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第四章 縁と結びで縁結び

第三話 幕切れ 一瞬で終わる雪景色

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 縁は眠りから覚めて、自分のテントから出るとグリオードが片付けをしていた。
 辺りを見回すとドレミド達は居ない、縁も片付けを始める。

「おはよう縁」
「グリオード、おはよう……ドレミドさん達はもう出発したのか」
「ああ」
「俺達も行こうか」
「だな」

 宿に帰るとスファーリア達は、受付近くの椅子に座り談笑していた。 

「お帰りなさい、グリオード」
「ああ、ただいま麗華」
「骨休みになりました?」
「正直言うとまだ足りないが、これ以上わがままは言ってられんか」
「ええ」
「麗華の事だ、ゾークの治療は終わっているな?」
「もちろんです、今すぐにでも出発出来ます」
「うむ」

 麗華はグリオードのわがままはお見通しので、先を見通してゾークの治療をサッサとしたようだ。

「ゾークも覚悟が決まった様です」
「そうか、彼の覚悟を聞こう」

 グリオードはゾークの部屋へと向かう、縁もそれに付いて行った。

「よう、グリオード」
「おお、いい顔になりましたね」
「ああ、覚悟を決めたら……父さんと母さんの最後の言葉を聞いた」
「ほう?」
「俺の身体に一定条件が揃うと発動するらしい」
「なるほど」
「これは魔王の血筋、トルゴメク家の家紋らしい」

 ゾークは右手の甲をグリオードに見せる、相合い傘の様なアザが刻まれていた。

「知らなかったが、母さんは魔王で父さんと結婚したから没落し、更に罰として寿命も奪われたようだ」
「ふむ」
「家の没落とか、母さんが罰を受けたのは……魔族の掟だから仕方ないと納得は出来る部分があるが……あの町は世話になったはずの父さんを殺した、仕方ないでは割り切れない」

 その顔は甘さが消えた悪魔の顔をしてる。
 だがその顔は実力の無さも痛感していた。

「麗華と契約したかな?」
「ああ、町を破滅する代わりにってな」
「そうか、君の覚悟は称賛に値する」
「ああ」
「では早速向かおうか」

 アゾールへと向かう途中、縁は昨日の出来事をスファーリアに話す事にした。

「スファーリアさん、グリオードと一緒に居る時に、昔の君と会ったよ」
「あら、可愛かった?」
「……ジャージ姿にウサミミカチューシャは嫌だった様だ」
「もう記憶にほとんど無いけど……あの時感じた嫌悪感はうっすらと覚えている」
「ちゃんとした衣服を着た方がいいだろうか?」
「縁君の好きにしたらいい、服装くらいでどうこう言わない」
「もちろん時と場合でちゃんとするがね」
「それならいい」

 何事もなくアゾールへと着いた一行。

「付きましたね、ではさっさと済ませましょう」

 麗華はとても楽しそうに一歩前に出た。
 その時、町から人がぞろぞろとやって来る。
 道具屋の主人が縁を見て叫んだ!

「ああ! アイツです! 竜人の心臓を大量に押し付けたのは!?」
「ふむ――」
「ごきげんよう……これが白眩身《しろくらみ》、ホワイトアウトでございます!」

 麗華はアイススケートの回転をする様に、その場で優雅に一回をした。
 一瞬にして白銀の世界、災害レベルの吹雪が突然吹いた。
 あらゆるモノを一瞬にして凍らせる、今この場で命が有るのは麗華達だけだ。

 麗華は涼しい顔をして縁達の方を見た、ホワイトイアウトが徐々に治まって来る。
 建物とそこに住んでいた住民達は、雪解けと共にきれいさっぱりと消えていた。
 周りの雪に包まれていた植物や動物達は、何事もなかったかのようにたたずんでいる。 
 ゾークが驚きながら辺りを見回している、町は消え動物達の楽しそうな鳴き声が聞えていた。

「す、すげぇ……躊躇ちゅちょ無く凍らせた、それに周りの命をそのままに……技術力がわけわかんねぇ」
「いえいえ、私はまだまだです」
「え?」
「この中で貴方を除けば私が一番格下です」
「えぇ……!?」

 ゾークは縁達を見回す、今まで感じ取ろうとしなかった『脅威』を感じた。
 自分に対して何かすると言う訳たではないが、揺るがない実力の違いを感じたのだ。

「やっと実力の差を感じましたか?」
「な、ななな!」

 スファーリアはトライアングルを鳴らす、するとゾークの恐怖心が消える。
 だがそれはそれでゾークは驚いているようだ。

「麗華さん、あまり威圧しないで」
「スファーリア様、お手数をおかけします」
「さて、帰りましょうか」
「おや?」

 スファーリアが何かに気付いて視線をそらした。
 縁達もそちらを見ると、こちらに向かってくる軍団が見える。
 旗を掲げていて、何処かの国の兵士達だろう。

「ほう? あれはイズール帝国の兵士だな、俺の噂を聞きつけたか?」

 縁はニヤリと笑ってそういった、その笑顔は無論黒い方だ。
 イズール帝国、元の時間軸で縁達は縁が結びに対して熱い告白をしたあの場所である。

「縁達が黒ジャージで暴れるから……でも凄い情報網ね」
「この時間軸なら全盛期だからな、俺も暴れていたし大義名分はバッチリだろうさ」
「縁君、あいつらは絆ちゃんをいじめ……いえ、殺そうとしてるのよね?」
「ああ、この時間軸なら積極的に絆を探しているだろうさ、俺も対象になっているだろう」
「なるほど、これは殺すしかない……麗華さん、悪いんだけど死体処理はお願い出来るかしら?」
「はい、お任せ下さい」
「ありがとうございます」

 スファーリアはトライアングルに乗り、イズール帝国の兵士達へ突撃する。
 縁達からは遠くで良く見えないが、それはそれは楽しそうな音を奏でているだろう。

「帝国の兵士を問答無用で殺してる……? 未来の奴がいいのか?」
「ゾーク、そんな事はささいな事です」
「ささい……か?」
「ええ、ですよね縁さん?」
「奴らは幸せの障害だ、ゾーク君、幸せを守りたいなら、問答無用の時もあるのさ」
「……」
「ゾーク? 貴方も同じですよ?」
「え?」
「私は貴方の代わりにこの町を亡きモノにしました、いずれ何かしらの理由で、貴方が原因だと突き止められるでしょう」
「確定してるのか?」
「まずは自分で考えたらどうです?」
「それもそうだな」

 ゾークは腕を組み、独り言を言い始めた。

「町一つ消えた……この町と関係があった者が調査、麗華に行き着く……そもそもの原因は俺……と、なるほど」
「理解力が高くて助かります」
「で、俺が生き残るためにはアンタから色々と教えてもらうと」
「ええ、不本意ですが、国のためです」
「そりゃ申し訳ございませんな」

 そんな話をしていると、スファーリアがとてもいい笑顔で帰って来た。
 そしていつの間にかイズール帝国の兵士達の死体はきれいさっぱりと無くなっている。

「よし、殲滅完了、これでこの時間軸の脅威は少しだけ減った」
「それじゃ俺達は帰ろうか」
「私はゾークを国に送ってきます」
「麗華、頼んだぞ」
「はい」

 その後麗華はゾークを国へと送り、縁達と合流して元の時代へと帰った。
 今回の出来事は、簡単に言えばグリオードの骨休み。
 巻き込まれた縁達だが、久しぶりにゆっくりと出来たのは間違いなかった。 
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