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第85話 夕暮れ時
しおりを挟むコレットちゃんの服や雑貨などを購入してから一度宿へ戻って荷物を置いてくる。
食材なんかはこの街を出る際、一気に購入するつもりだ。キャンピングカーの収納機能のおかげで傷みやすい魚介類も購入することができるのは本当に助かる。
「おお~実際に近くで見てみるとすごい大きさだね!」
「す、すごい……先が見えないくらいの水がありますよ!」
「うわ~すっごいね!」
「ホーホー!」
そしてこの街で有名なマイセン湖までやってきた。マイセン湖はこの街に接していて、奥のエリアは漁場のため船がいくつも泊まっているけれど、このエリアでは一般に開放されていて、湖で泳ぐこともできるようになっている。
さすがに今日は寒いから湖で泳いでいる人は見かけないけれど、砂の浜辺でのんびりとしていたり、足だけ湖につかってのんびりしている観光客が大勢いた。
「水もだいぶ綺麗に澄んでいるね。俺の故郷だと水が濁っている湖や海なんかが多いんだよ」
湖の水に手を触れてみると、ヒンヤリとしていて気持ちが良く、遠くの湖のそこまで透けて見えるくらいとても綺麗な湖だった。
元の世界では環境問題なんかもあって、川や湖が汚れている方が多いけれど、このマイセン湖は本当に綺麗だ。やはり異世界の自然は環境が汚染されていなくてとても綺麗なようだ。
「すごいですね。本当にこれ全部が水とは信じられません……これなら日照りによって作物が育たない可能性もなくなりますね!」
コレットちゃんが暮らしていたフェビリー村にはフェビリーの滝があって水には困っていなかったかもしれないけれど、村によって水の確保は死活問題になるもんな。
ジーナがいたハーキム村の近くにも川があったけれど、時期によっては川の水が少なくて作物が育たないという経験があったのかもしれない。
「冷たくて気持ちが良いよ!」
「そうだね。でもあんまり奥の方へ行っちゃだめだよ。フー太もあんまり奥の方へ行って湖面に近付き過ぎないように気を付けてね」
「ホー!」
コレットちゃんもフー太も初めて見る湖を前にとてもはしゃいでいる。
元の世界でもそうだが、水の事故はどうしても多いから気を付けなければならない。それにどうやらこの湖には魔物なんかも生息しているらしいから、危険度で言うと元の世界以上だからな。
フー太も空を飛んでいるけれど、どんな魔物がいるのか分からない以上気を付けなければならない。とはいえ、さすがに浅瀬であるこの辺りにまで魔物が来ることはないみたいだ。
「なるほど、これはとても気持ちが良いです」
ジーナは湖に手と足を付けて湖を不思議そうに眺めていて、コレットちゃんとフー太は水を掛け合ったりしながらはしゃいでいる。
なんだか数日前に狩りをして命の危機にあっていた時とは大違いだ。こうやってのんびりまったりと過ごす日々はとも良いものだな。
「おお~これはまた絶景だ」
「マイセン湖に夕陽が沈んでいくところはなんだか幻想的ですね!」
「うわ~とっても綺麗だね!」
「ホー♪」
時刻は夕方。このマイセン湖の一番の見どころである夕暮れ時だ。
時期によっても異なるらしいのだが、今の時期は位置的にちょうど湖の真ん中へと夕陽が沈んでいくようで、この時間帯になると今までいた観光客以上の人がこの浜辺へと集まってきた。
そして橙色をした暁の夕陽がゆっくりと湖面へと消えていく。巨大な湖の水平線へと消えていく夕陽はなんとも幻想的な光景を作り出していた。周囲の観光客と思われる人たちも歓声を上げていた。
「完全に夕日が沈んでいったね。いやあ、確かにこれはすごい光景だったよ!」
「とってもすごかったです! こう、陽の光が消えていってすぐの色がとっても綺麗でした!」
「ええ、本当に素晴らしい光景でした。フェビリーの滝もとても感動しましたが、マイセン湖へ夕日が沈んでいく光景もそれにまったく劣っておりません! 村長の言う通り、世界はとても広いのですね!」
「ホーホーホー!」
とりあえずみんな大満足の光景だったようで、まだ興奮が冷めていないようだ。
フェビリーの滝のあの雄大な光景もとても素晴らしかったが、広い水平線へ沈むこの光景も間違いなく忘れることはないだろう。陽が沈んで夕方から夜になる一瞬だけしか映らないあの美しい色合いはここまで見に来る価値が確かにあるだろう。
元の世界でもそうだけれど、その時その瞬間にしか出会えない光景というものはあるものだ。さすがにこちらの世界でスマホのカメラなんかはあまりに目立ちすぎて使う気もないので、この光景をしっかりと心の中に残しておくとしよう。
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