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第58話 魔族の都へ

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町の被害は大きかった。
「月の滴が全部やられている」
魔族の悲痛な声がする。町を守る結界の役割を果たしていた植物が灰となったのだ。この町は放棄するしかないだろう。更に数十人規模で魔族は捕まったらしい。他の者に死者、負傷者が出なかったことがせめてもの慰め(なぐさめ)である。
「これからどうする?」
勇者は魔族たちに問いかける。
「首都がこの近くにあります。そこへ避難するしかないでしょう。各地の町の人間も地方城塞都市に避難しているでしょうし。対空兵器も町より強力ですからね」
そう言いながら魔族たちは荷造りを始める。そして高速飛行船が何百と並べられる。グリフォンに跨った兵士が巡回している。
「皆さん、送っていただきありがとうございました。それで厚かましいお願いですが首都まで同行してもらえませんか?」
一緒に旅した魔族が言う。
「そうだな・・・俺は構わないが・・・」
グレンは隷属したアンデッドを塵に返しながら言う。隷属の上書きは1日しか持たない。使い終わったら塵に返すしかないのだ。
「俺も行こう。乗り掛かった舟だ」
勇者はそう言うと悲しそうに町を歩いていく。
「僕も行かないといけない気がする」
ハイネがぽつりと言う。ハイネの中の何者かが行けと騒いでいるのだ。
「私も行きます。ここで引き返すわけにはいきません」
ミュウジィはハイネを見据えて言った。

数時間後魔族の首都が見えてきた。流石は首都だけあって広大でどこまでも広がっている。城壁も幾重にも連なり対空兵器が配備されている。
飛行船群は大きな空港らしき場所に順番に着陸し乗組員は書類を提出する。そして全員が検査ゲートを通り首都に入っていくのであった。
「勇者様一行は宮殿にお越しください」
そう言われ4人は魔術式車に乗せられる。窓の外は高いビルが立ち並び遠くに山々が連なるのが見える。城壁は余程広範囲なのであろう。ここまで厳重であれば如何にアンデッドの群れでも侵入は不可能だ。

「ようこそ魔族の首都へ」
謁見の間では魔王とその配下が並んでいる。一行はそれぞれ自己紹介をするとソファーに腰を下ろした。そして勇者と魔王の会談が始まる。
「我が同族を救ってくれて感謝するよ。まさか結界を解いた瞬間に500年前と同じことが起こるから焦った」
魔王は苦笑いしながら言う。
「500年前の主導者はどのような人物で?」
「それは解らない。急に出てきて大量殺人だ。その後は結界張って引き籠ったから」
「無謀ですね。犯行グループのアジトが魔族の地にあったらどうするつもりだったのですか?」
「そうだな・・・500年前は一応確認してから結界張ったが」
「今回も確認して相手のアジトは解りましたか?」
「わからないね。瘴気に紛れているみたいで」
「それではここも安全ではなかったでしょ?」
「当時の勇者がな・・・」
そして魔王は語りだす。
当時は暗黒時代だった。貴族は腐りきり民衆は飢えと貧困に苦しめられる。そんな中、召喚された勇者は他の貴族と同じように横暴の限りを尽くした。女性を強姦し、諫める(いさめる)ものを罪人とする。その被害者は3000人を超えた。そして更なる虐殺が起こる。ユニコーンを使役した勇者が魔族の地で被害者たちと強制的に契約させたのだ。その結果ユニコーンは契約者を殺害し、自らを清めるために大規模な浄化魔法を使った。その効果が魔族の地全土を覆ったとき結界が張られる。
「当時の勇者は腐っていた。暗黒時代がそうさせたのかもしれない。その後の世界がどうなったかは私も知らない」
魔王は悲しそうに言う。
「それでは私が話しましょう」
グレンが語りだす。その後も勇者はアンデッドを大量に殺し、当時の組織側司令官全てを殺した。その一人が主導者だと名乗ったらしい。多くの犠牲の上に勝利した人種。しかし暗黒時代は終わっていなかった。勇者は欲望の限りを尽くした。そして世界の王になろうとした。そうした中ある少女が勇者を毒殺する。彼女は言った。
「こんな世界滅びてしまえば良い」
それに呼応するかのように各地で貴族が殺害される。残ったのは善政を行っていた者たちだけだった。血塗られた時代に生き残った貴族は宣言する。
「二度と暗黒時代が来ないように我々は善政を行うことを誓う。死の契約でそれを示そう」
そして悪政を行った者は死が与えられるようになった。暗黒時代の終結である。
「負の時代か・・・悪いが俺はそんな事をする気はないね。根本的原因を潰す。そして平和な世界であいつと静かに暮らしたい」
勇者は力強くそう言う。
「君のような勇者が召喚されて嬉しく思う」
魔王は微笑みを浮かべた。

「アンデッドが攻めてきます」
兵士が飛び込んでくるなりそう言う。室内のモニターから城壁の外を映すとそこには数万のアンデッドが迫ってくるのが見える。空でも魔物がアンデッド化したものが飛来してくる。空に弓矢を乱れ撃ち城壁の外へ暗黒魔法と弓矢が乱れ撃たれる。
「俺が出よう」
勇者はそう言うと立ち上がる。
「俺もお供しますよ」
グレンも立ち上がる。そして魔族の兵士たちが2人に付き従い部屋を後にする。
「僕も・・・行かなくては・・・」
立ち上がるハイネをミュウジィが捕まえる。
「行かないで・・・あなたを失うかもしれない。それが怖い。だから行かないで」
涙ながらにミュウジィが訴える。
「僕は何もできないかもしれないけど・・・」
その時だ。ハイネの中から声が聞こえる。
“我を召喚せよ・・・我は・・・なり“
ハイネは何かに支配されたようにバルコニーへ出た。するとハイネの背中に光と電磁波で出来た翼が現れる。そして空へ飛び立った。
「ハイネさん」
後ろからミュウジィの声が響く。それをかき消すかのような怒号が響き渡る場所へハイネは向かった。
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