僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

文字の大きさ
上 下
117 / 934
四章

サークル前史、1

しおりを挟む
 その日の帰りがけ、1対1の練習に誘ってくれたヤツらが、顔を輝かせて話題を振ってきた。
「女子の先輩の中にはホント巧い人達がいて、見ているだけでやる気が出てくるんだ」
 男子サッカー部と女子サッカー部は、いつも同じ時間に隣り合って練習している。女子サッカー部のトップ選手達が男子の練習にしばしば混ざるので、伝統的にそうしているのだそうだ。
「しかもあんなに巧いのに、普段は優しい素敵なお姉さんなんだぜ。猫将軍、信じられるか?」
 体育祭のストラックアウトで活躍した九組の一条さんを、僕は思い浮かべた。確かに一条さんなら二年後、男子一年生部員の女神的存在になっているだろう。納得した僕は皆とその話で盛り上がった。そしてその最中、もう一つ納得したことがあった。それは、サッカー部と陸上部が必ず時間をずらして日程を組まれている事への、納得だったのである。
 第一グラウンドを使う八つの部活の中で最も人数が多いのは、関東有数の強豪校である陸上部だ。次に多いのが男子サッカー部で、少し離されてラグビー部や女子サッカー部が続くのだけど、サッカー部はいつも男女一緒に練習しているため、合計部員数で陸上部を上回るのだと言う。よって教育AIは、三位以下を大きく引き離すこの二大グループの練習時間を、毎日ずらして夏休みの予定を組んだ。二つの部はこうして、午前と午後に必ず分かれて練習することとなったのである。
 それは僕にとって、二つの面でメチャクチャ有難いことだった。一つは、「陸上部の練習に参加しているのを、休んでいるサッカー部の皆に横目で見られる」なんて恐ろしい事態に陥らず済んだ事。そしてもう一つは、新忍道サークルと二つの部の掛け持ちが容易になった事だ。
 サッカー部の練習に初めて参加した日の夕方、北斗と二階堂に電話し手伝ってもらったところ、「陸上部とサッカー部に週四日参加し、新忍道サークルを週一で休む」というスケジュールを、夏休み終了まで組めることが判明した。それは中央図書館へのトボトボ歩きを一掃した瞬間でもあったから、手伝ってもらったことも考慮すれば、僕は飛び上って喜ぶべきだったのだろう。でも、それはできなかった。一番初めに誘ってもらい、そして一番長く汗を流してきた新忍道サークルを、休まなければならなかったからだ。項垂れる僕の耳に、北斗の声が届いた。
「眠留、明日のお昼、真田さんとの約束を果たそう」
 僕は力なく頷いた。二階堂も、このスケジュールに従うことを快く賛成してくれた。僕は次の日のお昼、皆でお弁当を食べながら、先輩方にその話をした。話を聞き終えた真田さんは一言、言った。
「三日ある自由日をどう使うかは、猫将軍の自由だ。正直、寂しくはあるがな」
 真田さんに続き、副長や先輩方が次々声をかけてくれた。
「ったく、ちょこまか動くお前がいないと、少し物足りない気がするぜ」
「副長は口が悪いから、同じ想いの俺が翻訳しよう。骨惜しみせず何事にも全力で臨むお前を、副長はとても気に入っているそうだ」
「お前と壁越え練習をできないのは寂しいが、お前の夏休みはお前のものだ。猫将軍、しっかりやれよ」
「寂しいがしっかりやれよ。それにしても自由日を一日使うだけなのに、猫将軍は大層な人気者だな」
「お前は潜入と射撃が巧すぎだから、一日と言わず三日休め。そうでもしないと、差がちっとも縮まらん。と言う先輩が一人もいないと猫将軍も自由日を使いづらいだろうから、二年の俺が代表して言っておこう」
「なんで二年のテメーが代表すんだよ。射撃が一番下手な代表でもしとけ」
「副長は口が悪いから、同じ想いの俺が・・・」
「ま、黛さん! 打たれ弱い俺を、これ以上打ちのめさないでやって下さい!」
 ボケ担当の加藤さんをダシにして、先輩方はいつも通りワイワイやり始めた。新しいことを始める僕を励ましつつも、それが重荷にならない気づかいをしてくださっているのだ。先輩方の懐の深さに、僕は何も言うことができなかった。
 そんな僕の肩を、両側に座っていた二人の友が、優しくぽんぽんと叩いてくれたのだった。

 七月末の夕方、二階堂の呼びかけにより、僕ら一年生トリオは北斗の家で会合を持った。腰を落ち着けグラスを合わせ乾杯するや、なみなみがれた麦茶を二階堂は一気に飲み干し、新忍道サークルの誕生の経緯を話してくれた。
「新忍道サークルは、北斗と猫将軍を除く七人全員が、元忍術部員だってことは知ってるよな」
 もちろん知っていた。けど僕はそれを、触れてはいけない事のように感じていたので、黙って頷くだけに留めた。二階堂はそんな僕に、目元をほんわり和ませた。
「猫将軍は何かを察しているようだな。元忍術部員として口にしにくい箇所があるから伏せていただけで、後味の悪い話ではないんだ。安心して聞いてくれ」
 そう言って二階堂は一息入れ、自分達の過去を明かした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

処理中です...