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第三十一話 帝国に行ったら皇帝の呼び出しを食らった

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一行は馬車に揺られながら帝国に向かう。幸いと言ったら怒られるが今回、俺様王子は同行していない。例え同盟国であっても王子2人が帝国を訪れるのは問題だ。同時にブルックリンも幼い故に帝国ツアーには参加しなかった。

王国は海沿いで国境線に城壁を巡らされているのに対して帝国は周囲を山に囲まれた天然の要塞だと言う。そして広大な盆地が広がる。

産業は広大な穀倉、酪農地帯、綿花の栽培、絹の生産、岩塩地帯、豊富な鉱山資源を持つ。

「最近ではよぉ、鉱石に魔力を流した“魔石”の生産や観光用のケーブルカー、ロープウェイの開発も盛んだぜぇ」

どうやらこの国は独自に“科学”の研究もされているらしい。魔術式のモーターや魔石や水力を利用した発電などだ。

「王国には無いですね」

レナンジェスはニコリと笑いながら言う。

「何を言っている。お主の発案ではないか」

第一王子カイザルは苦笑いを浮かべながら言う。話を聞いてみるとレナンジェスが8歳の時に設計したモーターや蒸気機関を設計したが王国での再現が困難だった。そこで同盟国である帝国にそれらを見せたところ鍛冶士達が是非とも作りたいと申し出たそうだ。

「…そう言えばダメもとで発案しました」

それを聞いた周りが思わず笑いだす。

「でもよぉ、お前のおかげで冬場の観光客は多いんだぜぇ」

何でもスキー場と温泉施設を一緒に作ったらしい。すると周辺国の貴族や帝国へ移民が冬の娯楽として楽しむようになったとか。



帝国の建築はレンガ作りではなく巨大な岩を繰りに抜いたような物だった。そして室内を木材で覆う。

そして王都中心部は巨大な大理石で建造された建物であった。

『凄いわね』

女性陣が感嘆する。岩を繰り抜くだけでも重労働なのにそこに彫刻を施したり階段を上手く作ったりしているのだから。廊下も上手く明かりを取り込んでいて昼間でも暗い感じではない。

「元々、盆地の中にあった岩山を住居に改造しただけだからなぁ」

チャールズはニヤリと笑うと皆を王宮へ案内した。

「よくぞ参った、心より歓迎する」

帝国皇帝はそう言いながら一行を迎える。

『この度は招きいただき誠にありがとうございます』

第一王子カイザルは跪いてそう言う。

「我等も名高いカイザル王子を迎えられて誇りに思う」

皇帝は笑みを浮かべてそう言うと1人の女性を謁見の間に入らせる。

「この娘は帝国大公家のアリス。名高いカイザル王子と良しなにして貰いたいと思う」

皇帝はそう言いながらニヤリと笑う。要するにカイザルの嫁にどうだと言っているのだ。

「心遣い誠に感謝します。しかし朕は領を持たぬ身でありますので」

カイザルは自分に領が無いからアリスを養えないと遠回しに伝える。

「そうなのか?チャールズは貴殿が公爵家を継いでミーア公爵を妃にするとイッておったが…」

「こ、皇帝陛下。それは古い情報でございます」

チャールズは慌てて現状を報告する。

「何と…1人の女性を巡って争うとは…少女漫画の展開ではないか!」

皇帝はそう言いながら満面の笑みを浮かべた。



晩餐の後、レナンジェスは皇帝に呼び出される。

「レナンジェス=ハックマン子爵参上いたしました」

「楽にしてくれ」

皇帝はそう言うとレナンジェスを椅子に座らせる。

「呼び出したのは他でもない。三角関係の一端の其方を我が国の公爵家の跡取りとして迎えたいのだ」

「私は子爵家嫡男ですので…」

「其方の弟は伯爵家に婿入りすると聞いている。ならば兄として公爵の身分になるのが相応しくはないか?」

「しかし跡継ぎの問題も…それに身分が…」

「大丈夫だ、問題ない。其方の相手はネイ=カーン公爵令嬢と言って私の親戚だ。其方なら王家の養子として迎えられる事は簡単な事だろう。そして其方の妹に婿養子を取れば終わりだ」

「…恐れながら申し上げます」

「何だ?」

「その様な国に関わる事をこの場で決断する事は出来ません」

「フム、思慮深いな」

「ありがとうございます」

「しかし世には策がある。ネイの妹のエマとイリアも付いてくるぞ」

「女性をおまけみたいに仰るのは如何なものかと」

「お主…姉妹丼だぞ?ハーレム以上の値打ちがあるではないか」

「しかし私にはやる事が多いので…」

「もしや…男が入っていないからか?男の妾(めかけ)も居ないとダメなのか?」

「男色趣味はありません」

「情報と食い違うな。其方は第二王子アリウス殿とベロチュウやゴックンをしたと聞いておるが…」

「だ、誰がそのような事を…」

「噂じゃよ」

そう言いながらニヤリと笑う皇帝。

「陛下、噂話でも同盟国の王子の事は言わない方が賢明かと」

「フム、今の状況でなければな。しかしチャールズはミーア公爵に嵌まり込んでいる。この状況下では如何にミーア公爵を帝国の妃にするかの方が重要だ」

「それを王国が許すとでも?」

「許さないのはカイザル王子であろう。王国はアリウス王子との婚約破棄を認めている。その上でミーア公爵を他国に嫁がせないとは言えないであろう?」

「確かに…」

「それとカイザル王子も優秀な御仁だ。それに其方も帝国に迎えればこの国は盤石になるだろう。王国はそれを止める術を放棄しているのだよ」

(俺様王子、お前のせいだぞ!)

レナンジェスは内心、俺様王子にキレる。

「今は世の戯れと思ってくれ。それから2学期からアリス大公令嬢とネイ公爵令嬢を魔法学院に留学させるので良しなに頼む」

皇帝はそう言うと席を立つ。そしてレナンジェスをメイドに部屋に案内するよう命令した。

「夜伽もして良いぞ」

皇帝は悪戯な笑みを浮かべて言ったがレナンジェスは頭痛の種が増えた事でそれどころではなかった。

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