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あなたを探して
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数時間前にいた駅に、私は再び立っていた。酔っ払ってしまった私を介抱してくれたあの男と、今朝別れたばかりの駅だ。
「ええっと……? どっち、だっけ……?」
改札の出口を出て西口方面へ来たのはいいけれど……そこから先が分からない。
……は? こんな風景だったっけ??
実は私、こう見えても“超”の付くほどの方向音痴で……。
恥ずかしいからなるべくヒミツにしてるけど、実は入社したての頃に広い社内で迷子になったことがあるほどだ。あの時は本当に恥ずかしかった……。
私を指導してくれていた先輩で現在は副社長秘書をしている西村さんに、「今いる場所がどこか分かりません~」って大泣きしながら電話した過去……。
あれは完全に私にとっての黒歴史……。
今朝――。
車で家まで送ると言われたけれど、さすがにそれは全力で断って「電車で帰る」と言い張った私を、彼は最寄りの駅まで送ってくれた。
彼の住む建物から駅まで、そう遠くはなかったと思う。歩いて10分かかるかどうか、ぐらいの距離だ。道もそんなに複雑じゃなかった。多分。
私は駅を出て、あたりをグルリと見回す。
ええっと、確かこっち、だったような……、と思いながら、恐る恐る足を踏み出した。
方向音痴な自覚はあるから、初めて歩く場所はなるべく風景をよく見て目印になるものを覚えるようにしている。ただしそれは、もう一度来る可能性がある場合に限定される。
つまり、彼に最寄りの駅まで送ってもらったけど……目印を覚えるどころか、あまりの気まずさと二日酔いのせいで重い頭を抱えていたから、風景なんてほとんど何も見ていなかったのだ。
それにあの時は、まさかもう一度ここに来ることになるなんて思いもしなかったのだから、仕方がない。
心の中で言い訳をしつつ、なんとか見覚えのある気がする道を探す。確かあの時、道を曲がってこの大通りへと出て来たのだから、どこかの脇道が彼の家へと続く道のはずだ。と、あたり前の事を考えながら路地を覗き込む。
うーん、見覚えがあるような、ないような……? ちょっと先まで行ってみて、違うようなら引き返そう。
そう考えて、大通りから道を一本入る。進んでも進んでも全然ピンとこなくて、辺りをグルリと見回すけれど、やっぱり見覚えがある気が全くしない。
やっぱりこの道じゃないらしい。くるりと踵を返してさっきの大通りへと戻り、少し進んで次の脇道へ入る。
……と言うことを何度か繰り返し、気がついたらそこは、完全に見知らぬ場所だった――。
「……ここ、どこ???」
昼過ぎに駅に着いて、いまはもう夕方……。
冬の陽は傾くのが早く、辺りは既にかなり薄暗い。街灯や店の看板も照明を灯し始め、気温も急激に下がってきている。
「……で、ここ、どこよ……?」
スマホの地図アプリを起ち上げて現在地を確認する。駅の方向は……、と地図とにらめっこするけれど、自分がどっちに向かって歩けばいいのかが分からない。
試しに自分の思う方向へと少し歩いてみるけれど、どうやらそれは駅とは逆方向らしく……。立ち止まって、はぁ、とため息をついた。方向音痴ってこう言う時ほんと困るよね?
地図を確認しながら元来た位置へと戻る。さっき反対方向だったから、このまま行けば大通りに出る。……そのはずなのに、どこまで行っても大通りへ出ない。
――は? 意味が分からないんですけど!?
心の中で悪態をつくも、そんなことをしたところで駅へ続く道に出られるはずもなく。私は見ず知らずの土地で、完全に迷子になってしまったのだった……。
――さんざん迷いに迷った挙げ句、なんとか家に辿り着いたのは夜8時を過ぎた頃だった。
あの後しばらく自力でなんとか頑張ろうとウロウロしたけど結局道は分からず、恥を忍んでお店の人や通りすがりの人に駅までの道を尋ね……。最終的には心優しい女の人に駅まで連れて行ってもらったのだった……。
いい大人なんだし、さすがにそろそろ方向音痴を克服したい。でも……地図の読み方がさっぱり分からない。
平面の地図と実際の道って、ぜんっぜん違うのよ、私にとっては!!!
もちろん音声で道案内をしてくれるアプリを使ったこともある。けれど、私はその通りにしてるつもりなのに何故かやっぱり道に迷ってしまい、結果、アプリ側が混乱したのか、とんでもない道を教えられたりして全くうまくいかなかった。
音声ナビさえも混乱させるほどの伝説の方向音痴――それが私だ。偉そうに言う話ではないから、出来れば本当に内緒にしておいて欲しい。
帰巣本能のある鳥とか犬とかが本当にうらやましいと思う。彼らの百分の一でもその能力が私にあれば、きっと目的地に到着することが出来るのに……。
とりあえず今日が土曜日で良かった……。また明日出直そう、そして日曜日の明日こそはきっと、彼の家を見つけてこの腕時計を返すんだ。
心に固く誓い、私は今日という日を終えた――。
「ええっと……? どっち、だっけ……?」
改札の出口を出て西口方面へ来たのはいいけれど……そこから先が分からない。
……は? こんな風景だったっけ??
