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「ごちそうさま」

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 話している間に、外はもうすっかり真っ暗になっていた。
 そう言えばお昼ご飯のお弁当を食べ損ねてるし、さっきメープルくんが買ってきてくれたケーキを食べたけど……お腹は結構空いている。
 でもここで、“はい、お腹空きました!”って言えば、どうなるんだろう?彼の質問は、どんな答えを求めてのこと……?
 ぐるぐる考えてしまって、言葉を濁したまま口をつぐむ。

「何か作ろうか?」
「……え?」
「僕が作るから、一緒に食べよう?」
「……ええ?」

 そう来たか。けれども残念ながら私はさっき言ったような理由から料理を全くしないので、調理器具だけは一応あるけど、食材が何もない。
 いや、何も無いことはない、卵とレタスとミニトマト、あとはチーズぐらいなら入ってる。調理しなくてもそのまま食べられるものばかりだ。
 でもこんなものでは何も作れそうにない。

「あのね……、実は、冷蔵庫に何もないんだよね……」
「あ、そうなんだ? んー、ちょっと見て良い?」
「う、ほんとに、空っぽだよ……?」
「うんうん、大丈夫。じゃあ拝見しますー」
「……はいどうぞ……」

 ――と言うわけで、なぜだかメープルくんがあり合わせの材料でぱぱっと料理をしてくれて……、あっという間にビールやワインに合うおつまみが出来上がった。しかも私がほとんど手をつけられなかったから揚げ弁当や総菜をリメイクしてくれて、全く無駄がない。
 そのテキパキとした動きは、昨夜のビーフシチューが彼の手によるものだと理解するには十分だった。

 うわ、料理男子かぁ……。
 ますます勝てる気がしない。別に何も勝負なんてしてないけど。
 そんなことを考えながら、食器棚のビール用のグラスへと手を伸ばす。

「あ、グラスはひとつで良いよ。僕、車で来てるから」
「あー、了解」

 そっか、車なら飲めないね。
 なんか自分だけ飲むのもなぁ、と思ってると「車で来るんじゃなかったなぁ」なんて言ってしょんぼりしてる彼。思わず、車はまた取りに来ればいいじゃん、なんて言いそうになって、慌てて口をつぐんだ。

 食べ物を全部ソファ側のローテーブルへと運んで床に腰を下ろすと、彼も私の隣へやって来て、同じように床へと座る。なぜ彼はこんなに触れそうなほどの距離に座ろうとするのか、理解に苦しむ。
 私が少し離れると、なぜかまたぴったりと身体を寄せてくる。ジロリと睨んだけれどニッコリと微笑みで返されて、私は彼から距離を取ることを諦めた。

 ビールをグラスに注ぎ、「いただきます」と言って彼の作ってくれた料理を口へと運ぶ。予想に違わぬ美味しさで、これはほっぺが落ちそうだ……。

「お味はどうですか?」
「……うん、すごく美味しいっ」
「ふふ、良かった」

 私の隣でふわふわ笑ってて、やっぱり今日も可愛い。その笑顔を見てるとなんだかとても安心してくるから不思議だ。
 ビールと料理を往復しながらそんな事を考えてしまう。まだ一本目の缶が空になったばかりで、酔うにはあまりにも早い。

「こっちはワインも合うよ?」
「ワイン……」
「うん。昨日渡したワインをイメージしながら味付けしたから。開ける?」
「……うん」
「じゃあ僕が開けてあげるねー」

 開栓の手際が良くてまるでソムリエみたいだ。やっぱり仕事でよく開けてたりするんだろうか……。シャンパンとか、ワインとか、毎日何本も開栓してたりするんじゃないかな。
 可愛い女の子にちやほやされて、一晩中一緒に飲んだり甘い言葉も駆使して相手を酔わせてるんでしょ。
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