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第52話 ドラゴンの肉

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「ド、ドラゴンの肉!?」

「そ、そりゃ興味はあるが……」

「すっごく高そうだニャ……」

「もちろんお金はいりませんよ。というか一人じゃ絶対に食べきれないので、むしろ手伝ってください」

「いや、それなら貴族や王族とかに売れば言い値で買い取ってくれるんじゃ……」

「いえ、もうお金は十分ありますので。それよりも見知った人達と一緒に楽しく食べた方が俺も幸せです」

 もうこっちの世界のお金は十分だからな。

「そ、それじゃあ、ありがたくご馳走になる!」

「はい! 少し台所をお借りしますね」

 リリスさん達の家の台所を借りる。思ったよりも綺麗な台所……というよりはほとんど使われていない感じだ。あんまり自炊とかしないのかな?

「最近はあまり使ってないから、包丁とかは一度洗った方がいいかもな。冒険者になりたての頃は節約のために毎日自炊していたんだけどな、最近は忙しくて外で食べることが多いんだ」

 なるほど、確かに付き合いとかもいろいろあるだろうし、A級冒険者にもなると忙しいのだろう。ただ立派な台所なのに少しもったいない。高価な魔道具のコンロが二つもついている。

 ちなみに冒険者ギルドに寄る前に見てきたが、俺が買った魔道具の値段は適切だった。麓の村まで行って俺が買った店に強制返金させずにすんで本当によかったよ。



「あれがドラゴンの肉か」

「解体をお手伝いしていた時にも思いましたが、結構赤みが深い肉なのですね」

「ワイバーンは食ったことはあるが、ドラゴンは初めてだ。どんな味がするんだろうなあ」

「楽しみニャ!」

 ……めっちゃ見られてる。いや確かに調理しているところを見ててもいいかと聞かれて、いいと答えたんだけどここまでガン見されるとは思っていなかった。

 本当は肉を焼いて日本の調味料をかけるだけの予定だったんだけど、何かもう一品くらい作ってみるかな。うん、せっかく時間も調理器具もあるし、試してみるか。俺を含めて料理をする人って結構な割合で褒められたり注目されると凝った料理を作りたくなるんだよね。



「お待たせしました!」

「「「おおお~!」」」

 大皿にこれでもかと乗せられたドラゴンの肉。前回のワイバーンの料理と同様に塩胡椒、黄金の味、おろしのタレの3種類を用意してある。

「こっちがドラゴンの肉を焼いたもので、味付けも3種類あるので好きなだけ食べてくださいね」

「そんなに味があるのか?」

「塩以外にも味があるのですね?」

「そしてこっちが俺の故郷の料理です」

 そして3つの皿の他にもう1皿、今回新しく作った料理だ。

「こっちのは初めて見る料理だな」

「作り方を見ておりましたけれど、よくわかりませんでしたわね」

「まあまずは乾杯しましょう!」

「おう、みんな、飲み物は持ったな? それじゃあマサヨシ、頼む」

「あっ、はい。それでは領主様の回復と全員無事に戻れたことを祝って、乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 ちなみに俺とネネアさんは果汁ジュースで他のみんなはお酒である。一応この世界には年齢によるお酒の年齢による販売制限みたいなものはないらしい。年齢確認とかやろうと思っても難しいものな。

 確か元の世界でも海外とかに行ったら、飲酒の年齢制限はその国の法律に従うはずだ。つまりこの世界で俺は酒を飲んでもいいことになる。異世界を海外としてもよいかは微妙なところだがな。

 そして先程少しだけこの世界のお酒をもらったのだが、とても美味しいとは思えなかった。今回はせっかくのドラゴンの肉だし、美味しいと思える果汁のジュースをいただこう。

「うわっ!! なんだこれ!!」

「うっま!!」

「ニャニャ!!」

「美味しいですわ!!」

 うん、みんないい反応をしてくれる。

 さあ、俺もいよいよドラゴンの肉をいただこうじゃないか! まずはシンプルな塩胡椒から。とはいえすでにワイバーンの肉は食べている。いくら美味いとはいえそれほどの感動があるとは思えないが……

 ワイバーンより深い赤みがかったドラゴンの肉。しかし入っている白い脂のサシはワイバーンよりもさらに多く入っていた。

 厚さはあえて均一にせずに様々な厚さでドラゴンの肉を楽しめるようにしておいた。一番最初は少し厚めのステーキくらいの厚さのこいつからだ! ナイフを通すとその柔らかな肉の繊維があっさりと断ち切れる。中からはまだ少し赤みが残った部分が姿を現す。

 歯を入れるとなんの抵抗もなく噛み切れる。そして肉の脂の旨味が凝縮した味が口の中に広がっていく! ワイバーンの肉を食べた時はこれ以上の味はないと思っていたが、それをこうもあっさりと超えてくるとは!

 確かにこの味は王族や貴族達しか食べられない贅沢の極みの味だ。夢にまで見たドラゴンの肉! これでひとつ異世界での夢が叶ったな!

「……こんな美味い肉があるんだな。それも3皿全部味が違ってどれも美味え!」

「どの味もとっても美味しいニャ! お兄ちゃん、こっちのお皿のはどう食べるニャ?」

「最初はそのまま食べてみてください。そのあとはこのうちの故郷のソースをつけてみても美味しいですよ!」

 今回は焼いた肉だけではなく、ドラゴンのを作ってみた。ちゃんと卵とパン粉で衣をつくってしっかりと油で揚げたトンカツ……じゃなかった、ドラゴンカツだ。ルクセリアやエガートンの屋台を回ってみたが、揚げ物を出している屋台はひとつもなかった。もしかしたらこの世界ではまだ揚げ物という概念がないのかもしれない。

「んん!! サクサクとした食感からドラゴンの肉の旨味が溢れてきやがる! しかもこれはエールにめちゃくちゃ合うじゃねえか!」

「はい、リリスさん。ここでドラゴンカツにこの中濃ソースをつけてもう一口どうぞ」

 しかもソースの定番、中濃ソースである。日本にはいろいろなソースがあるが、ぶっちゃけ個人的にはこれ一本あればすべて解決すると思っている。

「うん、このままでも美味いのに更に美味くなったぞ!!」

「マサヨシ様、私にもください!」

「マサヨシ兄さん、俺も欲しい!」

「お兄ちゃん、私も!」

「ええ、お腹いっぱい食べてくださいね!」
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