実は私、こう見えても“超”の付くほどの方向音痴で……。
恥ずかしいからなるべくヒミツにしてるけど、実は入社したての頃に広い社内で迷子になったことがあるほどだ。あの時は本当に恥ずかしかった……。
私を指導してくれていた先輩で現在は副社長秘書をしている西村さんに、「今いる場所がどこか分かりません~」って大泣きしながら電話した過去……。
あれは完全に私にとっての黒歴史……。
今朝――。
車で家まで送ると言われたけれど、さすがにそれは全力で断って「電車で帰る」と言い張った私を、彼は最寄りの駅まで送ってくれた。
彼の住む建物から駅まで、そう遠くはなかったと思う。歩いて10分かかるかどうか、ぐらいの距離だ。道もそんなに複雑じゃなかった。多分。
私は駅を出て、あたりをグルリと見回す。
ええっと、確かこっち、だったような……、と思いながら、恐る恐る足を踏み出した。
方向音痴な自覚はあるから、初めて歩く場所はなるべく風景をよく見て目印になるものを覚えるようにしている。ただしそれは、もう一度来る可能性がある場合に限定される。
つまり、彼に最寄りの駅まで送ってもらったけど……目印を覚えるどころか、あまりの気まずさと二日酔いのせいで重い頭を抱えていたから、風景なんてほとんど何も見ていなかったのだ。
それにあの時は、まさかもう一度ここに来ることになるなんて思いもしなかったのだから、仕方がない。
心の中で言い訳をしつつ、なんとか見覚えのある気がする道を探す。確かあの時、道を曲がってこの大通りへと出て来たのだから、どこかの脇道が彼の家へと続く道のはずだ。と、あたり前の事を考えながら路地を覗き込む。
うーん、見覚えがあるような、ないような……? ちょっと先まで行ってみて、違うようなら引き返そう。
そう考えて、大通りから道を一本入る。進んでも進んでも全然ピンとこなくて、辺りをグルリと見回すけれど、やっぱり見覚えがある気が全くしない。
やっぱりこの道じゃないらしい。くるりと踵を返してさっきの大通りへと戻り、少し進んで次の脇道へ入る。
……と言うことを何度か繰り返し、気がついたらそこは、完全に見知らぬ場所だった――。
「……ここ、どこ???」
昼過ぎに駅に着いて、いまはもう夕方……。
冬の陽は傾くのが早く、辺りは既にかなり薄暗い。街灯や店の看板も照明を灯し始め、気温も急激に下がってきている。
「……で、ここ、どこよ……?」
スマホの地図アプリを起ち上げて現在地を確認する。駅の方向は……、と地図とにらめっこするけれど、自分がどっちに向かって歩けばいいのかが分からない。
試しに自分の思う方向へと少し歩いてみるけれど、どうやらそれは駅とは逆方向らしく……。立ち止まって、はぁ、とため息をついた。方向音痴ってこう言う時ほんと困るよね?
地図を確認しながら元来た位置へと戻る。さっき反対方向だったから、このまま行けば大通りに出る。……そのはずなのに、どこまで行っても大通りへ出ない。
――は? 意味が分からないんですけど!?
心の中で悪態をつくも、そんなことをしたところで駅へ続く道に出られるはずもなく。私は見ず知らずの土地で、完全に迷子になってしまったのだった……。
――さんざん迷いに迷った挙げ句、なんとか家に辿り着いたのは夜8時を過ぎた頃だった。
あの後しばらく自力でなんとか頑張ろうとウロウロしたけど結局道は分からず、恥を忍んでお店の人や通りすがりの人に駅までの道を尋ね……。最終的には心優しい女の人に駅まで連れて行ってもらったのだった……。
いい大人なんだし、さすがにそろそろ方向音痴を克服したい。でも……地図の読み方がさっぱり分からない。
平面の地図と実際の道って、ぜんっぜん違うのよ、私にとっては!!!
もちろん音声で道案内をしてくれるアプリを使ったこともある。けれど、私はその通りにしてるつもりなのに何故かやっぱり道に迷ってしまい、結果、アプリ側が混乱したのか、とんでもない道を教えられたりして全くうまくいかなかった。
音声ナビさえも混乱させるほどの伝説の方向音痴――それが私だ。偉そうに言う話ではないから、出来れば本当に内緒にしておいて欲しい。
帰巣本能のある鳥とか犬とかが本当にうらやましいと思う。彼らの百分の一でもその能力が私にあれば、きっと目的地に到着することが出来るのに……。
とりあえず今日が土曜日で良かった……。また明日出直そう、そして日曜日の明日こそはきっと、彼の家を見つけてこの腕時計を返すんだ。
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