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第168話 日本を案内

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「かなり混んでおるな。ここはそれほど人気のある店なのか?」

「いや、全然。むしろ大衆店の中の大衆店だぞ」

 アンデやフー助と入った店はどこにでもある牛丼のチェーン店だ。さすがにフー助はそのままの姿で牛丼屋にはいれないので、小さくなって俺の頭の上にいる。

 お昼時の牛丼屋なら、いつもこれくらいのお客はいるぞ。こちらの世界のお金はあまり持っていないから、牛丼屋で勘弁してもらおう。

「お待たせしました! 牛丼並と味噌汁サラダセットになります」

「ほう、随分と早いのだな」

「え、え~と……」

「提供が早いと褒めています」

「なるほど……ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ!」

 アンデは言語理解スキルを持っていないようで、こちらの世界の人とは言葉を交わせないし、文字も読めないらしい。

 とりあえず店員さんに不振がられている様子はなさそうだ。普通の外国人に見られているっぽい。

「むっ、これはうまい! タレのかかった肉をこの白いものと一緒に食うとなかなかいけるな。そしてこっちの野菜にかけるこの液体は酸味が効いていてうまい。このスープも初めて味わう味だ」

 どうやら600円程度の牛丼セットでも満足してくれたようだ。まあ初めての異世界の食べ物という補正はあるかもしれない。俺も向こうの世界で初めて食べた魔物の肉の味は未だに覚えている。



「……どの場所にも大勢の人がおるのだな。それに争いの気配がまるでしない」

「来る前にも言ったけど、こっちの世界は平和だからな。昔は国同士の戦争が結構あったけど、今はほとんどの国で戦争はしていない。あと奴隷制度もないし、人種差別なんかもほとんどなくなっている。それに魔物とかドラゴンみたいな危険生物もいないから、みんな平和に暮らしていけるんだ」

「……世界が変わるとここまで変わるのだな」

「少なくともこの世界ではアンデが世界最強であることは間違いないから、無闇に戦ったりするなよ」

 個人としての力ならアンデが最強であることは間違いない。ボクシングや総合格闘技の世界チャンピオンでさえも、アンデの敵ではない。こちらの世界の兵器を使えばわからないが、それは個人の力ではないからな。

「……我もそこまで馬鹿ではない。争いや奴隷、差別などないほうが良いに決まっている」

「それならよかったよ。しかし今日は本当に暑いな……アイスクリームでも買って帰るか」

「アイスクリーム?」



「……マサヨシ、なんだこれは?」

「これはアイスクリームという冷たい菓子だな」

 アイスクリームのお店に入ってアイスを2つ購入した。いつもならコンビニで100円くらいのアイスしか買わないが、昼は牛丼で安くすませたからこれくらいは奮発するとしよう。

 コーンにクッキーアンドクリームと、なんの味だかよく分からないカラフルなアイスの2段アイスである。カップのアイスもいいが、アイスクリーム屋で頼むならこういうアイスに限る。

「……冷たくて甘いな」

「今日みたいな暑い日にはピッタリだろ」

 ベンチに座りながらアイスを食べる。……しかし今更ながら男2人でベンチという状況はなかなかきついな。しかも相手は100歳を超えている。見た目は外国人の子供だから、子供を世話しているように見えるのはまだ救いか。

「この世界は平和だし、魔法という便利なものがないから、料理や技術が進んでいったのかもしれないな。さっき食べた牛丼よりもうまい料理もいっぱいあるぞ。まあ向こうの世界のドラゴンの肉とかみたいに、とんでもなくうまい肉はないかもしれないけどな」

「……平和であるが故に別の技術が進むということか。悪くはない世界だな」

「とはいえ魔法がある世界というのも俺達にとっては羨ましい。お互いないものねだりなんだろうな」



 そんな感じでアンデを連れながら付近の店などを案内していった。特に車や電車などの乗り物に興味を持っていたな。魔法を使わずに100人以上を乗せて空を飛ぶ飛行機があるということを聞いて、ものすごく驚いていた。

 あと予想通りというべきか、店にあったテレビにも驚いていたな。テレビという物の存在を知らなければ、なぜあんな薄い板に人の姿が映るのか分かるわけがない。

「それじゃあ、もう少ししたら母さんが帰ってくるから、悪いけど元の世界に戻ってくれないか?」

「ああ、その間に師匠の残した書物を見させてもらうがよいか?」

「もちろんだ。というよりそもそも俺の物でもないんだけどな。大魔導士の弟子であるアンデが引き継ぐのが筋じゃないのか?」

「師匠の手紙にはあの手紙を読んだ者にすべてを引き継ぐと書いてあった。ならばあの家や書物はすべてマサヨシの所有物となるのが筋だ」

 そういえば大魔導士の手紙にはそんなふうに書いてあったな。しかし魔法の仕組みをちゃんと理解していない俺にとって、せっかく大魔導士が残したものも宝の持ち腐れとなる。

「少なくとも俺には魔法の細かい理論や仕組みなんかはわからないから、アンデが有効活用してくれ。そのほうが大魔導士も喜ぶだろ」

「……まあよい。とりあえず読ませてもらうとしよう」

 アンデは扉を通って異世界へ戻り、俺は晩ご飯を作って、久しぶりに母さんと過ごした。短い間だったが、この1週間は本当に長く感じたよ。ようやく日常に戻ってきた気分だ。
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