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第20話 銀狼なる力

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 銀狼なる力シルバーフォースとは銀狼族が持つ固有スキルだ。この世界には個々が持つスキルの他に種族による固有スキルというものが存在する。

 このスキルはただでさえ高い銀狼族の身体能力をさらに上昇させるスキルだ。

 ジルベの身体が輝く銀色の光に包まれていく。ただでさえ美しい銀色の毛並みが銀色に光り輝くことで、より一層美しく見える。

「いくぜ!」

 ダッ

「ぐっ! 障壁!」

 バキンッ

 とっさに張った障壁魔法がギリギリ間に合った。小さなヒビが入りつつも、先ほどよりも速く鋭いジルベの攻撃をなんとか耐えきった。

「くかかっ、やるじゃねえか! まさかこの一撃を人族が防ぐとはよ! おらっ、まだまだいくぞ!」

 ガガガガッ

「ファイヤーバレッド、ウォーターバレッド!」

「はっ、んなもん当たるかよ!」

 くそ、これだから脳筋ってやつは! 

 身体能力を強化してぶん殴るのはシンプルに強い! 身体能力強化は地味で応用が利かないと思われることも多いが、極めればこれほど厄介なものはない。

 先ほど撃ったファイヤーバレッドに加えて、水球を高速で相手に放つ水ウォーターバレッドも同時に撃ったのだが、こちらの攻撃はすべてかわされた。

 魔法に詳しいデブラーが言うには、俺が使う魔法は普通の魔族が使う魔法よりも魔力が大きく、その威力もスピードも優れているらしいが、それでもジルベには一発さえかすりもしなかった。

「オラオラオラ!」

 バキンッ

「ぐっ!」

「ちっ、逃げ足は速えじゃねえか!」

 ジルベの攻撃の連打により、俺の障壁が砕け散った。とっさに大きく後方に飛ぶことによってジルベの追撃をなんとか避けた。

 きちいなあ……いろいろと身体中にガタのきているオッサンにこんな肉体労働させんじゃないよ、まったく。

 ……だけどようやく

「次は逃がさねえぞ! その障壁ごとてめえを……っ!?」

 ジルベが話している言葉を遮って一気に前に出た。この決闘が始まってから一度も俺から攻めたことがなかったため、ジルベも意表を突かれたようだ。

 思考加速スキルで周囲の時が遅く感じる中、一直線にジルベのほうへ走り、右ストレートをジルベの顔面に向けて放つ。

 完全に油断していたにもかかわらず、持ち前の身体能力で無理やり顔をずらしてジルベは直撃を避けた。

「……てめえ。なんだ、その速さと力は!」

 無理やり距離を取ったジルベの口からは血が滲んでいる。俺の拳はかすっていただけだが、ダメージはあったようだ。

「別に身体能力強化はお前だけが使えるわけじゃない」

 身体能力強化スキル、俺も持っているスキルで魔王召喚された時にも身体能力の高いジルベを一撃で気絶させるほどの力だ。だがそれだけでは銀狼族の固有スキルによりさらに強化されたジルベの身体能力には届かない。

 魔王黒焉鎧スキル、実はこの鎧はただ頑丈なだけの鎧ではない。この鎧と兜を身に付けているときは、その身体能力と魔法の威力をさらに引き上げるという効果を持っていた。

 これにより今の俺は強化されたジルベよりもさらに強い身体能力を有している。

「ふざけやげって! 人族が調子に乗っているんじゃねえ!」

 今度は向こうから攻撃を仕掛けてくるが、その攻撃を真正面から受け止める。ジルベの攻撃を真正面から受ければ、普通の者なら受けた腕がへし折れるほどの威力だ。

 だがその攻撃を俺は難なく受け止めていく。この身体能力で思考加速スキルを使いながらの戦闘にようやく慣れてきた。いくら魔王の力が強大であっても、それを使う俺がその力を使いこなせていなかった。

 リーベラとデブラーの戦闘訓練ではジルベほどの速さを再現できなかったので、この速さには実際にジルベの動きを見て慣れるしかなかったのだ。

「くそが! なぜ当たらねえ!」

「お互い様だっての!」

 ジルベの攻撃は身体能力を強化しつつ頑丈な鎧を身に纏った俺には届かない。だが、こちらの攻撃もジルベには届かなかった。たとえ身体能力が勝っていたとしても、戦闘の経験がまったく足りていない。

 最初の俺の攻撃からまともなダメージを与えられないまま、しばらくの間膠着状態が続いた。



「ハアッ……ハアッ。てめえの力、ちったあ認めてやるよ」

「そいつはどうも……」

 ジルベの攻撃を避け損なって何度か受けたが、鎧に阻まれてまったくダメージはなかった。対する俺の攻撃はジルベにまったく届いていなかった。身体能力が多少上回っていても、戦闘経験の差は簡単には埋められないようだ。

 俺はまったく疲労していないので、このまま続ければいつかは勝つことができそうだ。

 普段のオッサンならば、数分運動しただけですぐに息切れをして、次の日には筋肉痛というコンボが待っているが、どうやらこの身体にはその心配がないらしい。

「それじゃあそろそろでいくぞ」

「なんだとっ!?」

 だが、魔王の力を認めさせるにはまだ足りない。ここにはもうひとりの四天王であるルガロと他の魔族の幹部達がいる。ここで圧倒的な力を見せておかねばならない。

 具体的に言うと中途半端な力を見せて、こいつチョロいじゃんみたいに思われてしまっては、反乱を起こされる可能性も出てくる。反乱なら逃げればいいが、暗殺とかされたらたまったものではない。こちとら中身はただのオッサンだっての。

 身体能力でジルベを圧倒することはできなかったが、魔王の力には魔法の力がある!

炎焔葬送えんえんそうそう!」

 俺の目の前に巨大な炎の球が現れ、10m以上に膨れ上がっていく。そしてただ大きいだけではなく、その火力は決闘のために作られたこの頑丈なリングをも溶かし始めている。

 デブラー曰く、歴代の魔族の中でも限られた者しか使うことができない伝説級の魔法らしい。

「………………参った、降参だ」

 それを見たジルベが両手を上げて降参の意を示す。

 よかった、どうやらジルベはただの脳筋ではないらしい。さすがにこの魔法が直撃すればジルベの強靭な肉体でもただでは済まないはずだ。

 当然俺も脅すためだけで、実際にジルベに向けて撃つ気はなかったが、狙い通り降参してくれて良かったよ。
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