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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜

第108話 ブラム・ストーカーズ・ドラキュラ

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「バリー様、わけがあるのです」
 スピロがあわてて口をはさんだ。
「ストーカーさんの著作は、あまりにヒットしたので亜流や翻案や剽窃ひょうせつがおおすぎたのです。そのほとんどがB級……、つまりクズのようなものが多いものですから、正式な作品には作者の名前を冠して、記載されねばならなかったのです」

「『ブラム・ストーカーズ・ドラキュラ』と」

「ドラキュラ?。なんですか、それは?」

「吸血鬼ですわ。人類史上もっとも有名なね」

「ほんとうかね。それをこの私が?」
「今より10年以上もあとに執筆します。まあ、アイディアは劇団の先輩が書いた女吸血鬼『カーミラ』が元になってるのですけどね」

「なんだよ、パクリか!」
 マリアがあまりにあけすけに言いはなったのをセイは注意した。
「マリア、失礼だよ。そんなこと言っちゃあ。いまじゃあドラキュラは吸血鬼の代名詞で、恐怖の象徴なんだし」
「ふん、ほんもののドラキュラは存外に小心者だったぜ。まあ、何万人も串刺しにする人でなし野郎だったがな。つくづくこの手で首を刎ねられなかったのが心残りだよ」

「そのドラキュラなる人物は実存したのですか?」
 興味深げにきいてきたのは意外なことにコナン・ドイルだった。
「あたりまえだろ。歴史に埋もれちゃあいるが、コンスタンティノープルを落とした、破竹の勢いのオスマン=トルコを撃退したんだ。まぁ、やり方はひでぇがな」
「いやぁ、それは興味深い。あたしゃ、ご存知のように歴史作家として名をなしたいと思ってますからね。そういうのを聞くとうずうずしちゃいまして」

 コナン・ドイルがほんとうに嬉しそうに言ったが、スピロがそれを断じた。
「コナン・ドイル様。信じてらっしゃらないようですが、あなたはミステリの大家として歴史に名を残すのですよ」
「いやぁ、不本意だな。それってもうきまっちゃってるわけ?」
 心底がっかりしているのを見て、それまで口を開こうとしなかったリンタロウが、コナン・ドイルを慰めるように言った。
「アーサー、あきらめるのが肝要です。小生なんぞは軍医として、官費で留学までさせてもらって医学を勉強していたというのに、未来ではその功績なぞだれにも知られてない、と云われたのですよ」
「いやあ、あたしゃ、どうにも受け入れられないなぁ」

「ミスター・ワイルド。話を進めてくれないか!」

 それまでのやりとりを静観していたジークムント・フロイトが、業を煮やしたとばかりに、大声でどやしつけてきた。

「くだらん自己紹介なぞさっさと済ませたまえ。わが輩はドイツから来ておるのだぞ」
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