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第四章 第三節 Z.P.G.(25世紀のルール)

第978話 サイド8のフレイのこと

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 キラはふと月基地へ避難してきた、サイド8のフレイのことを思い出した。けっして仲が良い相手ではなかったが、先日思いがけず会ったことで、数回、連絡をとっていた。
 一緒に避難してきたコロニーのひとびとのこと、むかし一緒に遊んだことがある幼なじみたちの現在等々……

 過去の経緯もあったし、現在の立ち位置も変わったりして、すべてのことに共感できるわけではなかったが、キラはフレイとの会話を、それなりに楽しんだ。

 だが月基地での火星星系マーズ・サイドへの対応については、フレイは忌憚きたんなく不満をぶちまけた。

『ええ、わかってるわ。この施設が避難民を受け入れるために作られたわけじゃないってことをね。でもわたしたちの家族がどこに住んでいると思う?』
「フレイ、何度も聞いた。デミリアン訓練用の『シミュレーション・エリア』でしょ」
『そうよ。基地からすこし離れてるから不便ったらないの』
「でも地球の街並みを再現しているから、住み心地はわるくないでしょ?」
『街並みったって、表面だけでしょう。しょせん立体プリンタで造形したものよ。色もなくて味気ないったらないの。パパとママは気にしてないけどね』
「ニューヨークの街をシミュレーションしてるって聞いたけど……」
『はん、わたしたち火星星系マーズ・サイドの人間には、そのニューヨークとやらは、なんの有りがたみもないわ。ただごちゃごちゃして住みにくいだけ』
「そう。でも格納庫に押し込まれた連中よりマシだって言ってたでしょ」
『まぁね。あそこは個人スペースを『スペクトル紗幕』で囲っただけだから、シミュレーション・エリアよりも、条件がよくないのはたしか。でもこちらも快適でないのはおなじよ』
「フレイ。あなたたちが避難してきて、窮屈な思いをしているのは月基地の連中もおなじでしょう。アカデミーの子たちはシミュレーション・エリアでの訓練ができずにいるってこと、忘れないでいてあげて」

 言い返せなくなったのか、フレイは目をふせた。ボソリと呟く。
『ああ……はやくコロニーに帰りたいわ』

「もうすこしの我慢よ。酸素生成装置が修理できれば、すぐに戻れるわ」
『そうね。でもなんで酸素が足りないからって、わたしたち人間より植物や家畜が優先されるわけ?』

「フレイ、それもわかってることでしょう。この地球ではもう二百年以上も前から、ほとんどの生物も植物も育たなくなったんだもの。いまや人間以外の生きた物は、コロニー内で育っているものだけになってる。人間より優先されるのは当然の話よ」
『まぁ……それがコロニーの一番の産業だしね……』

「だから地球星系アース・サイドも、火星とコロニーの正常化に本腰をいれてるの。もうすこしの我慢よ」
『わかった。ありがとう……』
 フレイは笑った。消極的な笑いだったが、すこしは気分が晴れたのは間違いなさそうだった。

 キラはもう一度、モニタ画面で亜獣の位置を確認した。
 このまま亜獣が進めば、フレイの家族が居住地区にしているシミュレーション・エリアがもっとも最初に被害を受けるのは間違いなかった。
 強固なつくりではないエリアなので、すでに避難しているはずだと思ったが、ここが壊されることがあれば、フレイたちは家を失うことになる。

 なにがなんでもこのエリアに踏み込まれる前に、亜獣を倒す必要があった。

 キラはセラ・ジュピターのアクセルをぐっと踏み込んでから言った。
「ユウキ様、さっさと撃退いたしましょう」
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