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第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い

第945話 これって人間の限界だよね

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  ヤタが混乱したのがわかった。
 自分の斜めうしろのほうにいるレイのほうへ視線が誘導された。
 ボールを持っているのは、レイではなく、この素体であるはずなのに、レイが持っていると印象づけることで、憑依を入れ替えたとたん、素体ではなくレイを目で追ってしまったのだ。

 これって人間の限界だよね。

 ヤマトにはその一瞬の隙があればよかった。

 ヤマトは勢いよく最後尾へ走りだすと、そのまま肩から修復中の開口部分めがけて飛び込んだ。完全に塞がりきれてないバリアは、案外容易にくだけた。


 ヤマトのからだは数千メートル上空へ飛び出した。



飛び出した瞬間、真下にエトナ火山の火口部分の赤い火が見えた。
 
 これで任務完了だ!

 ヤマトの心が逸った。このまま、素体ごと火山に飛び込めば、ドラゴンズ・ボールは二度と修復不能な状態になる。


 だが、100メートルも落下しないうちに、ヤマトのからだがガクンという衝撃とともに中空でとまった。そんな衝撃を予想してなかったヤマトは、なにが起きたかわからなかった。

 な、なにが?

 宙ぶらりんになったまま、上をみあげる。

 自分の脚になにかが絡みついていた。そしてそれは中空に停止した観覧列車から伸びている。

『ヤマト・タケル! ドラゴンズ・ボールを落とせ!』
 セイントの逼迫した声が頭のなかに響く。

「落としたら確実に火口に落ちるのか?」
『確率は50%だ』
「ならダメだ。100%消滅させられないのなら、その提案は聞けない」
『ヤタが追撃してくる。そのままなら0%だぞ』

 セイントは怒声まじりに警告してきた。ヤマトにもそれはわかっていた。
 自分にからみついている糸のようなものをつかんで、上空からヤタが滑り降りてきているのが見えたからだ。糸をゆらす振動がこちらに近づいてくる。

『ヤマト・タケル。このままではヤタに捉まる。50%に賭けろ!』
「この糸は切れないのか!」
『切れる。だが容易ではない。とくに上空数千メートルで宙ぶらりんになっている状態ではな』
「なんとかしろ!」

 糸の揺れがふいにおさまった。
 自分の足のすぐ上の位置にヤタがいた。

「そんなことで出し抜けたと? 甘いですね。ヤマト・タケル」
 ヤタはからだをおおきく下に沈めて、顔を近づけてきた。
 ヤマトはふところからドラゴンズ・ボールを取り出すと、腕をめいっぱい伸ばした。
「そうかい。ぼくはもうこの手を離すだけだぜ」
「離してみてはどうです。わたしはかならずボールを守ってみせますよ」

 ヤタは自信満々だったし、ヤマトもヤタならそれを確実に実行できると感じていた。足を上にして吊るされているので、手を伸ばした状態なら、ヤタから一番遠い位置にボールがある、というのだけが、自分のアドバンテージでしかなかった。

「さあ、どうされます?」
 ヤタが上をみあげた。
「そろそろ観光列車が動きだしますよ」

「火山で溶解できなくても、チャンスはまだあるさ」


「ざーーんねん。ノーチャンスですよ。このバリアで守られた地域からでたら、ダイ・ラッキー様の本隊が待ち受けています」
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