上 下
51 / 54

第51話 決着

しおりを挟む

「痛えええ! て、てめえ、なんだよその力は! 俺のスキルが効いてねえのかよ!?」

 いや効いているよ。むしろ勇者のスキルの力がバフになってくれているみたいだぞ。

「くそっ、ふりほどけねえ!」

 勇者が反対の腕で俺を引き離そうとするが、大した力ではない。どうやら互いに勇者の神聖神域スキルの範囲内にいる場合には俺の力のほうが圧倒的に強いようだ。

「うおっ!?」

 馬乗りになっていた勇者を引きはがして、勇者の喉元をつかんだ。

「ぐ、苦しい……」

 悪いがオッサンにも余裕がない。勇者はまだ魔法を使えるだろうし、まだヤバいチートスキルを隠し持っているかもしれない。何もさせないうちに首を絞めていく。これなら魔法の詠唱もできないはずだ。

「がはっ……」

 力加減など分からない素人であるため、とりあえず思いっきり首を絞めた。しばらく首を絞め続けると勇者が意識を失ったように脱力する。

 だが油断はしない。少し首を絞める力を緩めるが、首から手は離さない。一応気配察知スキルの反応はあるから、まだ生きてはいるらしい。

 しばらくすると勇者のチートスキルである金色の光が消えて、身体が重くなった。

「予定とは全然違ったけれどなんとかなったか……」

 俺が予定していた状況とはまったく異なっていたが、なんとなってよかったよ。

『魔王様、聞こえますでしょうか!』

『ジン様、聞こえますか!』

『魔王殿、聞こえますか?』

 デブラーやリーベラ達、人族の街の領主から念話スキルによる連絡が絶え間なく入っていたようだ。どうやら戦闘に意識を集中していると通信はできなくなるらしい。

 だがやることは山積みだ。まずはこのまま勇者を連れて……

「転移!」



「おお、魔王様、ご無事で!」

「魔王様、心配しておりました!」

 魔王城に転移すると、広間にはすでに魔王軍四天王と幹部が集まっていた。すでに勇者との戦闘準備は万全のようだった。

「ま、魔王様! その者はまさか……」

「ああ、勇者だ。突然戦闘となったが、なんとか倒すことができた」

「「「おおおおおおお!」」」

 全員が一気に湧き上がった。この戦争の最大の敵である勇者を倒したのだから当然と言えば当然か。

「それよりもジルベとその部隊が負傷している。すぐに勇者を例の地下牢に入れて、現地へと戻りジルベ達を治療する!」

「「「はっ!」」」

 今すぐにでもジルベ達の元へいって治療をしたいところだがまずはこの勇者だ。俺が転移魔法を使って先ほどの場所に戻っている間にこの勇者が目を覚ますと面倒なことになる。

 すぐに気絶している勇者を連れて魔王城の地下に作った特別製の牢獄に勇者を入れてから、回復魔法を使用できるものを連れて先ほどの場所に転移した。



「ジルベ! 生きているか!」

「………………」

「まだ息はある。早く回復魔法を頼む! 他の者もすぐにここに連れてくる!」

「「「はっ!」」」

 俺の問いかけに返事はないが、気配察知スキルを発動するとまだジルベの気配はあった。他にもまだ生きている者がいる。

 急いで辺りに吹き飛ばされていたジルベの部隊の者達を一ヶ所に集めていく。

「「「エリアヒール!」」」

 まだ息のある者達に範囲型回復魔法を複数人で重ねてかけていく。

「……おう、魔王。てめえがここに戻ってきたってことは勇者の野郎に勝ったんだな?」

「ああ。ギリギリのところだったがな」

 よかった、どうやらギリギリで間に合ったらしい。他の者も回復魔法によって傷が少しずつ治っていく。

「他のやつらはどうした?」

「……今息があるのはここにいる者達だけだ。あとはこの平原から逃げることができた者も何人かいるだろうな」

 気配察知スキルで反応があったのは、ジルベを含めて今治療をしている7人だけだ。ジルベの部隊はもともと30人以上いたはずだから、先ほど見てしまった何人かの遺体だけでは人数が合わない。おそらくは10人以上がこの平原から脱出できたに違いない。

「やっぱり何人かは守れなかったか……俺はまた守れなかったんだな……」

「それは違う! そもそも今回の件は勇者の動きを見切ることができなかった我の責任だ。おまえは十分に責任を果たした。ジルベが勇者と戦ってくれたおかげで部下の半数以上は助かったのだからな!」

「そうっすよ、隊長のおかげて俺達は命拾いしたっす!」

「俺は倒れながら隊長の戦っているところを見てましたけれど、本当にすごかったです! 一生隊長についていきます!」

「ああ、死んでいったやつらも隊長が生きていてくれて喜んでいるに違いないですよ!」

 ジルベも部下に慕われているようだな。部下を守るために自らが前に出てあの勇者と戦ったんだ、誰もジルベを攻めるようなことをするわけがない。

「それにおまえ達が勇者と遭遇しなければ、勇者の奇襲は成功して我が討たれていたかもしれぬ。あるいはもっと大きな被害が出ていた可能性も大いにある。勇者を討てたのはお前達のおかげでもあることを十分に誇るがいい!」

「けっ……」

 実際のところ、ジルベ達がいなければ本当にどうなっていたか分からない。あのチートスキルは俺に効果がなかったが、奇襲を受けていたら俺が殺されていた可能性も十分にあった。

「それで勇者の野郎は殺したんだろうな?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

持ち主を呪い殺す妖刀と一緒に追放されたけど、何故か使いこなして最強になってしまった件

玖遠紅音
ファンタジー
 王国の大貴族であり、魔術の名家であるジーヴェスト家の末っ子であるクロム・ジーヴェストは、生まれつき魔力を全く持たずに生まれてしまった。  それ故に幼いころから冷遇され、ほぼいないものとして扱われ続ける苦しい日々を送っていた。  そんなある日、 「小僧、なかなかいい才能を秘めておるな」    偶然にもクロムは亡霊の剣士に出会い、そして弟子入りすることになる。  それを契機にクロムの剣士としての才能が目覚め、見る見るうちに腕を上げていった。  しかしこの世界は剣士すらも魔術の才が求められる世界。  故にいつまでたってもクロムはジーヴェスト家の恥扱いが変わることはなかった。  そしてついに―― 「クロム。貴様をこの家に置いておくわけにはいかなくなった。今すぐ出て行ってもらおう」  魔術師として最高の適性をもって生まれた優秀な兄とこの国の王女が婚約を結ぶことになり、王族にクロムの存在がバレることを恐れた父によって家を追い出されてしまった。  しかも持ち主を呪い殺すと恐れられている妖刀を持たされて……  だが…… 「……あれ、生きてる?」  何故か妖刀はクロムを呪い殺せず、しかも妖刀の力を引き出して今まで斬ることが出来なかったモノを斬る力を得るに至った。  そして始まる、クロムの逆転劇。妖刀の力があれば、もう誰にも負けない。  魔術師になれなかった少年が、最強剣士として成り上がる物語が今、幕を開ける。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!

naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。 うん?力を貸せ?無理だ! ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか? いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。 えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪ ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。 この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である! (けっこうゆるゆる設定です)

処理中です...