けて後ろに突き刺さるようなことはないよね。

「前にあいつが作ったものを食べたのですが、しょっぱくて食えたもんじゃなかったんです」

「なるほど、どうやら味付けに問題がありそうなかんじなんですね。教えてくれてありがとうございます、ちょっとそのあたりを気をつけて見てみますね」

「ええ、よろしくお願いします」



「おはようございます、ユウキさん」

「おはようございます、エレノアさん。それじゃあ今日の昼ご飯を今のうちに作っちゃいましょうか」

「はい、よろしくお願いします」

 といっても別に昼食は軽食レベルでたいしたものを作る予定はない。日が出ているうちに進む必要があるし、お昼に馬を少し休ませるための休憩時間の間に食べられる物にしないといけないからな。





「よし、それでは出発するぞ。今日は川のあるところまで進む予定じゃからな、みな気合を入れるのじゃ」

「「「はい!」」」

 昼ご飯の準備も終わり、野営の撤収も終わって二日目の旅路が始まった。とはいえ、行者をしない俺は馬車の中でローラン様達とトランプをしているだけなんだけどな。

 今日はラウルさんが行者でエレノアさんとリーブさんがこっちの馬車に乗ってローラン様とトランプの相手をしていた。当たり前だが、ローテーションで御者とローラン様の馬車に乗る人は変わるらしい。



「……くそ、ポーカーも勝てないのかよ」

「くっくっくっ、本当にユウキは弱いのう。まったく何のゲームなら勝てるんじゃ?」

「ぐぬぬぬ……」

 昨日に引き続き今日はトランプを使い馬車の中で4人でポーカーをしている。木のコインをチップ代わりにしているのだが、ついには俺の目の前からコインがなくなった。かわりにローラン様の前には50枚以上のチップがある。

 昨日の大富豪というゲームは運の要素がかなりの割合を占め、一度大貧民に落ちてしまえば、そこからしばらくは逆転が難しい。そのため今日は運の要素の他に駆け引きが重要な要素であるポーカーで勝負することになった。しかし、その結果は見ての通りローラン様の圧勝で2位がリーブさん、3位がエレノアさん、4位が俺という結果になった。

 昨日の大富豪もそうだが、ローラン様は運がとてつもなく強く、なおかつ切り札の切り方や駆け引きが圧倒的にうますぎる。この人本当にスペックが高すぎるんだよ。

「ほれ、次のゲームはなんじゃ?どうせならお主の得意なゲームにしたらどうじゃ?」

 ……大富豪とポーカーが俺の得意なゲームだったとはいえない。俺自身はあまり運がないことは自覚しているが、それを場のカードや状況を見極めて戦略で補うのが好きなんだよ。しかしそれもローラン様にはまったく通用しなかった。

 あと4人でできて、馬車の揺れの中でできるゲームはダウトと戦争とババ抜きくらいか。う~ん、どれもこの人に勝てる気はしないんだが。

「ローラン様、少し開けたところに出たので、ここで馬の休憩と昼食にしてはいかがでしょうか?」

「うむ、そろそろお腹も空いてきたのう。よいぞ、ここで休憩じゃ」

「はっ!」

 どうやらここで一度休憩を入れるようだ。馬もそれほど速くは走ってはおらず、一台の馬車を2匹で引っ張っているとはいえ、1日に2~3回の休憩は必要となる。

「それでは俺は昼食の準備をしてきますね」

「うむ、期待しておるぞ!」



 さて、朝に準備をしていたので、あとは軽く焼いていくだけだ。10人分でとにかく量があるからな、どんどんやっていこう。エレノアさんも手伝ってくれるのはだいぶ助かるな。

「できたぞ、今回作ったのはホットサンドだ。前に変異種の討伐の時に作ったサンドウィッチを焼いたみたいなもんだな」

「ほう、今回はだいぶ速いのう。それに何やらいろんな種類があるようじゃな」

「朝に準備をしていたからあとは焼くだけにしておいたんだ。種類はたくさん作っておいたから好きなのを食べてくれ」

「ふむ、ではこれにするかの。……うむ、中には薄く切られたハムと温められてとろけたチーズが入っておる!うむ、シンプルじゃが温かくてとてもうまい」

 ホットサンドの定番だけどうまいよな。特にとろけたチーズが最高なんですよこれが。

「ほう、こっちは茹でた卵とベーコンか。そしてこっちはポテトとチーズ、そしてこっちは甘辛い味の肉、そしてこっちは果物のジャムが入っておる!」

 ホットサンドやサンドウィッチの強みはお手軽にでき、そして何よりいろんな種類を作れることだからな。自分だけしか食べないなら2~3種類でいいが、せっかく大人数で食べるということもあり、全部で8種類くらい作ってみた。

 大きな皿の上に乗せ、自分で好きなものをとって食べれるというのも魅力的だ。ひとつひとつはそれほど大きくないから、全種類は無理でも4~5つくらいは食べれるだろう。

「ぐぬぬ、まだ全種類食べれてないのにもうお腹がいっぱいじゃ……」

「ちょっと手抜きだけど明日も同じメニューだからその時に違う種類を食べれば大丈夫だよ」

 パンもそうだが、足の早い食材は早めに使い切っておきたいからな。あとホットサンドのいいところは、とりあえず何でもいいから入れて焼けば大体のものがうまくなる。わざわざローニーにホットサンドメーカーを作ってもらった甲斐があったようだ。

「それを早く言うのじゃ!ならば残りの味は明日の楽しみにとっておくかのう」

 ローラン様が食べ終わった後は護衛のみんなで食べ始めた。手軽に食べれるので見張りの人に持っていくことも可能なのもホットサンドのいいところだ。

 結構多めに作ったつもりだったが、みんな思ったよりもよく食べたので用意していた分がすべてなくなってしまった。明日はもう少し多めに作ったほうがよさそうだな、こりゃ。




 そして午後の旅路も特に問題なく進んだ。日暮れまでに今日の目的地である川の近くまで到着することができた。

「今日も予定通りに目的地についたようじゃな。皆の者、このままの調子で頼むぞ」

「「「はい!」」」

 今日も予定通り進めているようだ。今日の野営する場所には水場があることは聞いている。川の水を見てみると汚れもなくだいぶ澄んでいるので煮沸すれば問題なく飲めそうかな。さすがにローラン様に万が一のことがあったらまずいから、ローラン様には街から持ってきている水を使う予定だ。

「今日はどのようなものを作るのですか?」

「今日は俺の故郷でよく食べられている麺料理にします。まずは朝作っておいたこの小麦粉の塊を切っていきます」

 今日の晩ご飯はジャパニーズトラディショナルうどんだ。まずは朝作って寝かせておいたうどんのタネを均一に切る。そしてカツオ節のような素材はなかったので、代わりとなる小魚を干した煮干しもどきと醤油でツユを作る。

 そしてうどんを茹で野菜やキノコ、干し肉を入れてひと煮込みすれば完成だ。お手軽に作れるところも楽でいい。うどんの場合は伸びてしまうから先にローラン様の分だけ作っていおいて、他のみんなの分は後で茹でる予定だ。

「お待たせ、今日の晩ご飯は俺の国でよく食べられていた麺料理のうどんだ。結構熱いから気をつけてな」

「ほう麺料理は久しぶりじゃな。ふむ、以前に食べたものとはだいぶ違うのう」

 そういえば麺料理はこの世界にもあるんだったな。ただツユというようなものはなく、塩味や香辛料で味をつけたものしかないようだ。

「小魚を干したものでダシを取って醤油という調味料で味をつけたものなんだ。うちの屋敷では好評だったけど、合わないようだったら違うスープも作れるから言ってくれ」

 あまりないとは思うが、醤油がダメな人もいるかもしれないからな。

「どれどれ。……うむ、素朴じゃが魚の香りがして良い味じゃ!そしてこのスープが染み込んだ野菜や肉と一緒に、この食感の良い麺が絡みあってこそ、この料理をいっそう高みへと引き上げておる!」

 相変わらずの食レポぶりである。一言でうまいとか、美味しいで十分なのにな。

「ああ、口にあって何よりだ。今日は昨日と同じように焼きナナバのデザートがあるから、また少しお腹を空けといてくれ」

「おお、今日もデザートがあるのか!わかったぞ、おかわりは少しだけにしておこう」

 おかわりは前提なんだな。意外とこのお嬢様も結構な量を食べるんだよね。まあこれだけ美味しそうに食べてくれれば、作ってる方も嬉しくもなるもんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ
ファンタジー
突如現代世界に現れたモンスターたちに世界は騒然となる。そして主人公の家がダンジョン化してしまい、そのコアを偶然にも破壊した主人公は、自分にゲームのようなステータスがあることに気づく。その中で最も気になったのは、自分のジョブ――『回避術師』であった。そこはせめて『回復術師』だろと思うものの、これはこれで極めれば凄いことになりそうだ。逃げて、隠れて、時には不意打ちをして、主人公は不敗過ぎるこの能力で改変された世界を生き抜いていく。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?

ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。 が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。 元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。 「やはり、魔王の仕業だったのか!」 「いや、身に覚えがないんだが?」

処理中です...