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“そう言う女”
10.
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「ねえ、結麻さん……」
「はい」
「……キス、していい?」
「……え?」
「あんなやつが結麻さんの唇を奪ったなんて、許せなくて」
あの時、先に書庫に駆けつけて谷川部長を投げ飛ばしてくれたのは奥瀬くんだった。
きっと奥瀬くんには、私が何をされていたか、見えていただろう。
だけど、まさか伊吹さんにまで見られていたなんて……。
「……結麻さんが危険な目に遭ってるかも知れないって奥瀬に聞いた時、本当に心臓が止まるかと思った……」
「伊吹さん……」
「会社としての処分はもちろんちゃんと話し合って決めるけど……俺個人としては、出来ればぶっ殺したい」
「……あ、の、えっと、」
普段はとても穏やかな彼からそんな物騒な言葉が出てくるだなんて思いもしなくて、私は胸に埋めていた顔を上げて、伊吹さんを仰ぎ見る。
伊吹さんは眉根を寄せて、その目はとても静かに、怒りをたぎらせていた。
だけどそれはほんの一瞬のことで、私と瞳を合わせると、すぐにいつもの優しい瞳の色に変わる。
そして、伊吹さんの長くて綺麗な指で、私の唇をそっと撫でた。
「ごめんね、本当はもうちょっと待つつもりだったんだけど……」
そう言って、伊吹さんは今度は私の頬を優しく撫でる。
「やっぱり許せなくて、待てそうにない……。キス、したい」
ダメ? と尋ねるように、少しだけ首を傾げて尋ねる伊吹さんは、とても美しくて……。
あぁ……。
ダメなわけがない。
それよりもむしろ、私なんかとでいいのかな、って思ってしまうぐらいだ。
問いかけてくる瞳に、私は小さく頷いた。
それを見た伊吹さんの表情が、とても嬉しそうな微笑みに変わる。
――本当に……、本当に私なんかでいいのかな?
「……怖い?」と尋ねる伊吹さんの言葉に、私は小さく首を横に振った。
……こわくない。
伊吹さんは、ふ、と微笑んで、「よかった」と呟く。
私の頬を撫でる伊吹さんの手が、暖かくて心地が良い。
心臓があり得ないぐらい早く動いていて、おかしくなりそう……ドキドキしすぎてくらくらする。
伊吹さんの端正な顔が少し近づいて、私はゆっくりと目を瞑る。
すぐ目の前で、触れそうな距離で、伊吹さんが私の名前を小さく呟いた。
ゆっくりと唇が重なり、優しく触れただけで、すぐに離れる。
私が怖がっていないか、嫌がっていないかを、確認するような、優しいキス。
目を開けると、心配そうに覗き込む伊吹さんの瞳と出会う。
伊吹さんの熱っぽく揺れる瞳を見つめながら、「こわくない、です」と私が言うと、伊吹さんの瞳が嬉しそうに細められる。
そして、もう一度、どちらからともなく瞳が伏せられ……
私たちは、恋人同士のキスをした――
「はい」
「……キス、していい?」
「……え?」
「あんなやつが結麻さんの唇を奪ったなんて、許せなくて」
あの時、先に書庫に駆けつけて谷川部長を投げ飛ばしてくれたのは奥瀬くんだった。
きっと奥瀬くんには、私が何をされていたか、見えていただろう。
だけど、まさか伊吹さんにまで見られていたなんて……。
「……結麻さんが危険な目に遭ってるかも知れないって奥瀬に聞いた時、本当に心臓が止まるかと思った……」
「伊吹さん……」
「会社としての処分はもちろんちゃんと話し合って決めるけど……俺個人としては、出来ればぶっ殺したい」
「……あ、の、えっと、」
普段はとても穏やかな彼からそんな物騒な言葉が出てくるだなんて思いもしなくて、私は胸に埋めていた顔を上げて、伊吹さんを仰ぎ見る。
伊吹さんは眉根を寄せて、その目はとても静かに、怒りをたぎらせていた。
だけどそれはほんの一瞬のことで、私と瞳を合わせると、すぐにいつもの優しい瞳の色に変わる。
そして、伊吹さんの長くて綺麗な指で、私の唇をそっと撫でた。
「ごめんね、本当はもうちょっと待つつもりだったんだけど……」
そう言って、伊吹さんは今度は私の頬を優しく撫でる。
「やっぱり許せなくて、待てそうにない……。キス、したい」
ダメ? と尋ねるように、少しだけ首を傾げて尋ねる伊吹さんは、とても美しくて……。
あぁ……。
ダメなわけがない。
それよりもむしろ、私なんかとでいいのかな、って思ってしまうぐらいだ。
問いかけてくる瞳に、私は小さく頷いた。
それを見た伊吹さんの表情が、とても嬉しそうな微笑みに変わる。
――本当に……、本当に私なんかでいいのかな?
「……怖い?」と尋ねる伊吹さんの言葉に、私は小さく首を横に振った。
……こわくない。
伊吹さんは、ふ、と微笑んで、「よかった」と呟く。
私の頬を撫でる伊吹さんの手が、暖かくて心地が良い。
心臓があり得ないぐらい早く動いていて、おかしくなりそう……ドキドキしすぎてくらくらする。
伊吹さんの端正な顔が少し近づいて、私はゆっくりと目を瞑る。
すぐ目の前で、触れそうな距離で、伊吹さんが私の名前を小さく呟いた。
ゆっくりと唇が重なり、優しく触れただけで、すぐに離れる。
私が怖がっていないか、嫌がっていないかを、確認するような、優しいキス。
目を開けると、心配そうに覗き込む伊吹さんの瞳と出会う。
伊吹さんの熱っぽく揺れる瞳を見つめながら、「こわくない、です」と私が言うと、伊吹さんの瞳が嬉しそうに細められる。
そして、もう一度、どちらからともなく瞳が伏せられ……
私たちは、恋人同士のキスをした――
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