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エピソード1 平家と源氏の末裔
第2話 仮想世界網『同時多発憑依』が発生してる
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この浮遊感はじつにスリリングだ、と平平は感じていた。
ふつうならパラシュートが不可欠な高度を、自分の身ひとつで浮遊していられるのだから。それがAIが構築したニューロOS内のヴァーチャル世界の感覚だとわかっていても、これだけ高揚感を感じられれば上出来だ。
平平はノートルダム大聖堂を思わせる荘厳な建物の屋根に着地すると、突き出している尖塔の先につかまって、眼下にみえる低層の建物を見おろした。
「あれは……」
すこし離れたところにある平屋根の建物の屋上になにかを見つけた。
それは瀕死の状態で横たわる男だった——。
中世の騎士を思わせる甲冑を着ているが、その甲冑は腹から下がもぎ取られており、からだのほうも胸から下がない。現実世界ならまごうことなき死体だ。
平平はおおきくジャンプすると、その死体が横たわる屋根に降りたった。
「なんだ。ランスのおっちゃんじゃねーか」
平平は死体に歩みよると、躊躇することなく声をかけた。
ランスと平平に呼びかけられた男は、下半身だけでなく顔も半分えぐられていて左半分しかなくなっていたが、その左半分の顔を奇妙にゆがめて笑顔を浮かべた。
「おいおい、ヘイヘイヘイ。『なんだ』はないだろ、『なんだ』は……」
声帯部分のデータ損傷のせいか、いくぶん嗄れた声になっているが、その声色からは少しはしゃいだ様子が感じられる。
「ヘイヘイヘイじゃねー、平平平だ」
「おー、そうだったか」
「頼むぜ。このあいだの体験入隊ンときから、ずっとまちがえっぱなしじゃねぇか」
「いや、すまねぇ。一度それで覚えたら変えられなくてな」
「年だよ、年!」
平平はそう悪態をつきながら、ランスの横に片膝をついて顔を覗き込んだ。ランスのあたまの上には、数字の「1080」の文字が浮かんでいた。さらにその数字のうえに手をかざすと、カラーチャートのような円が浮かびあがった。外枠こそ円になっていたが、実際には3分の2が欠けて、赤い色部分の扇状に残っているだけだ。
「それにしても正電霊媒師のくせに、ずいぶん、ボコられたもんだ」
「あぁ。面目ない——。だがな、あいつは30階層に『出る』って手配書がまわっていた『コールマイナー』と呼ばれる電幽霊だぜ」
「コールマイナー?。聞いたことある。たしか、戦略護符も操れないような下流霊だろ。なんでこんな53階層みたいな深いとこに『出てる』んだ」
「わからん。だが手配書がでまわるだけあって破壊力がケタ違いだ。浅い階層に巣くっているやつとは思えん。一撃で7~8000、『マナ』を削られるんだ」
ランスがため息をつきながら、平平に言った。
「75%の霊力をくらっただけで、このざまだよ」
「ざまねぇな。ほら、やっぱ、年なんだよ、年!」
「抜かせ!。おまえが異常なんだよ」
平平はランスの頭の近くに顔をよせると声を潜めるようにして訊いた。
「で、今回どうなってんのよ?」
「世界中の仮想世界網で、『同時多発憑依』が発生して、各支部、てんてこ舞いよ」
「そりゃ、研修生のオレたちが招集されくらいだからな」
「おいおい、ヘイヘイ、おまえ、浄霊しようなんて考えてねーだろうな。アイツは高校の一年坊のおまえの手に負えるレベルじゃないぜ」
「おっちゃん、オレを誰だと……」
「あーそれでもムリムリ。それよりおまえたちの担任に任せろ……」
ランスは半分しかない顔をいやらしげに歪めてから続けた。
「あのドSのエロい先生にな」
「アミ先生かぁ?。勘弁してくれ。オレたちでやれるよ」
「——ってもな、取り憑かれたのは、オマエんとこの学校の生徒なんだ」
「マジで?」
「あぁ。希代の陰陽師の末裔、あの安倍明晴君の弟君だよ」
「あのいけ好かない安倍生徒会長の、さらにいけ好かねーチャラ弟かよ」
ふつうならパラシュートが不可欠な高度を、自分の身ひとつで浮遊していられるのだから。それがAIが構築したニューロOS内のヴァーチャル世界の感覚だとわかっていても、これだけ高揚感を感じられれば上出来だ。
平平はノートルダム大聖堂を思わせる荘厳な建物の屋根に着地すると、突き出している尖塔の先につかまって、眼下にみえる低層の建物を見おろした。
「あれは……」
すこし離れたところにある平屋根の建物の屋上になにかを見つけた。
それは瀕死の状態で横たわる男だった——。
中世の騎士を思わせる甲冑を着ているが、その甲冑は腹から下がもぎ取られており、からだのほうも胸から下がない。現実世界ならまごうことなき死体だ。
平平はおおきくジャンプすると、その死体が横たわる屋根に降りたった。
「なんだ。ランスのおっちゃんじゃねーか」
平平は死体に歩みよると、躊躇することなく声をかけた。
ランスと平平に呼びかけられた男は、下半身だけでなく顔も半分えぐられていて左半分しかなくなっていたが、その左半分の顔を奇妙にゆがめて笑顔を浮かべた。
「おいおい、ヘイヘイヘイ。『なんだ』はないだろ、『なんだ』は……」
声帯部分のデータ損傷のせいか、いくぶん嗄れた声になっているが、その声色からは少しはしゃいだ様子が感じられる。
「ヘイヘイヘイじゃねー、平平平だ」
「おー、そうだったか」
「頼むぜ。このあいだの体験入隊ンときから、ずっとまちがえっぱなしじゃねぇか」
「いや、すまねぇ。一度それで覚えたら変えられなくてな」
「年だよ、年!」
平平はそう悪態をつきながら、ランスの横に片膝をついて顔を覗き込んだ。ランスのあたまの上には、数字の「1080」の文字が浮かんでいた。さらにその数字のうえに手をかざすと、カラーチャートのような円が浮かびあがった。外枠こそ円になっていたが、実際には3分の2が欠けて、赤い色部分の扇状に残っているだけだ。
「それにしても正電霊媒師のくせに、ずいぶん、ボコられたもんだ」
「あぁ。面目ない——。だがな、あいつは30階層に『出る』って手配書がまわっていた『コールマイナー』と呼ばれる電幽霊だぜ」
「コールマイナー?。聞いたことある。たしか、戦略護符も操れないような下流霊だろ。なんでこんな53階層みたいな深いとこに『出てる』んだ」
「わからん。だが手配書がでまわるだけあって破壊力がケタ違いだ。浅い階層に巣くっているやつとは思えん。一撃で7~8000、『マナ』を削られるんだ」
ランスがため息をつきながら、平平に言った。
「75%の霊力をくらっただけで、このざまだよ」
「ざまねぇな。ほら、やっぱ、年なんだよ、年!」
「抜かせ!。おまえが異常なんだよ」
平平はランスの頭の近くに顔をよせると声を潜めるようにして訊いた。
「で、今回どうなってんのよ?」
「世界中の仮想世界網で、『同時多発憑依』が発生して、各支部、てんてこ舞いよ」
「そりゃ、研修生のオレたちが招集されくらいだからな」
「おいおい、ヘイヘイ、おまえ、浄霊しようなんて考えてねーだろうな。アイツは高校の一年坊のおまえの手に負えるレベルじゃないぜ」
「おっちゃん、オレを誰だと……」
「あーそれでもムリムリ。それよりおまえたちの担任に任せろ……」
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「——ってもな、取り憑かれたのは、オマエんとこの学校の生徒なんだ」
「マジで?」
「あぁ。希代の陰陽師の末裔、あの安倍明晴君の弟君だよ」
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