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第75話 ドルネルの屋敷
しおりを挟む金ピカキンの高そうな壺や花瓶、よくわからないものが描かれた大きくて色鮮やかな絵画が所狭しと並んでいる。更には金色の鎧や何かの魔獣の毛皮まで飾られていてまるで美術館のようだ。明らかにこの街の領主の1人であるアルガン家の屋敷よりも豪華な物が飾ってある屋敷である。
「これはこれはアルガン様、本日は我が屋敷までご足労いただきまして誠にありがとうございます」
「いえいえ、ドルネル様。いろいろと立て込んでおりまして久しく挨拶に来れずに申し訳ございません」
「構いませんよ、なにやら先日は大変だったそうですね。ご無事でなりよりでした」
今日はいよいよドルネルのやつの屋敷にやってきている。以前話していた通り、アルゼさんと俺も同席している。相変わらずどっぷりと豚のように太っており、派手な指輪やネックレスを見せつけるように身につけている。
「……ええ、おかげさまで大きな被害はありませんでしたわ。それにしても相変わらず素晴らしいお屋敷ですね。あちらの絵画なんてとても素敵です」
「おお、わかってくれますか!いやあ、いい買い物をしましたよ。高い金を払った甲斐があるというものです、がっはっはっは!アルガン様も一枚いかがですかな?なんでも最近はかなり儲かっているそうではないですか」
エレナお嬢様はまず社交的な挨拶から切り出している。ドルネル側には右手に奴隷紋があるガタイの大きい男が1人と後ろに3人の男が控えている。ガタイの大きい男も3人も武器を腰に差している。
対するこちらはというと、俺もアルゼさんも武器は置いてきている。あくまでも今回の目的は調査と牽制である。いくらこいつでも自分の屋敷で領主様を襲わないだろうし、逃げるだけなら黒の殺戮者級のやつがいなければエレナお嬢様を抱えて逃げる事は十分可能だろう。
それにしてもこの男がアルガン家を襲撃した黒幕のはずなんだが、以前に会った時と全く変わらない態度をしている。本当にこいつが黒幕なのかと疑わしくなるほどだ。
「ええ、我がアルガン家から出しているお店も順調ですわ。人も活気もお父さま……いえ、前領主の頃よりもにぎわってきております」
「……そうですか、それはなによりです。それで今日はどういったご用件でしたかな?」
「私が領主になってからまだ一度しか挨拶に伺っておりませんでしたので、今一度挨拶させていただければと思いました。それといくつかお伺いしたいこともありましたので」
「ほう、伺いたいことですか。なんでしょうかね?」
「いえ、大したことではないのですが、ドルネル様はルーゼルという貴族をご存知でしょうか?」
「……ええ、確かアルガン家を襲ったという貴族でしたか。わしも多少は商売で会ったことがありましたが、まさかあそこまで大それたことをするやつとは思いませんでしたな」
一応交流があったことは認めるようだ。
「そうですね、私もほとんど関わりがなかったのにあそこまで大規模な襲撃をしてくるとは思ってもおりませんでした。ゆえに私達はこの襲撃にはルーデルの協力者か黒幕がいると踏んでおります」
「………………」
エレナお嬢様からジャブが入る。今のところドルネルのやつに怪しい動きはない。ここまではある程度ドルネルも想定していたということだろう。
「確かルーデルの屋敷を憲兵が調べたと聞いておりますが、特に不審点はなかったのではないのですか?」
「あら、さすがにお耳が早いですね。もうそこまで情報を掴んでおりますとは」
「……ええ、明日は我が身ですからな、そういった情報は常に得るようしております」
「さすがですね。ええ、憲兵の調査では特に不審な点はございませんでした。ですが、我がアルガン家で調査をしたところ、いくつか不自然な点がございました。アルゼ、お願い!」
「ハッ!」
ここからはエレナお嬢様からアルゼさんにバトンタッチだ。
「アルゼと申します。ここからは私が説明をさせていただきたいと思います」
「……老騎士のアルゼ殿か、お噂は聞いておりますよ」
「ドルネル様に名を覚えていただけたとは光栄です。さて、ルーゼルの屋敷を調査したところ、どう計算してもやつにあれほどの規模の奴隷購入費用や魔法使いを集められる資金はなかったのですよ」
「今回の襲撃で全ての資金を使い切って何も残っていなかったということですかな?」
「いえ、商業ギルドの協力を経て過去の取引を全て遡りましたが、どう計算してもルーゼルにそれほどの資金が残っているわけがないことが確認できました。明らかに第三者から資金を受け取っていることは明白です」
「………………」
商業ギルドに残っている過去10年以上も前の資料からランディさん達が時間をかけて計算をしてくれた。細かい取引や納めている税金など膨大な資料だったにも関わらず、たった数日の間にまとめてくれたことには本当に感謝しかない。
「また、今回の襲撃に参加していた魔法使いと傭兵について、魔法使いは生かして捕らえることができませんでしたが、傭兵達の話を聞くところによると家族を人質に取られたり、多額の金で雇われていたようです。
先日冒険者ギルドに偽名を使った不審な依頼者から、この辺りで暮らしている魔法使いの情報を集めるという依頼が出ていたそうですな。こちらの依頼者についても探っております」
「………………」
こっちは冒険者ギルドのガードナーさんからの情報だ。おそらくはこの依頼で数少ない魔法使いの情報を得て、脅迫のための材料を手に入れたのだろう。この不審な依頼者も目下調査中だ。
「いずれにしてもルーゼル1人ごときの力ではこれ程の準備をすることができないということが我々の結論となります。
そこでドルネル様にお伺いしたいことがございます。ルーゼルの取引経歴の中にはドルネル様と取引をされていたことが多くあったと聞いております。その際に何かおかしなことはごさいませんでしたか?」
「いえ、特に不審な点はございませんでした。……もしかして私を疑いですかな?」
「いえとんでもない。ルーゼル本人が死んでしまったので、こうしてやつと関わりがあった人から話を聞くことしかできないのですよ。ドルネル様も何かルーゼルについてご存知のことがありましたらお教えいただければと思います」
「……いえ、私もルーゼルとはそれほど関わりがなかったものですからな。そうだ、確か隣の領のフォスター卿がルーゼルと懇意にしていると聞いたことがあります」
さすがに向こうもこちらがドルネルを疑っていることをある程度察しているようだ。こちらとしては牽制目的の意味もあるので問題ない。ドルネルから出たフォスターという貴族は、確かにルーゼルと懇意にしていた貴族だが、調査の結果は限りなく白に近いことが判明している。
「なるほど、フォスター卿ですか。これは貴重な情報を誠にありがとうございます。早速屋敷に戻ったら調べさせていただきます」
「……いえ、お役に立ててなによりです」
今のところ多少の動揺はあったものの、決定的な証拠やボロを出してはいない。敵もなかなか手強い。
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