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第四章 縁と結びで縁結び

第五話 演目 世話になった兄貴

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 縁の案内で辿り着いた場所、そこは右も左も兎しか居なかった。
 動物の兎からウサミミが生えた人と様々だ。
 建物も統一性が無く、和洋中、石レンガ木材ワラと様々だ。
 
「おお、色々な兎が居ますね~」
「ここに来るのも久しぶりだ」
「昔はずっと居たとか?」
「ああ、人間とやりあってるときはここに隠れていた」
「って事は人間はおいそれとは来れないと」
「他の神もな」
「そんな所に部外者の私が居ていいんかい」
「近い将来家族になるだろ?」
「おおう、そりゃ関係者だ……げへへへへ」

 いつも通り風月は、隠し切れない嬉しさが口から漏れている。
 風月がそんな笑い方をしていると、一匹の動物の兎が縁達に向かってゆっくりと歩いてきた。
 白い毛並みに小動物用の赤い上着を来ていて、優しそうな雰囲気を出している。

「ふっふっふ、しばらく見ないうちに名前負けをしない『縁』を結んだようじゃの? 縁ちゃん」

 縁は片膝をついてそのまま頭を下げた。

「お久しぶりです、海渡福様」
「んお!? 縁が様を付けて呼んだ!?」
「そりゃ尊敬しているし、逆立ちしても神の位には追い付けない」
「神の位か……そんなもん捨てて、たまには撫でられたいの」
「おお、んじゃ遠慮なく」

 風月はひょいと福を抱っこした、そして遠慮なく優しく撫で始める。
 縁は立ち上がり、呆れた顔をしながら風月に言った。

「風月、抱っこするんじゃない」
「本人がこう言ってるんだからいいじゃんね~」
「のー」
「はぁ……それで海渡様、要件はなんでしょうか」
「うむ、ついてまいれ……すまんがお嬢さん、道案内するので連れていってくれんかの?」
「はいは~い」

 案内されて付いたのは病院だった、福の案内で病室の前までやってくる。
 縁がドアの取っ手に縁が触れた瞬間、中からか細い声が聞こえた。

「……この気配……縁か?」
「なっ!? 兄貴!? 兄貴か!」

 縁は勢い良くドアを開けて中へと入った、ベットには人型の兎が身体を起こしている。
 茶色い体毛と黒い瞳の兎、そして見るからに今にも死にそうな顔をしていた。

「噓だろ!? 兄貴と気付かない程弱っているのか!? ど、どうしたんだ! 信仰心は!? あれだけあった信仰心は!?」
「……神社は取り壊しだよ」
「はぁ!? なぜ!」
「俺の居た場所は機械文明……つまりは科学が発展していってな、不可思議なものは不必要って訳だ」
「……人め! 困った時だけ神頼みするゴミ共が!」

 縁は怒りに震え今にも飛び出しそうだ。
 だが風月がニコニコ笑いながら話しかける。

「まあまあ落ち着きなよ縁、このお兄さんは何を司ってるのさ?」
「兄貴は人と人の縁を見守る神様だ」
「つまりこのお兄さんの居た場所ってさ、人との繋がりをどうでもいいと思った訳だ、じゃなきゃんな事できないよ」
「まあ……神社は基本的には人が建てるからな、壊すのも見捨てるのも人だ」

 怒りを吐き捨てる様にそう言った縁に風月はニヤリとした。

「でさ、縁はこのお兄さんにお世話になったのね?」
「ああ、神様の世界での恩人といっていい、その恩は一言じゃ語れない」
「なら一時的にでも縁の神社に来てもらおう」
「……んん!? う、え? あ? うん?」

 冷静な判断が出来てない縁は混乱していた。
 落ち着けと風月は縁の頭を軽く撫でる。
 縁は落ち着いて考え始めてる所に風月が言葉を続けた。 

「敷地内に小さいお社建ててさ、ちょっとそこで我慢してもらおう、もちろん物理的に住むんじゃなくてね」
「ふむ」
「縁は半分人間なんでしょ? さっき言ってたじゃん、基本的には人間が建てるってさ、なら縁がお社を建ててもいいじゃん」
「お、おお……確かに……それもそうだな」
「で、本当に大切にしてくれる人達とかが見つかって、神社を建てるって話になったら、そっちに移ってもらおう」
「ふむふむ」
「そして今まで使っていた神社は……別荘? みたいな?」
摂社せっしゃにするって事か」
「おお、そんな言葉なんだ」
「ああ、主祭神しゅさいじんと関係が深い社は摂社、それ以外は末社まっしゃだ」
「なるほど……って事はお兄さんは今神社が無いから、主祭神が二神になるのかな? あ、いやいや、絆ちゃんも居るから三神か」
「兄貴から歓迎だ」
「……おいおい……嬉しい話だがちょっと待ちな」

 弱々しい兄貴は右手を縁達に差し出した。

「今の俺に残された、本当に価値がある神社があるぜ? おお、これ持ってると喋る位の元気は出てくるな」
「そ、それは!」

 兄貴の右手には子供の工作で作った、雑で手のひらサイズの神社があった。
 立派なものではなく、木材をテキトーにくっつけて何とか建物っぽい。
 色の塗りも雑で塗られていない部分がチラホラとある。
 風月はそれを宝物を見る、つまりは価値のある物を見る目で見た。

「おお~何やら凄い力を感じる」
「お嬢さん、こいつの価値がわかるのかい?」
「それを見て直感で感じたのは、馬鹿にしちゃいけない事、縁がお兄さんを大切にしてるって願いかね?」
「こいつは昔摂社末社が欲しいとぼやいていた時に、縁が雑に作った社さ」

 兄貴は本当に嬉しそうに、手のひらサイズの雑な神社を見ている。

「でもな? ここに込められた感謝は本物で……今の俺が保っていられるのも、こいつのおかげさ」
「兄貴、それを持っていてくれたのか」
「当たり前だ……てか本当にいいのか? 俺の摂社を建てても?」
「ああ、ちょっと神社を本格的に改装しようかなと」
「改装? 色々と聞いてるが……ま、いいか」
「よしよし、話もまとまった事で……お兄さんの名前は? 私の本名は風野音《かぜのおと》むすび」
「ああすまねぇな、ちょっとまいっちまってて挨拶を忘れていた」

 先程とは比べてハッキリ喋る兄貴、やはり神様には信仰心が必要なのだろう。
 そして縁の気持ちはある程度元気にする位慕っているとてう事だ。

仲間見守兄貴なかまみまもりあにきって名前だ」
「……ん!? 兄貴って名前なの!? 縁のお兄さんではない!?」
「はっはっは、神の名前なんてそんなもんだ、まあでも縁の兄貴分だ」
「そういう名前って言われたら納得するしかないけど、んじゃ兄貴さん?」
「さんはいらねぇよ」
「了解~兄貴……あ、縁、お社のデザインはどうしよう? 宮大工さんはこの兎の国に居るのかね?」
「もちろんだ、俺の神社を建てた兎だ」
「おお、よし、その兎さんに会いに行こう」
「ああ、俺も久しぶりに話がしたい」
「俺も付いて行こう、久しぶりに歩かないとな」

 宮大工に会うために病室を後にするのだった。
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