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第65話 トイレで会議

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学校の掲示板に志願兵募集のチラシが張られる。敵の戦力は解らない。軍隊としても少しでも兵力を確保したいのであろう。
「みんな、志願兵になる必要はない。俺がみんなを守るから」
勇者は皆に志願兵にならないよう言い回る。
「そうだな。勇者殿と俺が戦えば済む話だ。一般人は普通に暮らして欲しい」
グレンも言う。しかしそんな2人に着いていきたいと思う生徒は多い。
実戦を積んでいるのはこの学校では3人だけだ。皆どこか軽く考えている。
「実戦では・・・」
ミュウジィが生徒に語る。飛び交う怒号と倒れる兵士。他の町では死者も出ていることを。それに怯む生徒はそうそうに志願を取りやめる。しかし貴族は違った。
「我々が戦わないでどうする。民衆を守るのが貴族の役割だ」
彼らに何を言っても無駄だった。
「それでは俺が試してやろう」
放課後、勇者は志願する貴族と模擬戦闘を行う。実力差は大きい。志願するものは一瞬で勇者に倒される。
「これが実戦なら君たちは死んだな」
勇者は冷やかに言う。
「勇者様、俺たちを鍛えてください」
「無駄だよ。俺は1%も力を使っていない。例え鍛えても夏までには時間が足りないな。諦めろ」
そう言うとその場を立ち去る勇者。貴族たちは悔しそうな表情を浮かべる。
「勇者殿に汚れ役をさせて申し訳ない」
グレンは勇者に謝る。
「無駄な血は流したくない。それに彼らと過ごして情はあるから」
誰も死なせたくないと思うが故に勇者は実力差を見せつけ彼らを諦めさせようとするのだ。それでも諦められない貴族は多い。彼らを動かすのは名誉のため、好きな異性に好かれたいという不純なもの。その他に中二病的に戦場へ行こうとするものが多い。子供なのだ。国の為とはだれも考えていないであろう。
勇者はそんな彼らが無駄死にすると見抜いているのだ。
「悲しい時代だな」
グレンは寂し気な視線を彼らに送る。

「酷い時代だな。そう思わないか?」
グレンは放課後のトイレでハイネに一物をしゃぶらせながらそう言う。誰も死なせたくないだけなのに一部の生徒は解ってくれない。そのやるせなさが性欲を高める。大きく卑猥な音を立てハイネは一物を舐め回す。口の中で一物を舌で刺激する。
「ハイネ、どうすれば皆が諦めてくれると思う?」
ハイネは卑猥な音を立てながら考える。実戦を知れば彼らの考えも変わるのではと。その為にはどうすれば良いか。
「ウゥ・・・ふぅ」
グレンはハイネの口に熱い液体を流し込んだ。ハイネは“ゴクリ”と音を立て考え込む。
「実戦を経験させれば・・・」
「どうやって?」
「魔族に怪物を操作してもらって襲わせるとか?」
「怪物か。それも有りだな」
「それかナッシュと戦ってもらうとか?」
「ナッシュ殿と勇者様が戦えば・・・その方が現実的かな」
早速、グレンはナッシュに連絡を入れる。

翌日、グレンは全校生徒を町の外の広場に集めた。
「一部の生徒が戦争に兵士として志願しようとしている。それを悪い事だとは思わない。しかし町が襲撃された時、皆には町を守ってもらいたい」
グレンは生徒の顔を見渡す。一部の生徒は何をしたいのかという顔だ。
「これから最前線がどのようなものか見てもらおうと思う。紹介しよう。黒エルフの上級貴族ナッシュ=ワイズマン卿だ。彼は黒エルフの町を守った英雄だ。」
するとナッシュが皆の前に出てくる。大柄でどこかお洒落なその男に女子生徒がざわつく。
「俺はナッシュ。今から皆に戦いがどういうものか見せたいと思う。俺の愛刀“魔剣スレイプニル”を使ってな」
そう言うと禍々しい妖気を放つ魔剣を掲げた。
「相手は勇者殿、お願いします」
グレンの言葉に勇者は皆の前に出る。そして虹色に輝く剣を掲げる。2人は1キロほど先まで飛んでいく。そして互いに剣を構えた。

「うっ・・・吹き飛ばされる」
「こんなに離れているのに・・・」
2人が剣を振るうと竜巻が起き台地が割れる。
「我が聖剣デルピュネーよ。結界を張れ」
グレンが皆の前に出ると聖剣を掲げ結界を作る。鳴り響く剣戟、砕ける大地、勇者とナッシュの戦いは生徒たちでは想像もできないものであった。女子生徒が悲鳴を上げ泣き叫ぶ。男子生徒があまりの光景に顔面蒼白にし言葉を失う。
「やるな勇者」
「狂戦士だけあって手強いな」
2人は激しく戦いながらもどこか楽しんでいた。しかし生徒たちからすれば異常な光景だ。彼等では即死亡するのが落ちであろう。
「そこまで」
グレンの声で2人は剣を止める。
「勇者、楽しかったぜ」
ナッシュはニヤリと笑う。
「心強いです。貴方がいるだけで」
勇者も爽やかな笑みをこぼす。そして2人は強く手を握り合った。
「考えて欲しい。皆はあの中へ飛び込もうとしている。それが勇敢だと思っている。しかし勇気と無謀は違う。考えたうえで軍へ志願するか決めてくれ」
グレンの言葉に誰も声を出せなかった。レベルが違いすぎる2人の姿に何も言えなくなった生徒達。

翌日、軍への志願者はゼロになった。
「おい・・・これはどういうことだ?」
ナッシュがグレンに近付く。
「俺の方も・・・」
困った顔をした勇者がやってくる。2人は手紙を抱えている。
「昨日の戦いで女子、男子問わずファンが出来ましたから。この学校でナッシュ派と勇者派に割れて」
どうやら2人のファンクラブが出来たらしい。顔を見合わせ苦笑いする勇者とナッシュであった。

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