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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜

第58話 トゥキディデスとの対話2

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「そうか、あなた方のいる未来では、やはり見抜かれておったか……」

 トゥキディデスは清々したような顔で言った。
「ヘロドトスは自分の取材を調査や探求ヒストリエーと呼んでいたが、本来の取材とは追求や究明ゼーテーシスとならねばならないのだ」
「さうさねぇ。あなたはヘロドトスとちがって、たくさんの史料を集めってたって聞いてるよぉ。いくつもの情報を比較して信頼性を検討した上で『真実』のみを記述しているってね。でも、それこそが、ほんものの『歴史学』っていうやつじゃないのかい」
「なんとも嬉しいことを……」
「あんたが、ペロポネソス戦争に焦点を絞ってたからねぇ。広く浅く記述したヘロドトスさんとは違って、深く掘り下げられたっていうのもよかったんじゃないのかねぇ?」
「あぁ。あの戦争にはわたしも一時は将軍として出征した。だが作戦に失敗して追放されてしまってね。見守ることしかできなくなった。わがポリスアテナイが、スパルタに敗北するのを、怒りと悲しみとともに見続けるしかなかったのだ……」
「だからこそ、第一級の資料ともなる名著が完成したんだろ?」
「あぁ、そうだな。そう言ってもらうと、自信が湧いてくるよ……。ありがとう」
 トゥキディデスの顔は本当に晴れやかに、赤みを帯びていた。だが、ふいにその笑みはなりを潜めた。自分自身を戒めようとしているかのように口元を引き結ぶ。

 ゾーイはその変化にはっとした。スピロの作戦が思いのほかうまくいって、せっかくトゥキディデスの心をつかんだという実感があったのに、突然ふりだしにもどってしまった。そんな嫌な思いが頭を掠めた。

 トゥキディデスがゾーイに透徹とうてつした|まなざしをむけてきた。それはいついかなるときも、客観的事実だけをあぶり出そうとする『歴史家』の目だった。
 ゾーイは今この場での話も客観視して、事実に即したものだけを拾いあげようとしているのではないか、と思えた。

 あまり良い気持ちはしない——。

 あまり掘り下げた質問をされても、答えようもない。スピロから伝授された駆け引きは、それっぽく聞こえるだけで、正直ゾーイは理解できていないこともあった。
 ゾーイはスピロのことばを必死で思い返した。だが、スピロはあまりその内容の理解自体には頓着していなかった。

『いわゆる弁論術レトリケで良いのです。相手を納得させられるのであれば、知識や理解は不要です』
『だがつけ焼き刃じゃあ……』
『では、万が一、話が途切れたり、なにかを疑われるようなことがあったら使える、とっておきの話をいくつか授けます——』
『とっておき?。どんな話なんで?」
『たいした内容ではありません。でもたぶんどれも……劇薬です』
『劇薬……って……』

『取り扱いには充分ご注意をしなさいということです。ゾーイ』
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