8 / 75
お仕事開始
3.
しおりを挟む
野村さんのデスクの隣が、私に用意された席らしい。
隣り合って腰をかけると、野村さんの説明が始まった。
「まず、秘書課には私を含めて5人が在籍してます。これからは若月さんを入れて6人になるわね」
専属の秘書は、社長、副社長、専務、常務にそれぞれ一名ずつ付いていて、野村さんは全ての秘書の取りまとめや、専属秘書のいない役員のスケジュール管理と秘書を帯同する必要がある場合に秘書として同行したりするらしい。
私は野村さんの言った言葉を簡潔にメモを取る。
「若月さんのメインの仕事は電話対応や役員のスケジュールの把握、各秘書が持ってくる接待の領収書や交通費の伝票を入力したり、出張に関わる手配や精算をしたり、かな。そんなに難しいことは何も無いから安心して」
「はい」
「じゃ、とりあえず専属秘書の面々に挨拶しに行くから、ついて来てー」
「はいっ」
社長室は廊下の一番奥だ。
野村さんがノックをして「野村です」と名乗るとすぐに「どうぞ」と男性の声が聞こえ、私は野村さんに続いて入室した。
入ってすぐの所に大きなデスクがあり、そこが秘書席らしい。
秘書席の奥の扉の向こうにこの大きな会社の社長がいるのだと思うと、姿は見えないのに思わず緊張してしまう。
社長の専属秘書は30代後半の男性で、見るからに有能そうな風貌だった。
「工藤さん、こちら、今日から私たちのお手伝いをしてくれることになった、若月さん」
「社長秘書の工藤です。よろしく」
「若月結麻です。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
緊張してしまい、思わず大げさすぎるほどのお辞儀をしてしまった。
工藤さんは私の緊張感あふれる態度にも動じることなく、にこやかに微笑んでいる。
さすがは社長秘書。
「野村さん、良かったね。やっと残業から解放されるね」
「ほんとですよー。ノー残業デーとか言いながら、残業ナシで帰れた試し、無かったですもん」
「デートも出来ないし、ね?」
「それはもうホントに! いつもそれが理由で別れちゃうんですもん!」
工藤さんはとても仕事の出来そうな見た目ながら、話し方はとてもフランクで、優しそうだった。
“社長秘書”なんて聞くと、仕事にしか興味が無い――みたいなとっても失礼なイメージしか持ってなかったので、私はちょっとホッとした。
「じゃ、次、副社長の所、行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい。じゃあ若月さん、またね」
「はい。お時間をいただき、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
社長室を出て、副社長室へと向かう。
副社長室の作りも、社長室よりは少し小ぶりではあるもののほぼ同じで、秘書席の後ろに扉がある。
副社長秘書は西村さんと言って、30代前半の女性だ。
やっぱりとても有能そうで、……って、役員秘書なんだから当たり前か。
「野村さん、各フロア案内はもう行った?」
「まだです」
「じゃあ笹原くんのところが終わったら、行っておいで。副社長は夜の会合があるから出社はまだだし、私が代わりに電話番しておくから」
「ありがとうございます。さすが西村さんっ。戻ったら連絡します」
「了解。行ってらっしゃい」
手を振る西村さんに向かって深々とお辞儀をして、部屋を後にする。
隣り合って腰をかけると、野村さんの説明が始まった。
「まず、秘書課には私を含めて5人が在籍してます。これからは若月さんを入れて6人になるわね」
専属の秘書は、社長、副社長、専務、常務にそれぞれ一名ずつ付いていて、野村さんは全ての秘書の取りまとめや、専属秘書のいない役員のスケジュール管理と秘書を帯同する必要がある場合に秘書として同行したりするらしい。
私は野村さんの言った言葉を簡潔にメモを取る。
「若月さんのメインの仕事は電話対応や役員のスケジュールの把握、各秘書が持ってくる接待の領収書や交通費の伝票を入力したり、出張に関わる手配や精算をしたり、かな。そんなに難しいことは何も無いから安心して」
「はい」
「じゃ、とりあえず専属秘書の面々に挨拶しに行くから、ついて来てー」
「はいっ」
社長室は廊下の一番奥だ。
野村さんがノックをして「野村です」と名乗るとすぐに「どうぞ」と男性の声が聞こえ、私は野村さんに続いて入室した。
入ってすぐの所に大きなデスクがあり、そこが秘書席らしい。
秘書席の奥の扉の向こうにこの大きな会社の社長がいるのだと思うと、姿は見えないのに思わず緊張してしまう。
社長の専属秘書は30代後半の男性で、見るからに有能そうな風貌だった。
「工藤さん、こちら、今日から私たちのお手伝いをしてくれることになった、若月さん」
「社長秘書の工藤です。よろしく」
「若月結麻です。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
緊張してしまい、思わず大げさすぎるほどのお辞儀をしてしまった。
工藤さんは私の緊張感あふれる態度にも動じることなく、にこやかに微笑んでいる。
さすがは社長秘書。
「野村さん、良かったね。やっと残業から解放されるね」
「ほんとですよー。ノー残業デーとか言いながら、残業ナシで帰れた試し、無かったですもん」
「デートも出来ないし、ね?」
「それはもうホントに! いつもそれが理由で別れちゃうんですもん!」
工藤さんはとても仕事の出来そうな見た目ながら、話し方はとてもフランクで、優しそうだった。
“社長秘書”なんて聞くと、仕事にしか興味が無い――みたいなとっても失礼なイメージしか持ってなかったので、私はちょっとホッとした。
「じゃ、次、副社長の所、行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい。じゃあ若月さん、またね」
「はい。お時間をいただき、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
社長室を出て、副社長室へと向かう。
副社長室の作りも、社長室よりは少し小ぶりではあるもののほぼ同じで、秘書席の後ろに扉がある。
副社長秘書は西村さんと言って、30代前半の女性だ。
やっぱりとても有能そうで、……って、役員秘書なんだから当たり前か。
「野村さん、各フロア案内はもう行った?」
「まだです」
「じゃあ笹原くんのところが終わったら、行っておいで。副社長は夜の会合があるから出社はまだだし、私が代わりに電話番しておくから」
「ありがとうございます。さすが西村さんっ。戻ったら連絡します」
「了解。行ってらっしゃい」
手を振る西村さんに向かって深々とお辞儀をして、部屋を後にする。
3
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
想い出は珈琲の薫りとともに
玻璃美月
恋愛
第7回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞をいただきました。応援くださり、ありがとうございました。
――珈琲が織りなす、家族の物語
バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。
ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。
亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。
旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
復讐は正攻法で
コーヒー牛乳
恋愛
───復讐するなら、こんな風に。
営業アシスタントとして働く森田楓の目標は「結婚」だ。
でも、交際して2年が経とうとしている恋人と女性の親密そうな姿を見てしまうことから全てが崩れ落ちていく。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~ after story
けいこ
恋愛
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~
のafter storyになります😃
よろしければぜひ、本編を読んで頂いた後にご覧下さい🌸🌸
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる