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第二章 ジャスティスジャッジメントの正義

第二話 後説 勢いで言ってしまったお知らせ

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 黒い光に包まれて3人はロビーへと帰ってきた。

「ロールお疲れ様でした」
「お疲れ様」
「お疲れ様ですわ」

 縁、絆、スファーリアは軽く頭を下げる。
 3人の頭の上にはパーティーチャットのアイコンが出ていた。

「さてお兄様、色々と聞かなければならない事がありましてよ!」

 絆は縁に自分の傘を向ける。

「なんだなんだ、ロールが終わったのに騒がしい妹だ」
「縁がお姉様と『子供の時に会っていた』という設定は何時の間に決めたんですの?」
「飲んでる時だったよね?」
「うん」
「次に斬銀との戦いの愛を叫んだのはなんですの?」
「その場の勢いと俺の魂の叫びだ」
「いきなり過ぎてリアルで吹くましたわよ! 聞いてるこっちが恥ずかしくなりましたわ!」

 絆は傘で縁をべしべしと叩き始めたが、ロール中ではないので痛がるフリをせずに暴れている妹を苦笑いして見ている縁。

「ロールに支障が出てないあたり流石我が妹」
「流石にあの場面ぶち壊す訳にはいかないですわ! アホでもわかりますわよ!」

 絆は傘からハリセンに持ち替えてべしべしと叩き始めた。

「でも斬銀さん飛び入りだったのにいい感じのポジションで参加したよね」
「メールで聞いたんだが、会社の休み時間使ってでも遊びたかったらしい」
「会社の休み時間中かよ! いや、仕事してるから許されてるのか?」
「まあスファーリアが死にかけた時、俺はマジで吐きそうになった」
「……兄貴、そこまでブチギレたんか」
「自分でもびっくり」
「まあ? アレは演技じゃなくマジな叫びだよねー誰が聞いても」

 叩き疲れたのかハリセンをポイ捨てした。

「これは後でロール見返さなきゃ」
「み、見返すのか……」

 縁は気恥ずかしそうにスファーリアを見る。

「私の心に響いたからね」

 スファーリアは自然で幸せそうな笑みを縁にした。
 
「……」

 縁は何時ものセリフを言おうとしたがその笑顔で言葉を失ってしまう。

「……俺は運がいいな」
「運だけで人の気持ちは動かないよ? 縁結びの神様」

 スファーリアはウィンクをしながら右手の指を降っている。

「くっ、言葉が思いつかんから言い返せん」
「じゃ、返せる言葉を楽しみにしてるわ」

 大人の余裕みたいな態度を見せるスファーリア。

「……また除け者ですわ」

 絆は下を向いていた。

「絆ちゃん?」
「いいんですわいいんですわ、私は除け者なんですわ」

 ポンという音と共に2頭身のサイズの大きさになり、泣きながら地面に『の』の字を書いている。

「ゲームエフェクトふんだんに使って泣くな」

 縁は苦笑いしながらいじけている絆を見た。

「私だってお姉様と遊びたいですわ、設定のお話もしたいですわ」
「ほらほら、いじけないで」

 スファーリアはデフォルメした絆を抱っこする。

「兄貴、しつこいと思うけどさ……中途半端は止めとけよ?」

 いきなり素に戻る絆。

「俺も縁も無責任な言葉は投げないさ」
「ふっへっへっへ」

 スファーリアはニヤニヤしながら笑っていた。

「……お姉様の男の趣味がわかりましたわ」

 絆はスファーリアをジト目で見る。

「ふへ!?」

 不意を突かれたのか絆を離してしまうが、絆は華麗に半回転をして着地。

「兄貴みたいなクッサイセリフを言う人が好きなん?」

 絆はスファーリアを指差すと共に自分の背後に『ババーン!』の文字と効果音の演出が出た、紙吹雪付き。

「それもあるけど違う」
「やはりあるんか」
「一番は一緒に居て楽しいからよ、私と波長も合うし……まだまだ知らない事も有るだろうけどね」

 スファーリアの言葉には優しさが詰まっているような言い方をした。

「……あの」

 絆はデフォルメを解除する。

「兄貴をよろしくお願いします!」

 頭を思いっきり下げた絆。

「なんつーか、兄貴は色々と普通の男と違うというか、変だけどその……」
「安心しな妹ちゃん、この私を選び私が選んだ男に間違いは無い」

 スファーリアはハッキリと自信に満ちた声でそう言った。

「……」
 
 絆は顔を上げる。

「今更ですが兄貴でいいんすか!?」

 縁を指差しながら何かを訴えていそうな顔をする絆。

「失礼な妹だな」
「もちろんよ」

 その短い返答に選択肢に間違い無いという意識があるような言い方をするスファーリア。

「あ、絆ちゃん、今度お互いの親睦を深める為に遊びましょ」
「はーい」

 スファーリアと絆は仲良し姉妹のようにニコニコとしている。

「あ、そうだ兄貴、今日も何処かに行くの?」
「ああ」
「さっきルルちゃんから私にメール来てたよ」
「なんて?」
「久しぶりにお店に来ないかいってさ」
「確かに最近行ってなかったな」
「誰?」

 スファーリアは首を傾げた。

「飲み屋やってる人で、ゲーム内でも時々一緒に遊んでいるよ」
「ほほう、じゃあそこに行こう」
「あールルちゃんは刺激が強いというか」
「簡単に言えばオネェ系だね」
「ほう? 面白そうじゃん」
「毛嫌いするかと思ったよ」
「人の心の価値は外見じゃないのさ」

 スファーリアは縁の真似をしながら本人を見る。

「……ほんとテンション高いな」

 縁は少し恥ずかしそうにしていた。

「うお!? 兄貴、姉貴、もう6時だよ?」
 
 絆の言葉に縁とスファーリアはメニューを開いて時間を確認する。

「あらまじだ、じゃあログアウトして店に向かおうぜ」
「ほい」
「了解」

 3人はメニューを操作してレアスナタからログアウトした。

「……ふぅ」

 ゲームを終了した縁もとい長谷川はため息をする。

「いや~勢いってこえーな」

 勢いで愛を叫んだのがゲームを終了した事によって更に恥ずかしくなったらしい。

「いや、どんな顔して会えば……悪い事をした訳じゃない、普段通りに行くか」

 と言いつつも長谷川はぎこちない手つきでシートベルトを外すのだった。
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