上 下
80 / 84
連載

第128話 焼き立てパンとベーコン

しおりを挟む

「それじゃあ、まずはこっちのパンから食べてみようか。とりあえず見た目は良い感じで焼けているね」

「こんなにふわふわしていて柔らかいパンは初めて見ました。これが酵母というものの力なのですね!」

 このパンはレーズンのような果物を使った天然酵母液を使用して焼いたパンだ。いくつか作ってみた天然酵母液の中で、こいつが一番泡を出していたから期待している。

 もちろん単純に泡がたくさん出てればいいというものでもないとは思うけれど、こねた生地はちゃんと膨らんでいたし、焼き上げたパンはいつものパンと比べると遥かに柔らかかった。

「うわあ~すっごくいい香りだね!」

「おう、すっげ~うまそうだぜ!」

「ホホーホー!」

 まだ焼き立てのパンを半分に割ると、中からは白い湯気と共においしそうな小麦の香りが広がっていく。この世界の小麦は元の世界の小麦のように完全に真っ白というわけではないけれど、それでもめちゃくちゃおいしそうである。

「うん、食感が変わるだけでこんなに味が変わるのは驚きだ!」

「っ!? いつも食べているパンよりも遥かにおいしいです!」

「うん! 柔らかくって、とってもおいしいよ!」

 外側はパリッとしていて、中はもっちりと柔らかい。細かい味で言えば元の世界のパンには敵わないかもしれないが、少なくともこちらの世界の固いパンよりも遥かにうまい。

 焼き立てというのもだいぶ大きいだろうな。しっとりとした焼き立てのパンは噛むたびに小麦の味がじんわりと口の中に広がっていく。

「こりゃうめえな!」

「ホホ―ホー♪」

 俺以外のみんなの反応もいいようだな。ただのパンだけなのにこれだけ味が違うとみんなが驚くのもわかる。

「少し面倒かもしれないけれど、いつものパンよりもこっちの方がおいしいから、これからはパンを焼いていこうか」

「ええ、賛成です!」

「うん!」

 よしよし。パンはほぼ毎日食べるし、味の改良ができてなによりだ。時間は少しかかるが、天然酵母液は果物ひとつでできるからお金もほとんどかからない。これで食卓が豊かになるのは嬉しいところだ。

「……こっちのパンはあまり膨らんでいないみたいだし、こっちのパンは天然酵母液の元になった味がパンに移っちゃっているな」

「全然味が違っていて面白れえな。俺はこっちのパンの味が好きだぜ!」

「ホホ―!」

 天然酵母液の種類やパンに入れた分量によって微妙に味や柔らかさが違っている。カルラとフー太がそれぞれ選んだのは違うパンし、それぞれの好みによって一番好きなパンは分かれそうだ。

 それにオーブンレンジの発酵モードを使わずに発酵させたら味が変わるかもしれない。このパンでも十分においしいけれど、他の焼いたパンも試してみてそれぞれが一番おいしいと思ったパンのレシピを覚えておくことにしよう。

 あと今は基本的で失敗が少ない丸パンだけれど、いろんな形や味のパンがあるからな。キャンピングカーのオーブンレンジでパンを焼けることもわかったし、旅をしながらおいしいパンを焼く方法を模索していくとしよう。



「次はベーコンだね。こっちは時間が掛かったぶん、うまくできているといいなあ」

 ベーコンは1週間以上前から仕込んできたものだ。この世界では塩やコショウなどが高価なこともあって、ベーコン自体が少し高級品だ。やはり塩やコショウを補充できるのは大きいな。

「うおっ、すげえ量があるじゃねえか!」

「2種類の肉を2種類の方法で作ってみたからね。どれがおいしかったか教えてね」

 ワイルドディアとダナマベアの肉を塩漬けにしたものとソミュール液に漬けた計4種類を用意してある。おかげでキャンピングカーの冷蔵庫の方は肉でいっぱいだったな。まあ、アイテムボックス機能があるから大丈夫だったけれど。

「少し厚く切ったベーコンの両面を軽く焼いてと……」

 4種類のベーコン皿へ載せる。こいつにアウトドアスパイスを掛ければ最高の酒のツマミになるのだが、まずは味を見るためにそのまま食べてみる。これがうまくいけば、今回手に入れたドラゴンの肉でもベーコンを作ってみるつもりだ。

「うわあ、おいしい! どれもとってもおいしいよ!」

「ええ、これはいいですね! 普通に肉を焼いて食べるよりもおいしいかもしれません!」

「うん、どれもなかなかいけるな」

 4種類のベーコンを食べ比べてみる。

 元の世界では何度か作ったことのある手作りベーコンで、この世界の肉で試すのは初めてだったが、うまくできたようだ。まあ、ちゃんと塩抜きの味見をしたし、そこまで間違いはないと思っていた。

 そこをちゃんと確認しないと塩抜きが甘くてしょっぱすぎたり、塩抜きをし過ぎて味が薄かったりしてしまうのが失敗の要因のひとつでもある。

「うおっ、どれもめちゃくちゃうめえ! 順番を付けるのが難しいな。このどっちかの肉からは選べねえぞ……」

「僕もダナマベアのお肉の方が好きかな!」

「私もそちらの方が好きですね。どちらも同じくらいおいしいです」

「ホホ―!」

「やっぱりダナマベアの肉の方がベーコンに適しているみたいだな」

 ワイルドディアの方もわるくないけれど、ダナマベアのベーコンの方がうまいのはみんな同じ意見のようだな。ダナマベアの方が高級肉というのもあるが、ベーコンには適度に脂身のある方が適している。ワイルドディアは赤身部分がだいぶ多かった。

 塩漬けとソミュール液はそれほど変わらないみたいだ。個人的には塩漬けにした方がベーコンの塩っけにムラがあって逆に好きだったりする。人間の舌は味にムラのある方がより差を感じられると聞いたことがある。

 ふむ、手作りベーコンもいい感じだったな。さて、それじゃあ焼き立てのパンとベーコンを使ってもう一品くらい作ってみるとするか。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。 その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。 その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。 さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。 様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。 ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。 そして、旅立ちの日。 母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。 まだ六歳という幼さで。 ※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。  上記サイト以外では連載しておりません。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。