748 / 935
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第272話 あれが切り裂きジャックか?
しおりを挟む
そのとき、コナン・ドイルが声をあげた。
「も、もうひとりでてきますよ」
暗くてよく見えなかったが、男はボアのついた襟つきの長い黒コートに、黒いズボンを着て、黒いフェルト帽をかぶっていた。
年齢は30代なかばという感じで、濃い眉毛、濃い口髭でいる、浅黒い顔の男だった。
コートの下にはヴェストを着込み、ネクタイをきっちりと締めている。この時間、このイーストエンドという場所には、およそ不似合いな立派な格好だった。
「あれが切り裂きジャックか?」
マリアが訊くと、ゾーイが即座に否定した。
「いいや。たぶん、最後の犠牲者メアリ・ケリーと最後に一緒にいた人物、とされている御仁だろうね」
「じゃあ、切り裂きジャックじゃねぇか」
「ちょっとゾーイさん、大丈夫なんですか?。ケリーさん、もしかしたらもうなかで殺されてるんじゃないですか?」
「コナン・ドイルさん。あなたの言うことももっともだけどね、セイさんとお姉さまが外で見張ってるんだよ。そんなヘマしやしないよ」
「まぁ……たしかに…… でもセイさんもスピロさんもいったい全体なんだって、外を見張っているんです」
「そうだな。ピーターの証言で切り裂きジャックの正体はわかったンだろ?」
「はい。お姉さまは確信したと……」
「だったらなんでさっさと捕まえねぇんだ? もうアロケルのヤツはくたばったんだ」
「お姉さまがまだやり残しがあるかもしれないって」
「やり残し?」
マリアとコナン・ドイルが同時に言った。
------------------------------------------------------------
男が二階建ての貸間長屋の屋根の上で、祈るような仕草をしていた。
彼の視線は昇ってこようとする日の光のほうにむけられている。男が広げた両手を上から下へバサッと降ろした。
とたんに、あたりが漆黒の闇に閉ざされた。
男は満足そうに口元をゆるめた。
「ほんとうにもう一体いるとは思いいたりませんでした」
その一連の動作を隣の棟から眺めていたスピロが感嘆した口調で言った。
セイはスピロの腰に手をあてがうと、ポーンと跳躍して、男がいる屋根の上に飛び移った。
帽子を目深にかぶって顔を隠そうとした。
スピロが、してやられた、とばかりに軽くため息をついて言った。
「まさか生きてらっしゃったとはね……」
「エイブラハム・ブラム・ストーカー様、いえ、ブラム・ストーカー様を乗っ取った悪魔様」
「も、もうひとりでてきますよ」
暗くてよく見えなかったが、男はボアのついた襟つきの長い黒コートに、黒いズボンを着て、黒いフェルト帽をかぶっていた。
年齢は30代なかばという感じで、濃い眉毛、濃い口髭でいる、浅黒い顔の男だった。
コートの下にはヴェストを着込み、ネクタイをきっちりと締めている。この時間、このイーストエンドという場所には、およそ不似合いな立派な格好だった。
「あれが切り裂きジャックか?」
マリアが訊くと、ゾーイが即座に否定した。
「いいや。たぶん、最後の犠牲者メアリ・ケリーと最後に一緒にいた人物、とされている御仁だろうね」
「じゃあ、切り裂きジャックじゃねぇか」
「ちょっとゾーイさん、大丈夫なんですか?。ケリーさん、もしかしたらもうなかで殺されてるんじゃないですか?」
「コナン・ドイルさん。あなたの言うことももっともだけどね、セイさんとお姉さまが外で見張ってるんだよ。そんなヘマしやしないよ」
「まぁ……たしかに…… でもセイさんもスピロさんもいったい全体なんだって、外を見張っているんです」
「そうだな。ピーターの証言で切り裂きジャックの正体はわかったンだろ?」
「はい。お姉さまは確信したと……」
「だったらなんでさっさと捕まえねぇんだ? もうアロケルのヤツはくたばったんだ」
「お姉さまがまだやり残しがあるかもしれないって」
「やり残し?」
マリアとコナン・ドイルが同時に言った。
------------------------------------------------------------
男が二階建ての貸間長屋の屋根の上で、祈るような仕草をしていた。
彼の視線は昇ってこようとする日の光のほうにむけられている。男が広げた両手を上から下へバサッと降ろした。
とたんに、あたりが漆黒の闇に閉ざされた。
男は満足そうに口元をゆるめた。
「ほんとうにもう一体いるとは思いいたりませんでした」
その一連の動作を隣の棟から眺めていたスピロが感嘆した口調で言った。
セイはスピロの腰に手をあてがうと、ポーンと跳躍して、男がいる屋根の上に飛び移った。
帽子を目深にかぶって顔を隠そうとした。
スピロが、してやられた、とばかりに軽くため息をついて言った。
「まさか生きてらっしゃったとはね……」
「エイブラハム・ブラム・ストーカー様、いえ、ブラム・ストーカー様を乗っ取った悪魔様」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
秋津皇国興亡記
三笠 陣
ファンタジー
東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。
戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。
だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。
一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。
六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。
そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。
やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。
※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。
イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。
(本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になっていた私。どうやら自分が当主らしい。そこまでわかって不安に覚える事が1つ。それは今私が居るのは天正何年?
俣彦
ファンタジー
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になった私。
武田家の当主として歴史を覆すべく、父信玄時代の同僚と共に生き残りを図る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる