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【番外編】伊吹 side
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恋人として付き合うのは問題ないが結婚したいと思えるような女性に出会えず、ついに俺は先日32歳を迎えた。
結婚相手とは、一生を添い遂げる相手のことだ、気軽に将来を誓い合っていいはずがない。
父のあとを継ぐにしても継がないにしても、そう簡単に相手を決められる立場ではないと自覚している。
だから今日まで独り身だったのだ。
なんとしてでも早々に結婚させたい母は、このところ毎週のように連絡をしてくる。
ついには、「お付き合いしている方がいないのなら、お見合いでもしてみれば?」などと言い出した。
「見合いなんて、しませんよ」
「あら。だって、いまお付き合いしている方は、いないんでしょ?」
「……いますよ。もう一緒に住んでる」
「ええ? 本当に? お見合いを断る口実なんじゃなくて?」
「違いますよ。彼女とは、結婚を考えています」
「あらあら。ついこのあいだまでは『いない』って言ってたじゃない」
「こう言うものは、急に始まるものです」
「まぁ、それはそうね……」
両親のなれそめを詳しく聞いたことはないが、知り合ってから結婚までたったの1ヶ月というスピード婚だったことだけは知っている。
自分も思い当たる節がある母は、どうやら納得してくれたようだった。
母のことだ、恐らく、本当に一緒に住んでいるかどうかを確かめに来るだろう。
そう思っていた通り、それからすぐに母は俺の元を訪ねてきた。
結麻さんに「俺の恋人になって欲しいんです」と告げると、目を丸くしたあとすぐに頬を赤く染める。
どんな表情も愛らしくて今すぐ抱き締めたくて仕方がなかったが、ここで怖がられてしまえば全てがダメになってしまう。
いまは我慢だ。
なんとか彼女と“恋人の真似事”をすることと、お互い下の名前で呼ぶことも了承してもらえた。
ここまで全て俺の思惑通りだったと結麻さんに知られたら、彼女はどう思うだろうか。
間違いなく嫌われてしまうだろうから、絶対に秘密にしなければならない。
いままで起こったことも、これから起こることも、全て俺の仕組んだことだと、絶対に気づかれないようにしなくては……。
それにしても、母の言動にはいつも驚かされる。急に「お互いの好きなところは?」と聞いてきて……。
もちろん、彼女の好きなところなんて、山ほどある。と言うか、ほとんど全部が好きだ。
知らないところもたくさんあるが、きっと、それを知っても嫌いになったりなんかしないだろうと思えるぐらいには彼女のことを想っている自信がある。
だから俺は、普段から思っている通りのことを全て口にした。
……いや、しようとした。
だが、まだほんの序盤で、なぜか結麻さんに遮られてしまった。
しかし、耳まで赤く染めて恥ずかしがる彼女の可愛さに降参し、俺は彼女の制止を聞き入れて口を噤んだ。
正直、言い足りない。好きすぎる。
だが、彼女はどうだろう?
俺のことを、どう思っているだろうか……。
何も悪いことをしていないような顔をして、裏では、彼女をがんじがらめにするために奔走している、愚かで計算高い男を、彼女はどう見ているのだろう。
母からの追求を逃れるために、彼女はきっと適当に当たり障りのない嘘を言うだろうと予想していたから、彼女が思ったよりも饒舌に理由を口にし始めて、俺は少し驚いた。
たとえ本心でないにしても、もしかするとどれか一つぐらいは本当の気持ちがあるのではないかと思ってしまう。
いや、出来れば全てが彼女の本心であってくれれば、と、思ってしまう……。
結婚相手とは、一生を添い遂げる相手のことだ、気軽に将来を誓い合っていいはずがない。
父のあとを継ぐにしても継がないにしても、そう簡単に相手を決められる立場ではないと自覚している。
だから今日まで独り身だったのだ。
なんとしてでも早々に結婚させたい母は、このところ毎週のように連絡をしてくる。
ついには、「お付き合いしている方がいないのなら、お見合いでもしてみれば?」などと言い出した。
「見合いなんて、しませんよ」
「あら。だって、いまお付き合いしている方は、いないんでしょ?」
「……いますよ。もう一緒に住んでる」
「ええ? 本当に? お見合いを断る口実なんじゃなくて?」
「違いますよ。彼女とは、結婚を考えています」
「あらあら。ついこのあいだまでは『いない』って言ってたじゃない」
「こう言うものは、急に始まるものです」
「まぁ、それはそうね……」
両親のなれそめを詳しく聞いたことはないが、知り合ってから結婚までたったの1ヶ月というスピード婚だったことだけは知っている。
自分も思い当たる節がある母は、どうやら納得してくれたようだった。
母のことだ、恐らく、本当に一緒に住んでいるかどうかを確かめに来るだろう。
そう思っていた通り、それからすぐに母は俺の元を訪ねてきた。
結麻さんに「俺の恋人になって欲しいんです」と告げると、目を丸くしたあとすぐに頬を赤く染める。
どんな表情も愛らしくて今すぐ抱き締めたくて仕方がなかったが、ここで怖がられてしまえば全てがダメになってしまう。
いまは我慢だ。
なんとか彼女と“恋人の真似事”をすることと、お互い下の名前で呼ぶことも了承してもらえた。
ここまで全て俺の思惑通りだったと結麻さんに知られたら、彼女はどう思うだろうか。
間違いなく嫌われてしまうだろうから、絶対に秘密にしなければならない。
いままで起こったことも、これから起こることも、全て俺の仕組んだことだと、絶対に気づかれないようにしなくては……。
それにしても、母の言動にはいつも驚かされる。急に「お互いの好きなところは?」と聞いてきて……。
もちろん、彼女の好きなところなんて、山ほどある。と言うか、ほとんど全部が好きだ。
知らないところもたくさんあるが、きっと、それを知っても嫌いになったりなんかしないだろうと思えるぐらいには彼女のことを想っている自信がある。
だから俺は、普段から思っている通りのことを全て口にした。
……いや、しようとした。
だが、まだほんの序盤で、なぜか結麻さんに遮られてしまった。
しかし、耳まで赤く染めて恥ずかしがる彼女の可愛さに降参し、俺は彼女の制止を聞き入れて口を噤んだ。
正直、言い足りない。好きすぎる。
だが、彼女はどうだろう?
俺のことを、どう思っているだろうか……。
何も悪いことをしていないような顔をして、裏では、彼女をがんじがらめにするために奔走している、愚かで計算高い男を、彼女はどう見ているのだろう。
母からの追求を逃れるために、彼女はきっと適当に当たり障りのない嘘を言うだろうと予想していたから、彼女が思ったよりも饒舌に理由を口にし始めて、俺は少し驚いた。
たとえ本心でないにしても、もしかするとどれか一つぐらいは本当の気持ちがあるのではないかと思ってしまう。
いや、出来れば全てが彼女の本心であってくれれば、と、思ってしまう……。
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