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第179話 約束

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「俺の世界に連れていく……?」

 サーラさんは今なんと言った? 俺の世界に連れていく? 俺の世界とこの世界を繋ぐ扉が閉ざされてしまい、もう二度と開くことはない可能性があることはもう伝えた。それでもサーラさんは俺と一緒に俺の世界に来てくれると言っている。

「はい。お父様やダルガやジーナ達と会えなくなるのは寂しいですが、それでも私はマサヨシ様と一緒にいたいのです!」

「………………」

「私はもう何度もマサヨシ様に命を救われております。言ってしまえば、もう私はこちらの世界には存在しないのと同義でしょう。それにまだこちらの世界への扉が閉まると決まったわけではないのでしたら、私もまたこちらの世界に帰って来られる可能性はありますよね?」

 確かにサーラさんの言う通り、サーラさんをこちらの世界に連れてくることはできるのかもしれない。このままアンデに大魔導士の力を継承しなければ、こちらの世界でサーラさんがある程度自由に生活することはできるのかもしれない。

 でも、それはサーラさんにとって本当に幸せなことなのだろうか? 俺が家族や友人を捨てることができない代わりに、サーラさんが父親やダルガさんやジーナさんを置いて、ひとりだけこちらの世界にやってくる?

 それにサーラさんがこちらの世界に来たとしても、そのあとの生活はどうなる? 当たり前だがこちらの世界にはサーラさんのような耳の尖ったエルフなんて存在しない。大魔導士の家にある魔道具や、魔法を使えばそれを隠すことができるかもしれないが、一生それを隠しながら生きて行かなけれならない。

 もちろん戸籍や身分証明書などもないし、普通の人と同じように生活するのは難しい。最悪俺が生きている間は大魔導士の力を使ってどうにでもなるかもしれない。しかし、サーラさんはハーフエルフだ。俺の寿命よりも長く、俺が先に亡くなったあとのことはどうなる? いくら大魔導士の力でも寿命を延ばすことなんてできない。

「……サーラさんの気持ちはとても嬉しいです。俺なんかのためにそこまで言ってくれて嬉しく思います。ですが、サーラさんを俺の世界に連れて行くことはできません。

 俺の世界にはサーラさんのようなエルフという種族はいません。変装をしなければ外を出歩くこともできないんです。それにこちらの世界の言葉はまったく通じなくなります」

「言葉ならマサヨシ様の国の言葉を覚えます! それに外を出歩かなくても、私はマサヨシ様さえいてくれればいいのです!」

「サーラさん……ありがとうございます」

 そこまで言ってくれるサーラさんの気持ちは本当に嬉しかった。でも俺は彼女にそこまでさせるわけにはいかない。彼女はまだ幼い、そんな彼女を俺の世界に連れて行くわけにはいかない。サーラさんをいろんな不自由で縛るわけにはいかないんだ。

「俺はあなたを俺の世界に連れて行くことはできません。今の俺ではサーラさんを本当の意味で幸せにすることができないからです。でも、どうか少し間だけでもいい。俺のことを待っていてはくれないですか?」

 本当に彼女のことを思うなら、俺のことを忘れて幸せに暮らしてくれと言ったり、サーラさんから俺の記憶を消してあげたほうが彼女の幸せになるのかもしれない。でも俺にはそんなことはできなかった。サーラさんとの今までの思い出を消すことなんて決してできない!

 ……そうか、いつの間にか俺はこんなにも彼女のことを好きになっていたんだな。彼女の優しい笑顔が見たい、彼女と一緒に美味しいご飯を食べるのがとても楽しい、彼女を幸せにしてあげたい、心の底からそう思う!

「……もちろん待っております、いつまでも待っております! ですが、それでしたらやはり私を一緒に連れて行ってはくれないでしょうか?」

 うっ……そんな顔をされると今すぐにでもサーラさんを連れ去ってしまいたくなってくる。

「大丈夫です。絶対に俺はまたサーラさんの元に戻って来ますから! その時は俺のほうから結婚を申し込みます!」

 大丈夫、アンデは本当の意味で天才だ。自分で長く努力して大魔導士の力を超えた、俺とは違う本物の天才だ。あいつに大魔導士の力を継承すれば、すぐに扉を直してくれると俺は信じている。

「マサヨシ様……」

「サーラさん……」

 気が付けば俺はサーラさんを抱きしめ、キスをしていた。

 年齢とかモラルとか、帰ってこれるとかこれないとか、今はすべてがどうでもよくなった。今すぐサーラさんを抱きしめてキスをしたいとそう思った。

「必ず帰ってきてくださいね」

「はい、必ず!」
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