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嘘の恋人
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顔を真っ赤にして伊吹さんの言葉を阻止した私を、伊吹さんは「え? なぜ?」と不思議そうに見下ろしている。
「えっと、なぜ、って、あの……っ」
照れすぎて慌てふためく私を見た伊吹さんのお母様は、「ふふっ」と嬉しそうに微笑んで、今度は私に尋ねた。
「結麻さんは? 伊吹のどんなところに惹かれたのかしら」
「私は……」
同じ質問でも、伊吹さんと私では、全く違う。
伊吹さんは私のことなんて本当は何とも思っていない。
でも私は、そうじゃない。
伊吹さんは嘘を吐かなければいけなかったけど……私が伊吹さんに対してどう思っているかを、偽る必要はない。
だから私の本当の気持ちを言えば良い――。
「あの、私は、一目惚れだったんです。初めて見た時から、伊吹さんはとても素敵で……」
見た目だけなんかじゃなくて、伊吹さんの素敵なところは、本当にたくさんある。
それこそ、語ればとても長くなりそうなほどに。
「お話しするようになって、内面もすごく素敵な方だとすぐに分かりました。優しいのはもちろんですが、さり気ない気配りの仕方も、いつも私の気持ちを汲んでくれるところも、芯がぶれないところも。お仕事も出来るし、それでいてとても部下思いだし。とにかく本当に素敵で、とても、とても尊敬しています」
いつも思っていることのほんの一部しか言えていないけど、それでも、全て心の底から思ってることだ。
伊吹さんは少し驚いた表情で私の顔を見ながら聞いていたけれど、だんだん嬉しそうに少し目を細めて、私の手を優しく握った。
お母様には嘘を吐いていてかなり複雑な気持ちだし、きっと伊吹さんには演技だと思われているんだろうなと思うと、 なんだか少し切ない。
伊吹さんの演技が上手かったからか、私の本気がお母様にしっかり伝わったからなのか、お母様も嬉しそうに微笑んでいた。
「うふふ、良かった。安心したわ。それだけお互いべた惚れなら、もう私の出る幕じゃないわね」
伊吹さんのお母様はそう言葉を残して、微笑みながら帰って行かれた。
「結麻さん……」
伊吹さんはおもむろに私の手を取り、来客用のカップを洗い終えた私をソファへといざなった。
伊吹さんもすぐ隣に腰掛ける。
私の手を、優しく握ったまま……。
「あのね、結麻さん。結麻さんがさっき母に言ってくれた言葉……俺と話を合わせてくれたんだって分かってても、嬉しかったです」
私は言葉を返すことが出来なくて、俯いてしまった。
まさか一時的な同居人がそんな良からぬ想いを抱いているなんて、伊吹さんは思いもしないんだろう。
もしそれがバレてしまえば、同居解消を考えるかも知れない。
いや、“考える”どころか、即解消かも知れない。
このまま、話を合わせただけだと言うことにしておこう、……私はそう強く決意した。
「母は、時々ああやって不意打ちで訪ねて来るんです。あの様子だと結麻さんのことも気に入ってしまったようだし、俺がいない時も来るかも知れません」
「えっと、嫌われなくて安心しました。いつ来ていただいても、私は大丈夫です」
「うん。……あー、いや、大丈夫じゃないかも……」
「え?」
「俺が一緒の時はフォロー出来るんだけどね……」
伊吹さんのお母様とふたりっきりでお話したら、私があたふたしてしまってボロを出しそうってことかな。
確かにそれはあり得るかも知れない。
私はほぼ定時で帰宅して土日もしっかりお休みをいただいているけど、伊吹さんの帰宅はかなり遅い事も多いし、土日も取引先との会合があったり出張があったりして留守な事も多いという。
不意にお母様が尋ねて来た時に、私が何かミスをしてしまう可能性は高い。
「えっと、なぜ、って、あの……っ」
照れすぎて慌てふためく私を見た伊吹さんのお母様は、「ふふっ」と嬉しそうに微笑んで、今度は私に尋ねた。
「結麻さんは? 伊吹のどんなところに惹かれたのかしら」
「私は……」
同じ質問でも、伊吹さんと私では、全く違う。
伊吹さんは私のことなんて本当は何とも思っていない。
でも私は、そうじゃない。
伊吹さんは嘘を吐かなければいけなかったけど……私が伊吹さんに対してどう思っているかを、偽る必要はない。
だから私の本当の気持ちを言えば良い――。
「あの、私は、一目惚れだったんです。初めて見た時から、伊吹さんはとても素敵で……」
見た目だけなんかじゃなくて、伊吹さんの素敵なところは、本当にたくさんある。
それこそ、語ればとても長くなりそうなほどに。
「お話しするようになって、内面もすごく素敵な方だとすぐに分かりました。優しいのはもちろんですが、さり気ない気配りの仕方も、いつも私の気持ちを汲んでくれるところも、芯がぶれないところも。お仕事も出来るし、それでいてとても部下思いだし。とにかく本当に素敵で、とても、とても尊敬しています」
いつも思っていることのほんの一部しか言えていないけど、それでも、全て心の底から思ってることだ。
伊吹さんは少し驚いた表情で私の顔を見ながら聞いていたけれど、だんだん嬉しそうに少し目を細めて、私の手を優しく握った。
お母様には嘘を吐いていてかなり複雑な気持ちだし、きっと伊吹さんには演技だと思われているんだろうなと思うと、 なんだか少し切ない。
伊吹さんの演技が上手かったからか、私の本気がお母様にしっかり伝わったからなのか、お母様も嬉しそうに微笑んでいた。
「うふふ、良かった。安心したわ。それだけお互いべた惚れなら、もう私の出る幕じゃないわね」
伊吹さんのお母様はそう言葉を残して、微笑みながら帰って行かれた。
「結麻さん……」
伊吹さんはおもむろに私の手を取り、来客用のカップを洗い終えた私をソファへといざなった。
伊吹さんもすぐ隣に腰掛ける。
私の手を、優しく握ったまま……。
「あのね、結麻さん。結麻さんがさっき母に言ってくれた言葉……俺と話を合わせてくれたんだって分かってても、嬉しかったです」
私は言葉を返すことが出来なくて、俯いてしまった。
まさか一時的な同居人がそんな良からぬ想いを抱いているなんて、伊吹さんは思いもしないんだろう。
もしそれがバレてしまえば、同居解消を考えるかも知れない。
いや、“考える”どころか、即解消かも知れない。
このまま、話を合わせただけだと言うことにしておこう、……私はそう強く決意した。
「母は、時々ああやって不意打ちで訪ねて来るんです。あの様子だと結麻さんのことも気に入ってしまったようだし、俺がいない時も来るかも知れません」
「えっと、嫌われなくて安心しました。いつ来ていただいても、私は大丈夫です」
「うん。……あー、いや、大丈夫じゃないかも……」
「え?」
「俺が一緒の時はフォロー出来るんだけどね……」
伊吹さんのお母様とふたりっきりでお話したら、私があたふたしてしまってボロを出しそうってことかな。
確かにそれはあり得るかも知れない。
私はほぼ定時で帰宅して土日もしっかりお休みをいただいているけど、伊吹さんの帰宅はかなり遅い事も多いし、土日も取引先との会合があったり出張があったりして留守な事も多いという。
不意にお母様が尋ねて来た時に、私が何かミスをしてしまう可能性は高い。
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