771 / 935
ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第3話 ハンニバル・バルカは人類史上最高の戦術家だ
しおりを挟む
「さく……エヴァ、やめなさい」
父がすぐさま割ってはいった。父はローガンを目線で注意を促すと、わたしに言った。
「ハンニバル・バルカは人類史上最高の戦術家と言われ、現在でもその戦術は、各国の軍学校の教科書に載っているほどの人物だ」
「へー」
わたしはこちらにむかってくる兵隊の列のほうへ目をやった。
兵のだれもが疲れ切った顔をしているようにみえた。この雪山を重装備で登ってきたのだから、当然といえば当然だ。
ふいに先頭をいく象の一頭が歩みをとめたのがみえた。
象使いたちが集まりはじめ、なだめすかしながら前に進めようとする。だが象はそれに応じようとしない。見かねた後方の歩兵たちが、象の背後に回り込んで押しはじめた。
象使いたちは口々に厳しい声を象に投げかけ、ムチをふるった。
象がそれに従い、ゆっくりと足を上げかけたが、ふいに象がからだをくねらせ暴れはじめた。あわてて象使いが落ちつかせようとしたが遅かった。
象は鼻をふりまわして、あたりの象使いや歩兵をはじきとばした。彼らはなすすべもなく、谷底に落ちていった。歩兵たちはたずなをつかんで、象を押さえつけようとしたが、それを嫌がった象は足を滑らせ、そのまま荷車と何人もの人間たちを道連れにして、谷底へ消えていった。
あたりに断末魔の叫びがこだまする。
「落ちたわ」
「ああ、見えてるよ」
「お父様、これがどれほどの戦術家の作戦なのか、わたしにはわからないわ。ただ無謀なことをやってるとしか思えないもの」
「エヴァちゃん。きみの言う通り、無謀そのもの、だれもできっこないと思われていた作戦さ。敵側のローマもそう思っていたからね」
ビジェイが横から言ってきた。
「だがハンニバルは不可能と言われていたアルプス越えを果たして、全盛期のローマを滅亡寸前までおいやるんだ」
その顔は浅黒い肌色のせいでわかりにくかったけど、いくぶん上気し興奮しているようにすら感じられた。
「ずいぶん嬉しそうね。ビジェイ」
「ああ、だって……歴史的な作戦を目の当たりにしているんだよ。この作戦の成功をうけて、この160年後にはユリウス・カエサルが今度はローマ側からアルプス越えを敢行し、そして約2000年後には、ナポレオン・ボナパルトがアルプスを越えて、イタリアに攻め入っているんだ」
「ああ、そう……」
「ガードナーCEO……」
ローガンが腕まくりをするジェスチャーをしながら言った。
「もしかして、オレらは、あの疲れ切ったハンニバル軍を蹴散らせばいいのかね」
父がすぐさま割ってはいった。父はローガンを目線で注意を促すと、わたしに言った。
「ハンニバル・バルカは人類史上最高の戦術家と言われ、現在でもその戦術は、各国の軍学校の教科書に載っているほどの人物だ」
「へー」
わたしはこちらにむかってくる兵隊の列のほうへ目をやった。
兵のだれもが疲れ切った顔をしているようにみえた。この雪山を重装備で登ってきたのだから、当然といえば当然だ。
ふいに先頭をいく象の一頭が歩みをとめたのがみえた。
象使いたちが集まりはじめ、なだめすかしながら前に進めようとする。だが象はそれに応じようとしない。見かねた後方の歩兵たちが、象の背後に回り込んで押しはじめた。
象使いたちは口々に厳しい声を象に投げかけ、ムチをふるった。
象がそれに従い、ゆっくりと足を上げかけたが、ふいに象がからだをくねらせ暴れはじめた。あわてて象使いが落ちつかせようとしたが遅かった。
象は鼻をふりまわして、あたりの象使いや歩兵をはじきとばした。彼らはなすすべもなく、谷底に落ちていった。歩兵たちはたずなをつかんで、象を押さえつけようとしたが、それを嫌がった象は足を滑らせ、そのまま荷車と何人もの人間たちを道連れにして、谷底へ消えていった。
あたりに断末魔の叫びがこだまする。
「落ちたわ」
「ああ、見えてるよ」
「お父様、これがどれほどの戦術家の作戦なのか、わたしにはわからないわ。ただ無謀なことをやってるとしか思えないもの」
「エヴァちゃん。きみの言う通り、無謀そのもの、だれもできっこないと思われていた作戦さ。敵側のローマもそう思っていたからね」
ビジェイが横から言ってきた。
「だがハンニバルは不可能と言われていたアルプス越えを果たして、全盛期のローマを滅亡寸前までおいやるんだ」
その顔は浅黒い肌色のせいでわかりにくかったけど、いくぶん上気し興奮しているようにすら感じられた。
「ずいぶん嬉しそうね。ビジェイ」
「ああ、だって……歴史的な作戦を目の当たりにしているんだよ。この作戦の成功をうけて、この160年後にはユリウス・カエサルが今度はローマ側からアルプス越えを敢行し、そして約2000年後には、ナポレオン・ボナパルトがアルプスを越えて、イタリアに攻め入っているんだ」
「ああ、そう……」
「ガードナーCEO……」
ローガンが腕まくりをするジェスチャーをしながら言った。
「もしかして、オレらは、あの疲れ切ったハンニバル軍を蹴散らせばいいのかね」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になっていた私。どうやら自分が当主らしい。そこまでわかって不安に覚える事が1つ。それは今私が居るのは天正何年?
俣彦
ファンタジー
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になった私。
武田家の当主として歴史を覆すべく、父信玄時代の同僚と共に生き残りを図る物語。
女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】
m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。
その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる