916 / 935
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第82話 かがりの一生忘れられない光景
しおりを挟む
広瀬かがりはその瞬間のことを一生忘れることはなかった。
聖につながれていたヴァイタル・データ計測器が、一斉に沈黙したその瞬間のことを。
正確には『ピー』という無慈悲な音が一斉に鳴り響いた。
ただ、そこにいたるまで、本来は当たり前に聞こえるはずのけたたましい警告音も、注意を促すための点滅光もなかった。
機器はまるでつながれた聖と一緒に、『死』が突然訪れたような、そんな振舞いをした。
『え、なに……』
混乱のあまり心臓が飛び跳ねる余裕も、足が震える間もなかった。
バーンと荒々しい音をさせて、ダイブルームに医療スタッフが飛び込んできた。
かがりはその激しい音にすら反応できなかった。
目の前で血相をかえたスタッフたちが、聖のからだをプールから引きずりあげ、からだに装着した電極や、ゴーグル、呼吸器を引き剥がしていくのを、ぼーっと見ていた。
「聖……ちゃ……ん」
かがりは声をかけたが、ぱくぱくとした口の動きだけで、それは音にならなかった。
「かがり!」
背後からなげかけられた、父、輝雄のつよい口調の声にかがりはハッとした。
「おとうさん!」
その瞬間、音が戻ってきた。
あたりには室内中に音が充満していた。
機器から発せられる警告音、スタッフたちのあいだで飛び交う指示、粗っぽく扱われる機器がぶつかる音……
「お父さん! 聖ちゃんが! 聖ちゃんが!!」
「かがり、おまえは待機室で待ってなさい。ここは専門家にまかせて!」
「な、なにが起きたの?」
「わからん! さっきからヴァイタルが安定しなかった。だが…… とりあえず医療スタッフが蘇生にあたってる!」
「そ……そ……せいって?」
そのとき室内にストレッチャーが運び込まれてきた。聖のからだはまだ濡れたままだったが、ストレッチャーに横たえられると、すぐさま出口のほうへ運びだされていった。かがりはそれを追いかけようとしたが、父、輝雄に背後から肩をつかまれた。
「かがり、今は専門家にまかせなさい! おまえが行ってもできることはない」
かがりは下唇をかみしめながら父のほうをふりむいた。
「わたしも今は無力だ……」
聖に会えたのはそれから2時間ほど経ってからだった。
かがりは集中治療室の聖をガラス越しに見ることができた。
またおびただしい数の機材につながれた上、今度は点滴までがぶらさがっていた。
聖につながれていたヴァイタル・データ計測器が、一斉に沈黙したその瞬間のことを。
正確には『ピー』という無慈悲な音が一斉に鳴り響いた。
ただ、そこにいたるまで、本来は当たり前に聞こえるはずのけたたましい警告音も、注意を促すための点滅光もなかった。
機器はまるでつながれた聖と一緒に、『死』が突然訪れたような、そんな振舞いをした。
『え、なに……』
混乱のあまり心臓が飛び跳ねる余裕も、足が震える間もなかった。
バーンと荒々しい音をさせて、ダイブルームに医療スタッフが飛び込んできた。
かがりはその激しい音にすら反応できなかった。
目の前で血相をかえたスタッフたちが、聖のからだをプールから引きずりあげ、からだに装着した電極や、ゴーグル、呼吸器を引き剥がしていくのを、ぼーっと見ていた。
「聖……ちゃ……ん」
かがりは声をかけたが、ぱくぱくとした口の動きだけで、それは音にならなかった。
「かがり!」
背後からなげかけられた、父、輝雄のつよい口調の声にかがりはハッとした。
「おとうさん!」
その瞬間、音が戻ってきた。
あたりには室内中に音が充満していた。
機器から発せられる警告音、スタッフたちのあいだで飛び交う指示、粗っぽく扱われる機器がぶつかる音……
「お父さん! 聖ちゃんが! 聖ちゃんが!!」
「かがり、おまえは待機室で待ってなさい。ここは専門家にまかせて!」
「な、なにが起きたの?」
「わからん! さっきからヴァイタルが安定しなかった。だが…… とりあえず医療スタッフが蘇生にあたってる!」
「そ……そ……せいって?」
そのとき室内にストレッチャーが運び込まれてきた。聖のからだはまだ濡れたままだったが、ストレッチャーに横たえられると、すぐさま出口のほうへ運びだされていった。かがりはそれを追いかけようとしたが、父、輝雄に背後から肩をつかまれた。
「かがり、今は専門家にまかせなさい! おまえが行ってもできることはない」
かがりは下唇をかみしめながら父のほうをふりむいた。
「わたしも今は無力だ……」
聖に会えたのはそれから2時間ほど経ってからだった。
かがりは集中治療室の聖をガラス越しに見ることができた。
またおびただしい数の機材につながれた上、今度は点滴までがぶらさがっていた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~
ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。
ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!!
※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる