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第22話 これから
しおりを挟む「けっ、上等だ。いずれてめえを超えてやる。不本意だが、それまではてめえに従ってやるとすらあ。……だが、人族を殺さねえっつうことだけは従えるかわからねえぞ」
「……そうだな。それはこちらでも考えるとしよう」
一族全員を皆殺しにされたんだ。人族を目の前にしたら、その怒りを抑えることは難しいかもしれない。
俺だって目の前に事故で両親を奪った相手がいたら、衝動的に相手を殺そうと動く可能性は高い。できる限り人族と直接戦闘をさせないよう配慮するとしよう。
「……にしてもてめえは本当にあの時の人族なのか? 雰囲気といい態度といい、あの時と全然違うじゃねえか」
「………………」
そういえばずっと魔王黒焉鎧を身に付けたままだったな。このスキルは魔力や体力を消費するわけではない。何が起こるか分からないこの異世界では、常に身を守っておいたほうがいいだろう。
一度鎧を解除して人族の姿を見せる。ジルベの性格上、さすがにこの状況で不意討ちなんてしてこないだろう。
「ちっ、一番最初におどおどしていた態度は俺達の油断を誘うフェイクだったわけか。まあいい、今のほうがまだマシだ」
「……まあそういったところだ」
そう言いながら改めて鎧を身に纏う。
いや、あっちが完全に素のオッサンなんだがな……今はリーベラとデブラーが言うように、魔王として舐められないために強い口調をしているだけだ。正直こっちの口調は地味にしんどいぞ。
「……この状況で私だけが従わないわけにはいかないようだ」
魔王軍四天王の最後のひとりである青い肌にヤギのような角を生やしたルガロが前に出て、リーベラやデブラーのように跪いた。
「その力は確かに見せてもらった。どうやら前魔王様の力すらも超えているようだ。私もそなたを魔王様として認めることをここに誓う」
「そうか。だが不満があるのならいつでも相手になろう。その時は遠慮などせずに言うがよい」
暗殺とか反乱とか本当にやめてね。言ってくれれば魔王の座なんかすぐに譲るから。
ルガロは魔王軍四天王一の魔法の使い手らしい。デブラーも優秀な魔法の使い手ではあるが、どちらかと言えば知識面や戦略を担当しているようで、魔法の威力に関してはルガロに軍配が上がるようだ。
魔法の知識に関してはこれからデブラーから学ぶが、俺の現在の魔法の知識はないに等しいからな。初見殺しの魔法とか、ヤバい魔法で暗殺とかされてはたまったものではない。
「「「我らも魔王様に従います!」」」
魔王軍四天王全員が俺に従うことを宣言したため、決闘のリングの周りにいた魔王軍の幹部達も、その場に跪いて俺に頭を下げてきた。
どうやらこれで俺は名実ともに魔王となったようだ。俺自身がこうしようと決めたのだが、どうしてこうなったんだか……これからのことを考えるとオッサンは気が重いぜ……
「さて、まずはこれからのことについてだ」
決闘場から場所を移して会議室のような部屋に移動してきた。この場には俺と魔王軍四天王の4人の合計5人がいる。
とりあえず一休みしたいところでもあるが、早急になんとかしておきたいことがひとつある。そのため、今後のことについて魔王軍四天王と話をすることになった。
「先も言ったように、人族と魔族の戦争について、まずは停戦を目指そうと思う。魔族側から停戦の申し出を人族におこない、受け入れられる可能性はどれほどある?」
「間違いなく受け入れられる可能性はございません。昔に結びました停戦協定は人族と魔族の力が完全に拮抗していたため、互いに無駄な犠牲を出さないためにおこなわれた協定です。
前魔王様が勇者に討たれ、人族に追われて魔族の支配領域が減りつつある圧倒的に劣勢なこの状況では、停戦の申し出が受け入れられる可能性は万にひとつもないかと」
だよなあ……
デブラーの言う通り、圧倒的有利なこの状況で人族側がこの停戦協定の申し出を受け入れる可能性はほぼないと思っている。人族と魔族が対立して数百年間殺しあってきた間柄だ。
この機を逃さずに、魔族を殲滅しようとしてくるだろう。あるいは人族への隷属を求めてくるに違いない。
「人族が停戦協を受け入れる可能性があるとすれば、魔王様の脅威が人族に知れ渡った時ではないでしょうか?」
……まあそうなるだろうな。前魔王以上のヤバい魔王が現れ、均衡かそれ以下に陥らない限りは、人族が停戦協定を受け入れることはないだろう。
「まずは魔族側、人族側に新たなる魔王様が現れたことを大々的に発表するのはいかがでしょう? 魔王軍の士気は大幅に上がりますし、前魔王様の力を知る人族の戦意を多少は奪うことができるかと考えます」
「……ああ、そうするとしよう」
本当はそんなことしたくないなあ。そんなことをすれば、魔王である俺が人族の完全なる敵になる。同じ人族に命を狙われる身になるのはちょっとつらい……
とはいえ、停戦協定を結ぶためには魔王の存在が必須か。
「あとは魔王様の圧倒的なお力を人族に見せつける必要性がございますね」
「そんなもん、人族の街を片っ端からぶっ潰せば簡単じゃねえか。さっきのやべえ魔法を使えば、小さな街なら一発で潰せるだろ」
「ジルベ、できる限り人族の犠牲は減らすと魔王様が仰っていただろう」
「けっ!」
ジルベの乱暴な発言をデブラーが嗜める。確かに圧倒的な力を見せつけるにはそれが一番手っ取り早いが、そんなことをしてしまえば、何千何万の人々が死ぬことになる。人族の俺がそんなことを許すわけがない。
「だが、ジルベの言うことにも一理ある。もちろん人族を殺す気はないが、魔族の領域付近にある街を片っ端から襲撃して魔王の脅威を広めるという手段は悪くない」
「だろ!」
魔王の脅威を見せるために片っ端から街を襲撃したり、前線で魔族と戦っている人族をひたすら叩くという手段が手っ取り早い。それに加えてもうひとつ早急になんとかしたいことがある。
「人族の街を襲撃していくと同時に、人族に捕らえられた魔族も救うとしよう」
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