僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

文字の大きさ
上 下
911 / 934
二十三章

新入部員審査、1

しおりを挟む
 僕と猛はその後、実技棟へ移動してデータ分析に励んだ。その結果、上限更新の仕組みは推測どおりだったことが判明した。実を言うと、僕らはそれを予期していたのだ。と言っても特別なことなど更々なく、徒競走の原則に則って予期していたに過ぎない。それは、
 ―― 地面を踏む力を強めればより速く走れる
 という原則だった。筋肉はバネでもあるから、踏む力を強めれば反発力も増し、脚を後ろへ蹴り出す力も増える。よってより速く走れるという、単純明快な原則に従っただけだったのだ。踏む力が増えるのも、骨盤に縦運動させるのだから増えて当然という誰でも思い付くことだったので、僕らはそれをサクッと終わらせもう一つの推測の検証を始めた。
 結論を言うとこちらも当たっており、そして一つ目と同じく特別なことなど何もなかった。腰板のシーソー運動の相殺は膝で行うから腕は無関係という、単純極まる仕組みだったのである。ただこれは膝の負荷の増大を意味し、したがって膝の怪我リスクの増加も不可避となる。これに関しては絶対疎かにしてはならず、僕と猛は話し合い、最優先の研究対象を膝に変更することを決定したのだった。

 というのが、四限終了間際の話。
 それから約三時間経った、午後三時半。
 場所は新忍道部の練習場の、西端。
「これより、入部の一次審査を行う」
 四年生の加藤さんが、眼前に整列した新一年生に宣言した。それを受け、
「「「「ハイッッ!!」」」」
 六十四人が元気のいい声を返す。そう、新一年生が入学して三日目の今日は、新忍道部の入部希望者達の一次審査を行う日でもあったのである。
 去年の入部審査は、正確にはまだサークルだったから入会審査は、入学二日目の土曜に行われた。去年は一年男子の13%に相当する五十四人が入会を希望したのに対しそれを叶えられるのは三人しかいなかったため、なるべく早く合否を決定すべく、入学翌日の土曜に審査を行ったのだ。教育AIもそれに異を唱えなかったが入学翌日の土曜の午前中に合否を決定するという日程はさすがに早すぎ、「それを知らなかった」という理由だけで審査を逃した生徒も複数いたと教育AIは肩を落としていた。世界に通用する専門家を目指す研究学校生にとって情報収集は生命線の一つであり、それを逸したのだから願いを叶えられなくて当然なのかもしれない。だが、
 ―― 研究学校歴一日
 でしかない新一年生にそれを適用したのは間違いだったのではないかと、教育AIは自問せずにはいられなかったそうなのである。自問というのは咲耶さん自身の言葉で、明らかに悄然としている様子から自問より後悔が適切と判断した僕は、それを部の皆に話した。十二単のお姫様の咲耶さんは知らずとも、教育AIが豊かな感情を持っていることを知らぬ湖校生は一人もいない。したがって「教育AIは後悔しているようでした」との僕の感想を誰も否定せず、皆で意見を出し合い入部審査を改良していった。それを経て決定したのが、
 ――入学三日目の一次審査
 だった。この一次審査で希望者を半分にし、明日の二次審査で更に半分にし、そして明後日の最終審査をもって新入部員四人を決める方法を採用したのである。これなら希望者の四分の三が、金曜日の放課後に新たな部やサークルを訪れることができる。また明日に限り、一次審査を知らなかった一年生も受け入れる事にした。もっともその一年生達は明日中に一次審査と二次審査の両方をこなさねばならないから、体力的にキツイと思うけどね。
 ちなみに審査の内容は、今日の一次審査が無音走りと瞬発力と持久力。明日の二次審査が運動神経と射撃センス。そして明後日の最終審査が受け身を含む総合技術になっていた。この総合技術は、モンスター戦を指す。受け身の得意な一年生が五人以上いた場合のみ、モンスターとの戦闘を試験にしたのだ。それを知り「やった~」と喜んだ颯太を、油断するなと叱るべきなのか、それとも頑張れよと励ますべきなのかが、僕にはイマイチ判らなかった。
 そうこうするうち、入部を希望する六十四人が横八列縦八列に並び終えた。教育AIが3D表示をふんだんに映してくれているとはいえ、この人数がこれほど短時間に整然と並んでみせたのは、湖校生だからこそなのだろう。可能ならこの子たち全員を入部させてあげたいというのが、僕の偽らざる本音だった。
 本音はもう一つあり、それは「なぜ六十四人も集まったのかな?」だった。インハイを制した部に入部希望者が殺到するのは順当でも、一年男子の15%以上がやって来るとは正直思っていなかったのである。部の皆も去年の希望者五十四人を、
 ―― 美鈴効果による例外
 と捉えていたから、六十四人という今年の人数に目を丸くしていた。う~んでも、皆の驚き度合いが僕より少ないように感じるのは、気のせいなのかなあ。
 などと首を捻っているうち、審査が始まった。横一列に並んだ八人が無音スタートを切り、無音の準全速で10メートル走って無音停止する。これを小セットとし、小セットを休まず三回こなしたら一分間休憩する。これを中セットとし、中セットを三回こなしたら三分間休憩する。これを大セットとし、大セットを三回こなしたら一次試験終了だ。点数配分は無音維持が全体の五割を占め、瞬発力と持久力がそれぞれ二割、そして停止センスが一割となっていた。この点数配分を知らせたうえで、各々が自ら考えてペースを配分してゆく。また準全速の解釈と休憩時間の過ごし方も各々に任されているという、
 ―― 自由裁量
 をこの審査は基本としていた。ただ例外として、無音停止の手本だけは示した。誰が手本になるかはちょっともめたのだけど、いやもめたと言っても「今年は僕以外がいいと思います」と主張する僕を皆が「まあまあそう言うな」と宥めただけなのだが、それはまあいいとして、結局今年も僕が手本になってしまった。何となく腑に落ちなかった事もあり、来年こそは他の誰かにしてもらえるよう僕は画策している。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

Halloween Corps! -ハロウィンコープス-

詩月 七夜
キャラ文芸
この世とあの世の狭間にあるという異世界…「幽世(かくりょ)」 そこは、人間を餌とする怪物達が棲む世界 その「幽世」から這い出し「掟」に背き、人に仇成す怪物達を人知れず退治する集団があった その名を『Halloween Corps(ハロウィンコープス)』! 人狼、フランケンシュタインの怪物、吸血鬼、魔女…個性的かつ実力派の怪物娘が多数登場! 闇を討つのは闇 魔を狩るのは魔 さりとて、人の世を守る義理はなし ただ「掟」を守るが使命 今宵も“夜の住人(ナイトストーカー)”達の爪牙が、深い闇夜を切り裂く…! ■表紙イラスト作成:魔人様(SKIMAにて依頼:https://skima.jp/profile?id=10298)

処理中です...