上 下
124 / 297
第二章 ジャスティスジャッジメントの正義

第九話 幕開き 次は無い

しおりを挟む
 縁は桜野学園前まで移動してきた。

「来た、休日出勤ご苦労様」
「スファーリアさんもね」
「教室に行こう」
「ああ」

 ほぼ誰も居ない校舎の廊下を通り、教室へと向かう。
 教室では生徒達が座っていた、スファーリアと縁は教壇へと立つ。

「みんな居るわね、これから授業を始めます、まずは前回のみんなの反省から聞きましょう、自分達のした事の反省じゃなくて、戦闘の反省ね」
「僕達の無茶を怒らないんですか?」
「経験は必要、だけど次は無い、死にたかったら卒業してからやって、迷惑だから」

 スファーリアは生徒達を『殺す勢い』で見た。

「……す、すみません」

 生徒達は縮こまってしまった、おそらくは予想はしていたのだろう。
 だが、本当に次は無い事を身体で感じた生徒達に、縁は優しく語り掛けた。

「スファーリアさんは、無許可でやった事を怒っているんだ」
「そう、私は縁君との時間をあなた達に潰されたんだけど? これ以上はグチグチ言わない」
「「「「……」」」」

 今更になって生徒達は自分達がした事をわかった。
 死の宣告をされて、震える死刑囚の様に黙っている。
 そんな生徒達を見てスファーリアは溜め息を一つした。

「今後役に立つ経験は出来た? それが出来たなら今回は許す」
「はい、もちろんです」
「じゃあ一本槍の感想を聞こうか」
「わかりました、まとめてきましたので、それを読みます」

 一本槍は用意していた紙を取り出して、それを読み始めた。

「先生方が来るとは分かっていても、いつ来るか分からなかったので、ペース配分がわかりませんでした、次に神の力は恐ろしい事です、相手にするのも自分で使うのも、今回生き残ったのは相手が調子に乗ってたからで、いくら未来さんの占いの結果が高くても、安易な考えでした」
「一本槍君は神の脅威を知ったかい?」
「はい、相手にした時は人知を超えた力でこちらの行動が無意味に、自分で使った時はその力の虜になりました」
「使おうと思うかい?」
「はい、それに見合う知識と経験を積んでから」
「そうだ、タダで強大な力を使えるとは考えない事だな」
「はい、この間の事でこりごりです」
「神の加護については後でやるとして、一本槍君はそんな所か?」
「はい、以上です」
「うむ、なら神様繋がりでツレ君はどうだ?」
「俺っすか?」

 少しうなだれていたツレは顔を上げた。

「正直、俺が居なかったらやばかったっすね」
「だろうね」
「縁君、どういう事?」
「例えば風月が誰かを殺すと決めたら絶対だろ?」
「そうね」
「死神はそれを回避できるのさ」
「あの時はツレは存在を削ってたようだけど?」
「死が強い程、守るのに力を使うからな」
「学校じゃガチで死ぬ機会なんて、これっぽちもないじゃないすか」
「当たり前、有ったらダメでしょ」
「だから死神としてぶっつけ本番だったんすよ」
「なるほど、これは課題ね」
「今更だがツレ君は死神として、どうしたいんだ?」
「俺っちは気ままに学園生活出来て、卒業出来たら気ままに死神として、死者の魂を冥界へ送る仕事すればいい、と思ってました」
「お、考えが変わったかな?」
「あんなイキリチラシ野郎から、友達を死を守る事に苦戦してたら、魂を届ける仕事なんて付けないって事が」
「だな、それにサングラスやアクセサリーを外す事を躊躇していただろ?」
「はいっす」

 ツレは自分のサングラスに手を掛けた。 

「一本槍達の寿命が見えたり聞こえたりするからっす、それに外したら……今の自分には制御出来ないっす」
「ツレ君、力は自分で制御出来て力だからな?」
「耳が痛いっす」
「いや、俺が言うのは説得力がなかったかな?」
「縁先生のは意味合いが違うじゃないっすか」

 ウサミミカチューシャを触る縁に、ツレは苦笑いをするしかなかった。

「ファリレントはどう?」
「お姉ちゃ……スファーリア先生から教えて貰った演奏術に絶対の自信があったのに、無理だった、あんなふざけた音をしている奴に手も足も出ないなんて」
「仕方ないわ、貴女は基礎しかしてないんだから、でもいい事よ? 基礎だけで耐え抜いたのはいい音を持っている証拠」
「……勝手をしてごめんなさい」
「その話は終わった事よ、でも確信を持って次の段階にいけるわ」
「スファーリアさん、次の段階って?」
「演奏術には種類が有るの、私なら絶滅演奏術、ファリレントは『祝福演奏術』の才が有る」
「それはどんな演奏術?」
「文字通り祝福に特化した演奏術、支援が得意な演奏術と思って」
「よくわかるな」
「ファリレントの根底にあった音が『ここで死ねない! お姉ちゃん達の結婚式に出るんだ! 生き残ってやる!』って強い音だったから」
「おお……なんて言うか……そんなもんなのか?」
「そんなもん、潜在的な音って」
「なるほど」
「あの」

 未来は無表情で手を上げた。

「今回は私の占いの結果が招いた事です、三流以下の占い師の行動でした」
「三流以下? どういう事だ未来さん?」
「結果だけをいい、対象者に『選択肢』を与えなかった事」
「選択肢?」
「今回の場合、新たな力を受け取る、授かる、開花する可能性だけを示しました」
「だけ?」
「危険性を大雑把に説明してしまった、二流にもなれない」
「未来さんにとって一流とは?」
「可能性だけ提示して選択させる事」
「なら未来さんは一流だな」
「んな馬鹿な」
「いや自分で言ってたでしょ? 選択させる事って、一本槍君達は理解してやったんだろ?」
「むう……」

 何を言っても、いい方に言い換えされると感じた未来は、困った顔をした。

「聞いてる限り各々の反省点が分かっているようだ、んじゃ、気持ちを切り替えてこいつを渡そう」

 縁は鞄から少し分厚く、持ち手の着いた小さい紙袋を、生徒達の机に置いていく。 

「縁先生、これは?」
「神御用達のスマホ、通称『カミホン』だ、連絡手段としてみんなにプレゼントだ、開けてみてくれ」

 生徒達は一斉に紙袋見る、その中に小さい長方形の箱が有る。
 それを開けると縁も使っているカミホンが姿を現した。
 目の色を変えて生徒達はカミホンを見て触っている。

「縁君、一旦休憩にしましょう」
「喋り疲れた」
「戦闘科の職員室に案内するわ」
「わかった」
「私達が戻ってくるまで自由してて」
「あ、はい!」

 生返事な生徒達をその場に残してスファーリア達は職員室へと向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

江戸時代改装計画 

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...