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第52話 勇者召喚

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浮遊都市ラーダットの神殿で緊急会議が開かれた。アンデッドの自爆テロについてだ。監視術式を搔い潜り侵入した手口は誰か協力者がいるようにも見える。いつの時代でも過激思想に染まる者はいる。如何に取り締まるかも必要になるだろう。また、戦力状況もこのままでは削られていくだけ。対して組織側は死者をアンデッドに変えてくる。これ以上犠牲を出したくない。
「勇者を召喚しましょう」
女神がそう言う。彼女は戦いの女神アテナ。彼女が勇者を召喚すれば強力な戦力を得ることが出来る。
「危険だ。過去の勇者は世界を混沌に戻すほど邪悪であった。悲劇が再び起こるかもしれない」
「大丈夫です。召喚できるのは所詮童貞です。女性を宛がえば下半身が勝手に行動するでしょう」
エロースが言う。確かに性欲が強い者ならばそう言う人も居るであろう。
「それが悲劇を起こしたのだ」
他の神が窘める。過去の勇者はそうであった。性愛に溺れ事件まで起こした。そして大きな悲劇を生んだのだ。暗黒時代の負の遺産でもある。
「勇者の権限を狭めれば・・・」
「それでも・・・権限は強大だ。悪い前例がある。再び悲劇が起こるかもしれない」
「それでも勇者の力に頼るしかありません。もし性愛に狂うものであれば私の体で止めて見せます」
アテナがそう言った。
「・・・その方にも家族がいるでしょう。引き離すのは気が引けます」
アプロディーテが難色を示す。それはそうであろう。召喚という名の誘拐だ。家族から引き離されて勇者よと言われても相手からすれば誘拐犯でしかないであ
「とりあえず召喚しましょう」
そう他の神々が言う。アプロディーテは悲しそうな顔をしながら押し黙った。

「ここは何処だ?」
1人の男が召喚陣の中に立っている。二十代半ばくらいで顔は整っている。身長は180センチくらいであろうか?黒髪で筋肉質。それでいて知的な顔であるがどこか陰がある。
「勇者よ。私はアテナ。戦いの女神です」
「それで何故、俺はここに居る?」
「あなたを召喚したのです」
「召喚?誘拐の間違えでしょ?」
男はそう言うと苦笑いを浮かべる。
「ここは貴方の世界とは異なる異世界です。貴方の力が必要でお呼びしました。どうか力を貸してください」
「悪いが俺は神を信じないのでね。他を当たってくれ」
そう言う男。如何にも迷惑そうに言う。
「この世界は滅びの危機に瀕しています。貴方の力が必要なのです」
「知ったことではないさ。俺には関係ない」
「神の願いです。お願いします」
「だから神なんてどうでもいい」
頑なに拒む男。その眼には深い怒りに満ち溢れている。
「ここに居れば男女問わず経験できるよ。それくらいの特権は出すさ」
エロースが言う。
「喧嘩売っているのか?女は簡単に股を開いたよ。男もな。それでも俺は満たされなかった。あいつを失ってから・・・」
そう言うと男は口をつぐむ。
「え?童貞じゃない・・・前代未聞だよ・・・」
エロースがたじろぐ。
「何故こうなった・・・」
神々がざわつく。
「愛ゆえにでしょう。これは愛が生んだ奇跡だと思います」
アプロディーテがそう言う。そして男に話しかけた。
「神を信じない理由は愛する人のことですか?」
「あぁ、かつて愛した人は死んだ。俺は祈ったよ。それでもあいつは・・・」
不意に悲しそうな顔をする男。
「山中 剛さん・・・貴方に合わせたい人がいます」
アプロディーテは不意に言う。
「なぜ俺の名前を?」
「ついて来れば解ります。それにしても・・・あなたが勇者として召喚されるとは・・・」
そう言ってアプロディーテは青年を連れ出す。

「ここです」
そう言ってアプロディーテは青年を部屋に招き入れる。そこにはユング=フェアチャイルド国家重鎮貴族と2人の少女が居た。1人は15歳くらいの美少女。もう1人は8歳の幼女であった。
「ここに何か?」
青年がアプロディーテに怪訝な顔をしながら尋ねる。
「剛・・・剛なの?」
そう言いながら幼女は青年に抱き着く。ユングは姪が何をしているのか解らないといった顔だ。青年は戸惑った顔をする。
「申し訳ございません・・・」
姉と思われる少女が幼女を引き離す。
「申し遅れました。私はフランチェスカ=フェアチャイルド。この子は妹のカテジナと申します。あちらは大叔母のユング=フェアチャイルド。フェアチャイルド家の当主です。妹の勇者様に対する失礼お許しください」
「別に良いが・・・この子はなぜ俺の名前を?」
「私だよ・・・生まれ変わる前の名前は西野 翔。剛の恋人だった・・・」
その言葉に青年の顔色が変わる。そして幼女の顔を見つめる。
「翔・・・本当に翔なのか?」
「うん。あの後この世界に転生して・・・それを嘆き悲しんで・・・剛に会いたくて・・・」
「翔・・・」
青年はそう言うと幼女を抱きしめる。目から涙があふれている。
「男じゃなくてごめん。死んでごめん。でも・・・会いたかった」
「性別なんてどうでもいいさ。君とまた会えたのだから。それに俺は男が好きなわけじゃない。惚れた相手が翔、お前だっただけだ。俺こそ守れなくて済まない」
2人は抱き合い涙を流す。アプロディーテは優しい笑みを向ける。
「この世界の危機とはなんだ?」
不意に立ち上がり青年は問いかける。
「この世界を滅ぼそうとする集団がいます。全てを滅ぼし死の世界にしようとする組織が」
「俺に何ができる?空手くらいしかできないぞ?」
「あなたの中にある力を感じてください」
青年はその言葉に目を瞑ると精神を集中させる。
「いま力が使い方を教えてくれた。俺はこの力を振るえば良いのか?」
「そうです。この世界に何も関係ないあなたを巻き込んでごめんなさい」
「いいよ、そんな事。それにあんたには借りができたな。俺は山中 剛だ。名前を聞いても良いか?」
「私はアプロディーテ。愛を司る女神」
「アプロディーテさん、この力とこの剣を翔とあんたのために振るいましょう。今度こそ翔は俺が守る」
青年が手をかざすと虹色に輝く剣が現れた。
「ありがとうございます。勇者殿」
そう言って頭を下げる女神であった。
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